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隠し事が叶った日 1
どうもはじめまして皆さん、僕は春園スズナ十六歳です。
早速ですが、人生最大のピンチでございます!!!
「ねぇ、好きでしょ?俺のこと。」
「……………んにゃ!!?」
僕に馬乗りになってニヤニヤと笑っているのは、双子の弟ナズナ。
同じ高校に入学した僕達はついに今日入学式を迎えて、いよいよ高校生だねって話しながら帰ってきた。
で、部屋に入った瞬間に押し倒されました。
「兄ちゃん、答えてよ。」
「っ!!?」
現実逃避を叱責するような鋭い声だって、怖いよりもカッコいいが勝る。
蛍光灯を背負って僕を見下ろしてくるナズナは、身内贔屓無しでかっこいい。
制服だって僕は馬子にも衣裳って感じなのに、ナズナはしっかりと着こなしている。
「はは、何言ってるの。僕達、家族でしょ?」
十年もずっと騙してきたんだから、咄嗟に嘘をつくのだってもう慣れてしまった。
その度に刻まれる傷の痛みには、いつまで経っても慣れないけど。
分かってる、この気持ちがいけないものなんだってことは。
でもナズナがかっこよくて、優しくて、どうしたって無視できないんだ。
この実らない気持ちを伝えようとは思っていない。
死ぬまで僕一人の中で抱えたまま、大切に大切にしようと思っていたのに……!
「そんなことどうでもいい、俺が聞いてるのは兄ちゃんの気持ち。」
「僕ら双子だよ?大事に思わないはずないじゃん。」
「大事に思ってくれてるのー?」
「そりゃそうだよ、血の繋がった兄弟だもん!」
ナズナは僕の心を見透かすような目で確信を持って問い質してくる。
じわじわと逃げ場が無くなっているのを感じつつも、あの手この手で必死にかわす。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌われるのは嫌だ。
同じ気持ちを返してくれなくていい。同じ重さを返してくれなくていい。
高望みはしないから。ちゃんと我慢するから。普通の兄弟でいるから。
暴かないで。そっとしておいて。
未だ押し倒されたまま、それを押し返すことも出来ず、ナズナと床に挟まれて身じろぎも出来ない。
口にできない想いがぐるぐると身体中を駆けめぐって、出口を探して渦巻いている。
思考はもう破綻寸前で鼻の奥がツンとした瞬間、ぽたり、頬に水滴が落ちた。
「なんで、教えてくれないの。」
ぽたり。
「なんで、俺に隠し事するの。」
ぽたり。ぽたりぽたり。
「兄ちゃん、俺のこと嫌い?」
そっくりの顔をくしゃくしゃに歪めて泣いている。
急速に体温が下がる。
これ以上隠し通すことはできないんだ。
四肢から力が抜ける。
これ以上背負い続けなくていいんだ。
相反するものが同時に沸いて、数秒。十年間の頑張りはあっけなく消えた。
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