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第1話
紅葉side
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「あのっ、僕、ベースはみなちゃんにもらったやつを時々しか弾いてないよ…?」
「大丈夫。あんたの得意なバイオリンと同じ四弦だから。これから芽が出て伸びるかもしれないし。」
同じ4弦って…むしろ共通点はそこだけなのでは?
バイオリンとベースでは音楽におけるジャンルも役割も違うし、楽器の大きさも奏で方も違う…。
来日したばかりの日本で、幼なじみのイトコに手をひかれながら母国ドイツの田舎景色とはかけ離れた東京の街を早足でつき進む。
人が多くて目が回るけど、この街はいろんな人がいて面白い。
前を歩くみなちゃんの肩にはベースが担がれていて、僕の左手にはバイオリンの入ったケースが握られている。
つい先日、ドイツの地元高校を無事に卒業して、春から日本の音大に通うため来日。
音大の推薦は取れているけど、語学研修と日本での生活に馴染むために今は大学の付属高校に通っている。
一応学校内の試験をパスしないと進学出来ないからけっこう忙しい。
日本語は話せるけど、読み書きはまだまだ難しい…。
因みに住むところはみなちゃんのところに居候させてもらってる。
防音設備の整ったマンションで、小さい時みたいにいつも2人で練習している。
もともと勉強はイマイチだから進学するなら音大しかなくて。プラハの音大かお母さんの故郷である日本の音大が悩んでいた。
どうして日本にしたかって言うと…
ちょうど一年前にみなちゃんを通じて彼と出逢ったから。
僕にとっては初恋。
出逢ってすぐに一目惚れして、まだ大学の見学をしてなかったのにソッコーで日本行きを決めたんだ。
彼にちょっとでも近付きたくて、帰国してからベースという新しい楽器を始めて…
彼と同じ楽器にしなかったのは、同じだとセッション出来る可能性が減るし、何より彼の演奏はとっても上手で力強くて…とても敵わないと思ったから…。
ベースだったらバンド内でのリズム隊として役割り的にも繋がりがあるし、みなちゃんのバンドはベーシストが定着していないと聞いていたから…。
まぁ、独学だし、まだ全然下手くそだから僕が彼の隣に立てる可能性は少ないんだけど…。
でもずっと彼が忘れられなくて…
一年間この気持ちが変わらなかったらもう一度逢った時に告白しようって決めていた。
「ねぇ、みなちゃん…!
凪くんて今、彼女いるかどうか知ってる?」
去年はフリーだと言っていたけど、今はどうかな…
「知らない…そういう話しないし…。
多分特定の恋人はいないと思うよ?
いつも後輩とか男ばっかで飲みに行ってるから。」
「そっか!」
「…何、あんた本気だったのー?
えーっ?! サポートメンバーに推そうと思ってるのに凪狙いとか…!面倒くさいね…。」
「ひどい…っ。
応援してよ…!イトコでしょっ!!」
「まぁ…後押しはしてあげる。
あとは自分で頑張って?
あと、ベースも頑張って!」
「うん…?」
よく状況が分からないまま、音楽スタジオへと向かった。
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