20 / 20

微睡み

(八)  今頃、おはなはどうしているだろうか。おそらくは町名主に可愛がられ、すくすくと可憐に育っているに違いない。 「……元気にしているかな」  三年前を思い出し、藤次郎はあの頃の空と重ねる。 「お前に懐いていたからな。近々会いに行ってみるか」  銀之助もまた、藤次郎と共に三年前のあの日を思い出していたようだ。常に引き結ばれていた唇には微笑が浮かんでいる。 「うん」 「では、それまでは俺が藤次郎を独占するとしよう」  銀之助の腕が藤次郎へと伸びる。 「俺の心は何時だって貴方で満ちている」  藤次郎は自ら身体を開き、銀之助を受け入れる。  穏やかな昼下がり。藤次郎は好いた人と共にいられることの喜びを味わっていた。  ―番外編・完―

ともだちにシェアしよう!