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第1話

 「ちっ、あと少しだったのに。ぷちキュアの奴らめ」    夕焼けの街の中で悪の組織のボス、トガリは延々と愚痴っていた。トガリのスーツはぷちキュアのラブビームにより、ビリビリに破れている。トガリは今、ぷちキュアとの戦いに破れ、部下の運転する専用車、もとい自転車に繋いだリアカーに乗り、悪の組織の本拠地に帰るところだった。  「ほんと、毎度毎度惜しいですよね。もう少しで、ボスの乳首が拝めたのに....」  「なんだ、なにか言ったか?」  「いーえ、なんでも」    どうやら、怒りで沸騰しているボスの耳には、したっぱ構成員ホムラの声は聞こえなかったらしい。まあ、したっぱ構成員と言っても、悪の組織にはボスを含め二人しかいないのだけれど。  「というかボス、口閉じないと舌噛みますよ。信号そろそろ変わるんで」  「....ん」  ホムラがそう言うと、トガリはすぐに口を閉じた。悪の組織のボスなのに、こういうところは素直なのだ。    トガリは黙っていると、本当にきれいだとホムラは思う。つんとやや尖った鼻や、涼やかな目からは自然と教養の深さが醸し出されている。ホムラはたまに忘れそうになるが、トガリはかなり頭がいいのだ。    トガリは、世界中の人の電子機器を同時に操ることができる。また、本当の事しか喋れなくなる薬、人を認識して一度絡み付いたら、けして離さなくなる触手などを開発することもできる。トガリが本気を出せば、世界征服も夢ではないのかもしれない。    けれども、トガリは賢いが中身はかなりのポンコツだ。    実験中に、うっかり触手に絡み付かれてしまい、触手のいいようにされてしまったり、誤って本音を話してしまう薬を飲み、初めて一人でした時のことを、洗いざらい話してしまったこともある。なのでホムラは、世界征服は限りなく夢に近いと思っている。    車道の信号が赤に変わると、歩道の信号はまだ赤だったが、ホムラはすぐに自転車をこぎ始めた。  「おい、まだ信号赤だったぞ」  トガリは端正な顔を神経質そうに歪ませて言う。  「ルールは守らなきゃダメだ」    ホムラは、ついさっきまで、人の負のエネルギーを集めるために、町中の人にスゴークフトール薬をいれた菓子を売り捌いていた人の言葉かと思ったがそれは黙っておくことにした。    「すいません、ですが」  「ですがなんだ?」    「いや、あの....、ボスは恥ずかしくないんですか?」  「.....っ」  さっと、トガリの頬が朱色に染まる。  「それはあれか?俺が年端もいかないガキに負けてこんな醜態を晒していることについてか?」  トガリは、ガタッと立ち上がり、確実に何人かは殺していそうな目で、ホムラを睨む。    「ちょっ、そういう意味で言ったんじゃないですよ。」    思いがけなく、地雷を踏んでしまい、ホムラは焦った。    「街の人の目が気にならないのかって意味ですよ。ただでさえ、目立つ格好しているのに、こんなのに乗って走っているから見られまくって恥ずかしいって言っているんです」  信号待ちの時間すごく見られたでしょう、と同意を求めるように言うがトガリにはピンと来なかったらしい。  「街の人の顔色なんて気にしていたら、世界征服なんてできないぞ」  トガリは少しムッとした表情をする。けれども、さっきホムラが口を閉じてと言ったせいなのかは分からないが、それ以上はなにも言わず、黙って座った。    「そういえば、お前その格好で暑くないのか?」  次に赤信号で停止した時、唐突にトガリは聞いてきた。そう言われて、ホムラは自分の服装を見直す。真っ黒なコートをフードまでかぶり、顔には牛のような角を生やした悪魔のお面をつけ、黒い手袋をはめている。いかにも変質者という格好だ。  「まあ確かに、真夏にする格好ではないですよね。でも、8年ぐらい毎日この格好しているんで、さすがに慣れました」  「そうか」    トガリは自分から聞いたわりに、興味なさげに言った。

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