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第102話
9:36
クゥークゥー…カリカリ…と、部屋の前で平九郎がたてる音で目覚めた凪
「やべー…寝過ぎた…。
…紅葉…っ!起きれる?」
「うー…」
「俺、平九郎の散歩とメシやるから。
起きれるならシャワーして、そのまま洗濯機回しておいて」
「ふぁい…。」
おはよ、とキスをおくり、平九郎のもとへ急ぐ凪。
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散歩のついでに朝イチでスーパーに寄り、食材を調達した凪は簡単にブランチを作り、紅葉の前に並べた。
「今日曇りで助かったけど、もう夏だから散歩の時間気をつけないとなー。」
「そーだね…っ!
夜は僕が行くから…。」
「え、身体大丈夫ー?」
「もうちょっと休めば…っ!
あの、脚が…」
「ん? ツラい?」
「…キスマーク…っ!すごいいっぱいだったんだけど…!」
「そんなとこ誰も見ないからいーよね?」
「そうなんだけど… 」
今回の一件でどうやら凪のガードがレベルアップしたらしい。
紅葉の足の付根や太股にはキスマークがこれでもかという程に散らばっていて、さっきシャワーを浴びて改めて自分の身体を見た紅葉もビックリするほどだった。
凪曰く、"いざとなってもこんな痕つけるヤバいカレシがいる子には手出し出来なくなるレベル"らしい。
あとは念のため紅葉スマホのGPS追跡を凪のスマホとリンクさせ、小山内が触った鞄は処分して、新しい物を買い与えた。
本当は財布など鞄の中身も変えたかったのだが、紅葉がそのままでいいと言うので、キーケースの鍵だけ新しいものに付け替えた。
凪がそれで安心出来るなら…と受け入れる紅葉も紅葉だ…。
ブランチのあと、大家の池波に鍵の件を謝罪しに行き、今度は正真正銘の京都土産を渡す。
「ついでってか、またお願いがあって…
防音の部屋にエアコン入れたいんだけど…。」
凪がそう話すと池波は今まで凪から申し出がなかったので気にしていなかったと言った。
「リビングのエアコンをつけても暑いか?」
「一応部屋を冷やしてから籠るんだけど、しばらくすると暑くて…俺は扇風機あれば大丈夫だけど、紅葉がバテてる。」
「夏バテか…。土用の丑の日にうなぎでも差し入れてやろう。」
「うし? うなぎ?」
紅葉は馴染みがなく分からなかったらしい。
「あの、で、エアコン…!」
「贔屓にしてる工務店にすぐにやらせよう。」
池波にお礼を言って、2人は紅葉の大学へ向かった。
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夏休みだが、帰省や旅行に行かない学生…主に自宅に楽器の練習場所がなくて大学のレッスンルームを借りている子や学費のアルバイトのために残っている子がいるのだ。
ちょうど昼休憩だと言うので、連絡をとってテラスに集まってもらい、ヴァイオリン探しを手伝ってくれたお礼に凪の実家からもらった京都のお菓子を配る。
「紅葉くん良かったねー!
カレシ最強だってウワサだよー!」
「あいつ(小山内)親に泣きついて9月から留学するらしいからもう会わなくて済むよー!」
「夏休み終わってもちゃんと学校きてね!」
優しい友人たちにそう言ってもらい、紅葉も嬉しそうだ。夏休みの予定の話などで盛り上がる彼等に凪が切り出した。
「みんなホントありがとね。
で、Linksのツアーファイナル、東京公演のチケット欲しい人ー?」
凪の一言に皆が一斉に群がる。
チケットに手を伸ばす彼等に凪は付け足した。
「本題はここからで、希望者だけになるけど…このファイナル公演用でエンディングSEって分かる?
LINE終演後に流す曲があるんだけど、『eternal』のクラシックバージョンの演奏に参加したい人っている?」
学生である彼等にとって思わぬ演奏の機会に全員が驚きの声をあげる。
「それって生演奏ですかっ?!」
「ごめんね、今回はステージがそんなに広くなくて録音になるんだって。」
紅葉が申し出なさそうに補足して説明した。
凪も続ける。
「まぁ、今後もしかしたらって可能性はあるよ。学校側にもOKもらってて、練習とレコーディングに参加したい人はギャラは出せないんだけど、LIVE DVDのクレジットに名前がのるよ。
あと、交通費と練習場所のスタジオ代はうちの社長が出すって。」
好条件にみんなが食いつく。
「あと他の科の子も何人か誘って欲しいんだけど…。出来ればお金持ちの子とかじゃなくて、バイトとか頑張ってる子にお願いしたいって光輝くんが言ってるんだ。」
紅葉が頼むとみんな友人を誘いたいと話し始める。
「因みに全体的なリーダーはうちの社長の光輝で、普段優しいけど音楽のことになるとめっちゃ厳しいから覚悟してね。
みんなをまとめてくれることになったのが4年生の神谷さんだよ。」
そう凪が言うと全員が黙り込んだ。
「何? 神谷さんって光輝と同じ属性なの?」
「そうみたいー!
風ちゃんに聞いたら院に進んで指揮科にいくっていってたからスゴい人なんだね、きっと。」
紅葉は和やかにそう言うが、友人たちは青ざめている。
「お前もそっちのレコーディング出るんだからな?」
「休んだ分も頑張らないとね。」
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