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第4話

        ***  カーディフが常泊している外資系老舗ホテルの最上階にあるスイートルームに到着した途端、まずはバスルームへと引きずり込まれる。初めて彼に抱かれた夜、シャワーを浴びないと嫌だと言い張ったせいで、それからまずは絶対バスルームへ連れていかれるようになってしまったのだ。 「余裕がないんですか?」  自分の服を脱がせる男を一応窘めてみるが、彼の手が止まることはなかった。 「ないな、だが、それだけお前が魅力的だということだ」 「俺のどこが魅力的って言うんですか? 顔も別に可愛いってことはないし」  初めて抱かれたときから疑問に思っていることを口にする。倉持が瑛凰学園に居た頃は、オメガはもちろんだが、見目麗しいか、または可愛い容姿の人間のほうが男子生徒には人気があった。  倉持は昔からふてぶてしいと言われることが多かった。何に対しても飄々としており、生意気だった。はっきり言って抱かれるようなタイプではない。自分を抱きたいと思う人間がいるなんて、この男が現れるまでは一ミリたりとも思っていなかった。  シャツが腕から滑り落ち、自分の躰がカーディフの目の前に晒された。刹那、彼の瞳が熱を帯びたのを感じる。カッと躰の芯が羞恥に熱くなったのを誤魔化すように口を開いた。 「こんなごつごつの硬い躰、本音は抱いても楽しくないでしょうが」 「楽しいかどうかは、私が決めることだろう?」  彼の唇が首筋に触れてきた。ぞくっとした覚えのある痺れが下肢から沸き起こってくる。男というものは厄介だ。どんなときでも忠実に快感を感じ取ってしまう。 「趣味が悪いなって思っただけですよ。本当は女のほうがいいでしょう?」  目を眇めて言ってやるが、カーディフはそんな倉持の態度をなんとも思っていないようで、次は倉持のスラックスのベルトを外しながら、答えてくる。 「そうやって私が心変わりをするのを期待していても無駄だぞ。私は男が抱きたいんだ。女の代わりが欲しいんじゃない。男としての矜持を持つ人間を組み敷き、自分の腕の中で喘がせ、羞恥に染まる姿を堪能したいだけさ。心置きなく、な」  ニヤリと笑われる。 「……よくよく聞いたら、性格が悪いだけじゃないか」  ぼそりと呟くと、彼の笑みが一層深くなった。 「そうとも言うな。さあ、躰を洗ってやろう」  すでにスーツは全部脱がされていた。一糸纏わぬ姿でカーディフに躰を抱え上げられる。彼のほうが五センチほど身長は高いが、体格自体はそんなに変わらないように見えるのに、相当な筋力だ。そのスーツの下がかなり鍛えられているのを知っている身としては、複雑だ。  自分だけ脱がされていることに少しだけ不満を感じ、倉持は男に声をかけた。 「殿下はスーツを着て風呂に入る習慣でも?」 「すぐに脱ぐさ」  カーディフはそう言うと、倉持をバスルームへ下ろし、今度は自分のスーツを乱雑に脱ぎ捨てた。  彼の引き締まった躰が倉持の前に晒される。何度見ても、同じ男として憧れさえも抱いてしまうほど、均整の取れた躰だ。この躰にいいようにされるのだと思うと、なんとも居たたまれなくなり、わざとらしくないよう、そっと彼から視線を逸らした。  ガラス張りのバスルームからは東京タワーのライトアップされた姿がくっきり見えた。眼下に広がる夜景は華やかで、まるで東京の夜空に浮かんでいるように感じる。  ここに来たのは三回目だ。それは彼とセックスをした回数と同じになる。  目の前のジェットバスにはすでにお湯が溜められていた。その傍に立っていると、背後からカーディフが抱きしめてくる。刹那、ぞくぞくとした痺れが背筋を駆け上がってきた。そのまま躰を反転させられ、彼と向き合うように立たされる。すると、カーディフが膝を折り、倉持の足元に跪いた。 「殿下……?」 「閨ではカーディフと呼べと言っただろう?」  彼が下から見つめてくる。心臓の辺りがぞわぞわとした。もう彼の男の色香にやられているのだろうか。 「っ……ここはまだ閨ではありませんから」 「なるほど」  彼が意味ありげに笑みを零した途端、倉持のまだ萎えていた下半身を掴み上げ、躊躇いもなく口腔に含んだ。 「なっ……」  思ってもいない行動に、一瞬頭が真っ白になった。だがすぐに我に返り、自分の下半身を吸い上げるカーディフの頭を引き剥がそうと、その頭に手をかけた。だが、 「一度達しておいたほうが、お前のためだぞ」  反応し始めていた倉持の劣情から一時的に唇を離し、そんなことを言ってくる。そして屹立の先端をぺろりと舌で舐められた。カーディフの頭を掴んでいた指先から力が抜ける。 「んっ……だから、先にシャワーを浴びさせろって……前から言って……るっ……」 「ああ、お前の中に挿れるのは、お前の意見を尊重して風呂に入ってからにしよう」 「だ……あっ……」 「大事に抱くためだ。お前の処女を貰ってから、まだ三回目だ。まずは筋肉を弛緩させなくてはな。ここで一回達っておけ」 「いかにも俺の……ため、みたい……に……ぅ……言う……な……あぁ……」  思わず腰を引くと、すぐに片手で力強く引き寄せられた。そしてそのまま倉持の臀部を弄ると、その狭間に息づく小さな蕾に指を滑り込ませた。 「えっ……」  指が違和感なく倉持の中へと入ってくる。疼痛の代わりにフルーツの甘い香りがした。先日も使われた催淫剤入りの潤滑油だ。どうやら気づかないうちに今回も使われたらしい。今さらながらに彼の手際の良さに戸惑うしかなかった。 「あっ……」  彼の指がちょうどいい場所に当たる。そこを意識的に強く擦られた。 「ああぁぁっ……」  同時にまた先端を強く吸われ喘がされる。後ろの秘部は潤滑油のお陰で、痛みを発することなく、ただ快感だけを追い始めていた。  ぐちょぐちょといやらしい音がバスルームに響く。  前と後ろを同時に責められ、男とのセックスはまだ初心者レベルの倉持には、到底敵うはずもなかった。すぐに白旗を上げる。 「はあぁ……くそ……出る……出るから……離せっ……あっ……くっ……あぁぁ……」  恥ずかしいほど呆気なく達かされてしまった。しかもカーディフの口の中へと吐精したことにも眩暈を覚える。 「あぁ……強く……吸うな……あぁぁぁっ……あんた、どういう神経して……る……くっ……はぁ……っ……」  敬語も何もあったものではない。下肢に顔を埋め、まさに倉持の精も魂も喰らい尽くそうとする男にとても敬う気持ちなど生まれるわけがなかった。 「ああぁぁぁぁぁっ……」  足腰から力が抜けがっくりと床に頽れそうになる。そこまでになって、やっとカーディフが下肢から顔を上げた。倉持が倒れそうになると、すぐに立ち上がり、胸へと抱きとめた。 「濃いな。どうやら真面目に働いていたようだ」 「はぁ、はぁ、はぁ……俺のいつ、どこに……おねーさんと……遊べるような、っ……時間があるんだ? そんなの……濃いに……決まっている……っ……」  ここはもう開き直るしかなかった。見栄を張っても仕方がない。 「まあ、その通りだな。今夜はそれも含め、お前の鬱憤を取り去ってやる」 「っ……鬱憤だけじゃない。あんた、俺が動けなくなるまですべて食い潰す気でいるくせに、謙虚なことを言わないでください」 「ああ、そうだな。大体、元々残すことは好きではないんだ。出されたものはすべて食べることにしている」 「出してないっ……あっ……」  文句を言っているうちに、再び抱え上げられ、そのままジェットバスのバスタブにカーディフと一緒に沈んだ。  ほどよい温度に保たれた湯船は、もし一人で入ったのなら、徹夜明けの疲労を大いに癒してくれただろう。バスルームからの眺めも最高で、言うことがなかったはずだ。だが、現実はカーディフと向かい合って彼の膝の上に乗せられていた。  こちらを見つめるカーディフの瞳があまりにも甘やかで、見ていられない。この男が自分に興味を持っていることは、最初からわかっていたが、今もその状況にまだ慣れないし、優越感にも浸れなかった。 「お前のここを今夜もしっかり解さないとならないからな」  ここと言いながら、倉持の双丘の狭間に隠れる秘部を指の腹で擦られた。そんなところを触れられただけでは何も感じなかったはずなのに、今夜はどうしてか甘い震えが走った。ここで快感を覚えることを知ったからであろうか。  彼の愛撫に素直に反応してしまうことに悔しさを覚えながら、どうにかして冷静さを保とうと、昨夜のことを尋ねた。 「――昨夜、聖也さんに会われたんですよね? 殿下はああいう感じがタイプじゃないんですか?」  なんとなく嫉妬しているようにも聞こえる質問に、自分自身でもしまったと思ったが、声に出してしまった以上、なかったことにはできない。シラを切って、なんでもないような顔をした。案の定、彼が面白そうな顔をして答える。 「タイプか……。そう勘繰られても、私はお前の作戦に手を貸しただけだが?」 「勘繰るって……別に嫉妬して聞いているわけじゃないですよ」  つい言わずにはいられず、口にしてしまう。お陰でカーディフがさらに笑みを深くした。 「まあ、お前がどう思おうとも、私は人のものに手を出すことはしない平和主義者だ。東條聖也に、性的な意味で興味はない」 「性的な意味では……って。じゃあ、他の理由では興味があるということですか?」  カーディフがどんなことに興味を抱くのか、なんとなく気になった。 「アルファオメガとしては興味ある。なかなかお目にかかれないバースだからな」  もっともな答えを返され、少しだけがっかりする。 「確かにそうですね」 「あの男はお前の先輩にあたるんだろう? なかなか肝の据わった男だった」 「ええ、昔から聖也さんはある意味将臣よりしっかりしていました」  高校二年生のとき、将臣が生徒会の会長をし、無理を言って、当時三年生であった聖也を副会長に任命したのを、昨日のことのように覚えている。  アルファであった聖也を用意周到にオメガへと変異させていった将臣の執念は、恐ろしいほどのものであったが、彼の聖也への愛情は当時から痛いほど伝わってきた。あの深く切ない愛情を、聖也はすべて受け入れたのだ。  あれから十一年。将臣は今なお真摯に聖也を愛し続けている。つがいの絆の深さを思い知らされるようだ。  ふと目元に唇を寄せられる。正面を見つめると、彼が真剣にこちらを見ていた。 「少し妬けるな。お前は聖也という男のことが好きなのか?」 「ラブじゃありませんが、好きでしたよ」  過去形だ。 「優しい先輩でしたからね」 「意味ありげだな」  カーディフが小さく笑いながら、今度は唇にキスを落とした。そしてそっと唇を離す。 「もう柔らかくなっているな」  カーディフの指が双丘の狭間に息づく秘部に触れた。 「……ふっ」  途端、艶めいた息が漏れてしまう。その失態に、彼の口端が楽しそうに上がった。まったく癪に障る表情だ。倉持のプライドが疼く。 「はっ、いつも思うんですが、俺を抱くのに、いやに時間をかけますよね。もっと貪欲に貪られると思っていたけど、あんたも実は俺を抱くの、無理しているんじゃないですか?」 「無理しているかどうかは、今から教えてやるさ。それに、早く抱かれたいなら、そう言え。遠回しで言われても可愛いだけだ」 「な! 誰が、遠回しで……あっ……」  いきなり腰を掴まれたかと思うと、そのまま彼の屹立の上へと導かれた。彼の肉欲が臀部を押し分けて入り込んでくる。そしてその狭間にある窄みに先端が触れた。ジッと焦げるような熱を含んだ生々しい感覚に、倉持は思わず表情を歪めた。 「ふっ、そうやって嫌がる顔もいいな。挿れた途端、その顔が蕩けるのが見ものだ」 「性格が悪いっ……」 「知っている。今さらだ」  そう言って、彼の劣情が一気に倉持を貫いてきた。 「はっ……あぁ……」  目の前に火花が散る。快楽の火種に熱が注ぎ込まれるようだ。この男によって燻り続けていた愉悦が、解き放たれたかのように倉持の全身を駆け巡る。こんな偽物の快楽は、絶対催淫剤のせいだ。 「あっ……く……はっ……」  ぞくぞくとした痺れに、喉を仰け反らせて耐える。皮膚の下で燃えるように熱い何かが蠢き、倉持を翻弄した。自分さえも知らなかった躰の奥まで男の熱が入り込む。  怖い――。  どんな現場でも感じなかった恐怖が、どうしてかこの男を前にすると奥底から湧き上がってきた。何なのかわからない。彼がエクストラ・アルファだから、本能的に恐怖心が生まれるのだろうか――。 「くそっ……」 「素直に快楽を認めろ。熱を分かち合うことに集中すればいい」  彼の思うままに腰を上下に揺さぶられる。どうにか抵抗しようと彼の胸板に手を突っぱねて止めようとしたが、腕を取られ、さらにまた奥まで牡を呑み込まされる。 「はああっ……」  盛大な嬌声を零すと、カーディフが目尻にキスを落とす。 「上手だ、ケン」  ケンというのは、倉持の下の名前『健司』からカーディフが勝手に名付けた愛称だ。何かあるたびに彼は倉持のことを甘い声で『ケン』と呼ぶ。普段から勝手に愛称を作るなと抗議するが、そう呼ばれると、倉持の躰の芯に甘い痺れが生まれるのも確かだった。  これもエクストラ・アルファの力だというのか――。  どこまでが彼の力で、どこまでが快感による錯覚なのかがわからない。警察庁でバース管理の特殊訓練を受けている倉持でさえも判断できないのだから、きっと誰にもわからないだろう。 「――まったく、心、ここにあらずだな。私に抱かれて、そうもよそ事を考えるような輩はお前しかいない。こちらに集中しろ」  集中しろと言いながら、カーディフが腰を揺らしてくる。バランスを崩しそうになり、慌てて彼の肩に手を置くと、無防備になった胸に彼が顔を寄せた。 「っ……」  左側の乳首をきつく吸われる。 「この左側の乳首の下にお前の心臓があると思うと、愛しさも増すな」  手のひらで左の胸を揉まれながら、その指の股から顔を出す乳頭を甘噛みされる。まるで心臓ごと愛撫されるような錯覚に陥った。 「っ……」  倉持に見せつけるかのように、ゆっくりと舌を乳頭に絡ませる。そして歯を立て、粒の硬さを愉しんでいるようだった。 「く……はっ……」  男は倉持の快感を得ているのを承知で、じわりじわりと責めてくる。二人の下腹に挟まれた倉持の下半身は、悔しいほど反応していた。 「私に抱かれて三度目だが、乳首だけでそんなに感じるのか?」 「乳首で……感じてなんか……いない……っ……戯言も大概に……しろ……っ……」  下肢に催淫剤を仕掛けられて、快楽に溺れているのは仕方がない。それでも乳首で感じていることは、絶対認めたくなかった。そんな躰にされてはたまらない。  だが、カーディフは容赦がなかった。その答えが不服だとばかりに、もう一方の乳首を指で摘まんできたのだ。刹那、倉持の脳天に痛烈な刺激が駆け上がった。 「あぁぁっ……くっ……あんた……くそっ……」 「まったく……私にクソと言って無事なのはお前だけだぞ、ケン」  優しい声で囁かれ、子供をあやすように軽く揺さぶられる。だがそれは優しさからではなかった。倉持が快楽で苦しむようにわざとしているのだ。 「なら……何か適当に……罪名でもつけて……俺をあんたの……いないどこかに……飛ばせば……いいだろっ……」 「飛ばす? どうしてだ? 飛ばすくらいなら、私の宮殿に閉じ込めたほうが面倒じゃないだろう」  その言葉に、一瞬倉持は固まった。さすがのバース課も、一国の、しかも友好国である王子相手にどこまで抵抗できるかわかったものではない。外務省預かりとなって、うやむやにされ、結果的に理由をつけられてこの男の国に連れていかれる可能性が高い。  倉持の顔色が変わったのを感じたのだろうか。カーディフがそれまでの意地悪な様子を潜め、柔らかく笑った。 「ふっ……冗談が過ぎたか。心配するな。私は籠の鳥にはあまり興味がない。空を悠々と飛ぶ鷹を躾けるほうがぞくぞくする」  それも嫌な話だ。顔を顰めてやると、彼が笑みを深くした。 「仕方ない。お前を怖がらせた詫びだ。一度達かせてやろう」 「何が詫びっ……あぁぁぁっ……」  それまでまったく触れられていなかった倉持の下半身をカーディフが柔らかく握り、強弱をつけて擦り上げてきた。呆気なく達かされる。 「あぁぁぁぁぁ……」  ドクッという大きな波が押し寄せたかと思うと、倉持の劣情が破裂した。お湯にとろりとした白い液体が交じり合う。同時に彼の胸にも残滓が飛び散っているのを目にしてしまった。  居たたまれない。 「早いな。さすがは若いということか」  莫迦にされたような気がして、己の腰を支える男を睨みつける。下肢に力を入れて、この男の肉欲を締めつけたつもりだったが、達かなかったようだ。男が余裕な表情を浮かべ、倉持を見下ろしていた。 「は……あんたも……早く、っ……達けよ」 「達かせてくれるか?」  甘く囁かれ、その声だけで彼を咥え込んだ媚肉が収斂するのがわかる。同時に彼がにやりと笑った。どうやら倉持の躰はたった三回のセックスで、この男が悦ぶ方法を身につけてしまったようだ。 「……あんたが達かなきゃ、俺も解放してもらえないんだろうが」 「その通りだ」  きゅっと今度は右の乳首を抓られる。そして突起を押し込めるように捏ねられた。 「そろそろ私を達かせてもらおうか」  男の低く甘い声に、倉持の背筋が震えた。彼のテリトリーに取り込まれた感覚をひしひしと抱くが、もう逃げることはできなかった。そのまますぐに腰を持ち上げられ、カーディフの欲望が引き抜かれる。息を吐く暇もなく、一番奥まで貫かれた。 「はぁぁぁ……ぁ……ふっ……」  達ったばかりの倉持の下半身も彼の勢いに釣られ、再び頭を擡げ、そしてカーディフの下腹に勢いよく当たり始めた。  眩暈がした。もはや己の昂ぶりを抑えることができない。  カーディフもそんな倉持の腰を掴んで、容赦なく上下に激しく動かした。 「ああっ……もうっ……ああぁぁっ……」  再び己が吐精したのを感覚で知る。だがカーディフの動きは止まることを知らず、倉持は自分の中に熱い飛沫が弾け飛ぶのを感じた。 「なっ……あんた、ゴム! あぁっ……」  カーディフがコンドームをつけていなかったことを今さらながらに思い出したが、もう後の祭りだ。 「後でちゃんと始末をしてやる」  中が濡れる感覚など、生まれて初めての体験だ。 「最悪だ……っ……くっ……」 「お前的には、私に抱かれて最高だと思わなくてよかったんじゃないか?」 「言ってろっ……あ……んっ……う……」  歯を食い縛ろうと思っても、激しく揺さぶられそれさえもできない。零れ落ちるのは文句ではなく嬌声ばかりだ。 「まだ夜は始まったばかりだ。今夜は私に付き合ってもらうぞ」 「くそ……性欲魔人めっ……」 「私には褒め言葉だな」  下肢からカーディフの楔が抜かれる。ほっとしたのも束の間、そのまま反転させられ、バスタブの縁に手をつかされたと思った途端、背後から貫かれた。 「あぁぁぁっ……」 「こちらのほうが、まだ負担も少ないだろう?」  優しげに問われるが、それは声だけで、腰の動きは益々激しさを増し、倉持を追い詰めてくる。 「あぁっ……」  カーディフが動くたびに、大きく湯が波打つ。その波に意識を呑まれながら、倉持は快楽に溺れていった。

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