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「それじゃ小雀君もここがどこか知らないんだね」
「…うん」
あの後パニクる小雀を宥め、大鷹は状況を説明した。
信じて貰えるか自信がなかったが、小雀は意外にもあっさりと受け止め、今では冷静さを取り戻している。
「そっか…」
小雀はやはりこの場所のことを何も知らなかった。
大鷹と同じように、見覚えもなければ、眠る前に何をしていたかも思い出せないようだった。
「大鷹くんの言う通り、どこにも出口なかったね…」
小雀と手分けしてもう一度部屋の内部を確認してみたが、やはり出口らしきものは何処にもなく、出られそうな窓も通気口も見つからなかった。
頼みの綱であった小雀さえも何が起きているのかわからない様子で、大鷹は落胆した。
「(いや、勝手に期待してただけだけど…結構ダメージでかいぜ…)」
大鷹は力なく小雀の隣に腰を下ろすと溜息をついた。
これからどうすれば、と一気に不安になってくる。
「…大鷹君、あの…僕達多分だけど学校にいたんじゃないかな?制服着てるし…」
「俺もちょっと思った…でも学校ならなんで俺達だけ…?他の生徒や先生は何処にいるんだろう」
「うーん。もしかして連れて来られたのは僕達二人だけだったり…したら怖いよね!ごめんね不安にさせるようなこと言って!」
「あ、謝らなくて大丈夫…」
慌てて謝罪する小雀をフォローしつつ、大鷹も小雀と同じことを考えていた。
もしその可能性があるのなら、どうして大鷹と小雀だったのだろうか?
腕を組み大鷹は考え込む。
「……っ、」
その横顔を見つめながら、小雀が困ったような表情で何か言いたげにしていた。
「…ぁ…の、僕…っ」
「そういえば小雀君、」
だが決死の思いで口にした言葉はあまりにも小さく、大鷹の言葉が遮ってしまった。
「あ、ごめん。何か言った…?」
「う、ううん!何でもないよっ…それよりどうしたの?大鷹君」
にこっと笑顔で誤魔化す小雀に大鷹は気が付かない。
「いや、えーと変なこと聞くんだけど…小雀君はさ、どうして俺の話を信じてくれたのかなって…」
「…へ?」
突拍子もないことを質問する大鷹に小雀は首を傾げた。
「こんな変な状況だし、俺が嘘ついてるとか思わなかったのかなって…」
いくら口で説明したところで、実際に大鷹が眠っているところを目にしていない小雀にとって、本当に大鷹も自分と同じように眠っていたかなんて知りようがない。
だから疑われると思ったのだ。
大鷹が小雀をここに連れて来たんじゃないかと。
勿論そんな事実はないのだが、それを証明することは大鷹には不可能だった。
「え、大鷹君嘘ついてるの?」
だが大鷹の不安も何のその、小雀はそんなこと考えもしなかったと言わんばかりの表情だ。
「…いや!ついてませんっ!」
「だよね、だって大鷹君は嘘つくような人じゃないって、僕知ってるから」
「え…」
微笑む小雀にドキッとする大鷹。
好きな人に信用されていて、喜ばない筈がない。
「それに嘘つくような人がわざわざ自分から嘘ついてると思わない?なんて質問しないと思うんだ」
「…そだね」
だけど次に続いた論理的な小雀の言葉に、そりゃそうだと納得し、舞い上がった気持ちが嘘のようにしゅんとした。
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