103 / 144
第103話
※後半一部にNL表現があります。
1630都内スタジオ
紅葉が復帰して久々のバンド練習
今朝少しだけヴァイオリンとベースを奏でただけで練習と言えるだけの弾き込みは出来ていない紅葉…。
メンバーはそれを承知でも会おう、音会わせだけでもしようと言ってくれたのだ。
凪と紅葉がスタジオに入ると先に来ていたみなと光輝が"おかえり"と言って紅葉を迎えてくれた。
みなは少し厳しい口調で紅葉に確認する。
「他人の目が怖いんじゃこの仕事はやっていけないけど…大丈夫だよね?」
「うんっ。」
「良かった。…こんなことで負けたらダメだよ。ステージでは私が前、凪が後ろ、誠ちゃんが上手 、光輝くんがすぐ隣の下手(しもて)にいてみんなで紅葉を守ってるからね。」
「ほんとだ…っ!すごい…!」
「あと…これからはモデルの仕事は辞めて、バンドと学校に専念しなね。」
「でも…っ!」
ハンデのある妹を含めた家族のために仕送りをしている紅葉は少し不安なようだ。
「アルバムも好調だし、ツアーもチケットの売れいきがいいから当面の収入は心配しなくて大丈夫。
足りない時は俺も出すから…。紅葉、無理しないで。」
みなと結婚して紅葉とも親戚になった光輝は"紅葉くん"から"紅葉"と呼び名を変え、彼の家庭の事情をより詳しく聞いてくれた。
光輝も苦労してきたので、凪同様かそれ以上に親身になってくれ、紅葉はとても心強く安心した。
楽器の準備をしていると、誠一がギターの他に大きな紙袋を抱えてやってきた。
「おはよー。
紅葉くんおかえり!凪もお疲れ様ー!
はい、これプレゼント。」
「ただいまー。
わぁー、何ー? 重いね~。
誠一くんありがとう!」
「紅葉くんの欲しがってたいい匂いのするシャンプー、トリートメント、ボディソープと入浴剤!
凪と使って癒されてね。」
「わぁー、高級なやつだっ!!
これで僕も誠一くんみたいになれる…っ!」
「お前、わりと誠一のこと好きだよな?(笑)」
「憧れなの。いい匂いがして頭が良くてカッコいい!」
「ありがとう。」
誉められた誠一は嬉しそうに微笑んだ。
「紅葉…頑張っても頭脳は近付けないと思う…残念だけどね。
あとあんまり誠ちゃんばかり誉めてると凪の機嫌が悪くなるよ?」
みながそう言うと紅葉はハッとして凪を見上げた。
「浮気…?(笑)」
「違うよっ!やだ、凪くん怒らないでっ!」
必死になる紅葉は凪に抱き付いて泣きそうだ。
「はいはい…。冗談だよ。怒ってない。
でも誠一にはあんまり近付いちゃダメ。」
「分かったっ!」
「…心配しなくても恋人しか見えてない子に手出さないよ?」
誠一がフォローするが凪の言い付けを頑なに守る紅葉は恋人の背中に隠れてしまった。
「さてと、じゃあ音合わせしよっか(笑)」
光輝が仕切り直して各自立ち位置についた。
1800
「紅葉、今までの3倍、凪と練習してきてね。
ツアーリハまでに形にならないとサポートに戻すよ?」
「はい…っ!」
今日は音合わせが主で光輝はいつもより優しかったが、練習の締め括りに紅葉に釘をさした。
「5弦も弾き込めばどんどん上達するから頑張って。」
「頑張ります…っ!」
今回のアルバムのレコーディングにも取り入れて、ツアーでも5弦ベースを使用する予定なので、より練習が必要だと紅葉は気合いを入れる。
「そんな気負わなくても紅葉なら大丈夫だよ。」
凪の一言で嬉しそうに顔をあげる紅葉。
光輝も「期待してるね」と笑顔で言ってくれた。
誠一が「ご飯食べに行こうよー」と誘ってくれたので凪と紅葉は同行することにしたが、光輝とみなはデートらしい。
「新婚さんらしくていいね。」と言う誠一にみなは首を傾げた。
「デートっていうか半分仕事?
LiT Jがうちらがファイナルで使う会場でLIVEだからいろいろ見させてもらうの。」
「キャパ2800だからちゃんと演出考えないと…。機材の配置も確認したいし…、DVD撮影どっから撮るかとかも見てこないと!」
「仕事だな。」
「仕事なんだね。」
凪と誠一の声がハモった。
つい先日、1ヶ月みなのマンションに同居していた彼女の専属スタッフ、聴覚障がいのあるカナが一度実家へ戻ったのだ。
みなの「1ヶ月ここで暮らして一人暮らしへの自信もついたと思うけど、今までは全部やってもらってて…ご両親の愛情も分かったでしょう?
帰る場所があるって有難いことなんだよ?」
という助言で両親ときちんと話し合う決意をしたのだという。
指を怪我した日はみなの家に泊まったが、カナもいたのでもちろん何もなくリビングのソファーで寝て、7月に入ってからは事務所に私物を置いて泊まったり、誠一の部屋に居候していた光輝。
バンドリーダーで事務所の社長なのに寝泊まりする家がないなんて異様だったが、ようやく同居がスタートしたようで本人よりも周りがホッとしている。
「光輝くん、言われたことは出来るからね。」
「3ヶ月以内に言われなくても出来るようにならないと追い出されるから頑張ってるよ!
朝早くから仕事だとお弁当も作ってくれて最高なんだっ!」
「光輝くん…おにぎりをお弁当って言うんだよね…。レトルトを手作りって言うし…ラクでいいんだけど…大丈夫かな?」
完全に主導権は奥さん のようだが、光輝はとても幸せそうで、誰よりも家族に憧れていた彼は新妻をとても大事にしている。
「夜出歩いても補導されないっていいよね。」
ほぼ仕事だが、みなの機嫌も良いので2人はうまくいっているらしい。
このまま順調にツアーをスタート出来るように願ってメンバーは前を向いて歩み始めた。
ともだちにシェアしよう!