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第2話
「着きましたよ」
「....ん」
ホムラが、自転車を止めてトガリに話しかけると、トガリは眠たげに目を擦りながら、気の抜けた返事をした。後半から随分おとなしくなったと思ったら、眠かったかららしい。
「うわー、その顔もエロいですね」
「ん、なにか言ったか?」
「いえ、なんでも」
今回は眠気のためか、またホムラの声が聞こえなかったらしい。
本拠地には着いたものの、ボスは目をぱちぱちと動かすだけで動く気配はない。
「ボスー、いい加減動いてください。じゃなきゃ犯....」
「運べ」
ボスの声は、ホムラの言葉の大事な部分に被さった。
ボスの声は高圧的だったが、顔は相変わらず眠たげだった。
「へーい」
ホムラは返事をして、トガリを抱き上げた。おっ、と思う。いつもなら、おんぶ以外は嫌がるのだか、今日は抱っこをしても抵抗がなかった。よほど眠いのだろう。お姫様だっこにすればよかったと、ホムラは後悔した。けれども、抱き抱た時に、トガリがんっという艶を含んだ声を出したので、そんなことはどうでもよくなった。
「今の誘ってたんですか?」
「なににだ?」
今回はちゃんと聞こえていたらしいが、意図はわからなかったらしい。
「いえ、やっぱり、なんでもないです」
「そうか」
しばらくすると、トガリはすやすやと寝息をたてて寝始めた。先の戦いで、余程疲れていたのだろう。話しかけても起きる気配はない。
悪の組織の本拠地兼自宅までの行き方は、少々面倒くさい。まず、自転車を止めた場所から、少し離れた空きビルに入り、そこのエレベーターで地下に行く。地下には全長10㎞位の地下通路があり、その途中の壁に隠し扉がある。その扉を押すとやっと本拠地だ。
何が言いたいかというと、この長い距離を成人男性を抱っこして歩くことは、体力的に辛いということだ。ホムラは、トガリからするいい香りと少しの汗の臭いおかげで頑張れていたが、そろそろ限界が来そうだった。
「ボスー、そろそろ降りてもらっていいです?」
ホムラが話しかけるも、全く反応がない。
トガリは小柄だが、筋肉質なので173cmで75kg以上ある。そろそろ本気でホムラは腰がどうにかなりそうだった。
「ねー、ねー、ボス?」
今度は背中をとんとんと叩きながら言うが、やはり反応はない。トガリはかなり寝起きが悪い。これはしばらく起きないパターンかもしれない。
「ちょっと、勘弁してくださいよ」
地下通路にホムラの声が響くが、トガリは当然のように起きなかった。一瞬、地下通路に置き去りにすることも考えたが、すぐに頭の中から消えた。それよりも良いことを思い付いたからだ。
「起きないあんたが悪いんですよ」
深呼吸してからホムラは、トガリのおしりに当てていた手で、トガリのおしりを揉む。ホムラはその瞬間叫びだしそうになった。柔らかい。柔らかすぎる。トガリの体はよく鍛えあげられているせいで、どこもかしこも硬いが、おしりだけは例外だったようだ。とても成人男性のおしりには思えなかった。例えるなら、乳幼児のほっぺただ。
「....ん」
トガリが、小さく声を出した。揉まれたことにより、目が覚めたのかもしれない。ひゅっとホムラの肝が冷えた。
「目、覚めちゃいました?」
トガリの返事はなかった。
今のは、たまたまだったのかもしれない。
「脅かさないでくださいよ」
ぴんっ、とトガリのおしりを指ではじく。
「んっ」
びくっ、とトガリの体は震えたが、今度も起きなかった。
「おお.....」
ホムラは、思わず歓喜の声をあげた。普段、ホムラを鼻で扱うトガリが、今はホムラのいいようにされている。ホムラの胸に優越感が込み上げてきた。
起きそうになったらやめればいいかと思い、揉むことを再開する。ホムラはすっかり、一揉みごとに広がるマシュマロのような感触の虜になっていた。ホムラは、無遠慮にふにふにと揉み続けるが、幸い、トガリの起きる気配はない。
けれども調子に乗ったホムラが、わしっと強く揉むとさすがに起きてしまったらしい。
「.......っ、お前何してる!!」
がばっと上半身をホムラから離して怒鳴る。顔は怒りと羞恥のために真っ赤にしているが、目付きの鋭さは猛禽類のそれだ。
ホムラは一瞬しまったという顔をしたが、お面を被っているので、トガリにその顔が見られることはなかった。
「どうしたんですか?いきなり、ちゃんとくっついてないと危ないですよ」
ホムラは驚きの中に怪訝さの混じった声を出した。
「えっ、いや、でもお前今俺のケツを.....」
「俺がボスのおしりをなんです?」
ホムラは不思議そうな声を出し、首をかしげて見せた。
「....っ」
トガリは困惑した。確かに今、ホムラにおしりを揉まれた気がする。でも、ホムラの反応からすると、気のせいだったのかもしれない。ホムラの真意を伺おうとするが、顔全体がお面でおおわれているため表情はわからなかった。
「くそっ」
トガリは、そう言ってまた体をくっつけた。どうやらそれ以上追求するのは止めるらしい。ホムラは、ほっと胸を撫で下ろした。トガリがちょろくてよかったと心の底から安堵する。
「お前ずるいぞ。お面被っているせいで表情が全くわからない」
怒りは最終的にそこに落ちるらしい。
「というかお前はなんで、四六時中お面を被っているんだ?飯を食うときや、寝るときぐらいはずしたらどうだ」
「酷いですよ、ボス。あんたが俺の顔が生理的に無理って言ったから、ずっと被ってるのに」
「俺、そんなこと言ったか?」
トガリは、怪訝そうな目でホムラを見る。
「忘れちゃったんですか?言いましたよ、前。お前の顔は、心臓に悪いからずっと付けとけって。俺の顔が生理的に無理だから、見ていて心臓が悪くなるんでしょう?」
「......っ、それはそういうことじゃ.......」
トガリは、ホムラの顔を見ながら吃る。
「じゃあ、どういう意味です?」
「.....っ」
トガリは押し黙ったままだ。否定しないと言うことは肯定するということだなと、ホムラは思った。
「無理に気を使わなくていいですよ。俺はボスにどう思われていようが、別に、どうでもいいんで」
ホムラがそう優しい声で言うと、トガリはいきなり、足のかかとでホムラの背中を蹴った。
「......っうぅ......」
ホムラの口から声にならない叫び声が出る。トガリは、どうやらひどく怒ったらしい。けれどホムラは、自分の言動を見直してみても、なぜトガリが怒っているのかさっぱり分からなかった。
「なんでいきなり蹴るんですか!?」
「......」
ホムラが大声で抗議するも、トガリは返事をしない。ホムラは何故かは分からないが、トガリがかなり拗ねていることは分かった。トガリは基本的にちょろくて扱いやすいが、よくわからないところで怒り出すので困る。
「とりあえず、人を蹴る元気があるなら、自分で歩いてくれません?」
「......」
「ちょっと、ボスー?」
ホムラが、背中をとんとんと叩くも、トガリはきれいに無視する。結局、ホムラは残り3kmをトガリを抱いたまま歩き、腰を痛めた。
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