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身の置き場所(後篇)
「抱かれたか」
銀之助の言葉に、藤次郎はきつく唇を噛みしめる。
この任務を任された時から、こうなることはもうわかっていた。だが、好いてもいない相手に明け渡すのは藤次郎の本心ではない。
「俺の心は貴方だけのものだ。誰にも渡さない」
唇の戒めを解くと、彼は自分に言い聞かせるようにして静かにそう告げた。
すると、藤次郎に陰が被さる。
「っふ……」
薄い唇が藤次郎の唇を吸い上げた。
藤次郎の荒れた心が静まり、彼の後頭部に手を回す。
藤次郎に与えられたほんの束の間の接吻に、身体が熱を持ちはじめる。
だが、銀之助は男に夜通し抱かれ、疲労している藤次郎を組み敷こうとはしなかった。
藤次郎を労り、肩を撫でる。
その手は思いやりが込められていた。
「可愛いことを言う。今だけはゆっくり休め」
「だけどあの男が……」
いつ目を覚ますかわからない。
自分が傍にいないと勘づけばおそらくは身の上を疑われるだろう。
「案ずるな、あの男。相当貪欲な奴だ。夜通しお前を抱いたのであれば、おそらく日中までは起きまい」
肩を撫でるその手が心地好い。
藤次郎は銀之助の言葉のまま、ほんのひとときの安らぎを得るのだった。
―身の置き場・完―
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