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学祭騒動再び~最終日・嗚咽~④
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頭を撫でられる感触で目を覚ました。
薄く目を開くと、オレを見下ろす皇と目が合った。
もう……朝?
ベッドの中は、まだ暗い。
「起こしたか?」
「……ん」
「まだ寝ておれ」
「……帰るの?」
毒見役の家臣さんが来る時間になるのかな?
「ん?……帰らぬ」
皇は、オレの髪をさらりと撫でた。
「え……毒見役さんは?」
「今日は来ぬ」
「え?なんで?」
「話せば長い。まだ眠いのであろう?気にせず好きなだけ寝るが良い」
皇が、オレのおでこにキスをした。
皇……急いで帰らないでいいんだ。でももう、オレも目が覚めちゃったよ。
布団の中で、んーっと足を伸ばすと、足の先に、ぐちゃぐちゃになった着物だろう物が当たった。
「あ、お風呂入りたい」
昨日……あのままお風呂も入らず寝てしまった。首のあたりがペタペタする。
「声が掠れておる」
皇はそう言って、オレをギュッと抱きしめた。
「喉が痛むか?」
皇の胸に押し付けられた頭を小さく横に振った。
「どこかつらいところはないか?」
皇って……ホント心配症なんだよね。
今度は小さく首を縦に振ると『そうか』と、優しい声が降って来た。
「……お風呂」
「ああ……ここに風呂はない。風呂なら、零号温室が一番近い」
「じゃあ、温室行ってくる」
ここから零号温室まで、どれくらいかかるだろう?昨夜は皇に手を引かれて、ふわっふわした感じで来たから、時間の感覚もなかったし……。
田頭たちは学校に泊まったのかな?今日、学校は休みだから、本当なら誰かに会う可能性はほとんどないだろうけど、田頭たちが夕べ学校に泊まっていたとしたら、どこかでばったり会う可能性も考えられる。
そんなの……めちゃくちゃ恥ずかしい!
「今、何時?!」
早朝なら田頭たちにも会わない可能性が高い!
「ん?」
ベッドの天蓋の赤いカーテンを上げた皇が壁を指した。ベッドの外は案外明るくなっていた。
「五時だ」
さすがに五時なら会わないよね!
「温室行ってくる!あ、そうだ。サクラに渡されたオレの着替えは?」
「あ?ああ……そこに置いてあろう?」
皇の指さした先に、サクラのうちのブランド名『early spring』とデカデカ書かれた大きな紙袋があった。
袋の中に手を入れると、ふわりとした感触が指に当たった。
……え?オレの制服……こんなふわふわしてないけど。
恐る恐るそのふわふわした物を掴んで取り出すと、真っ白なもこもこした物が目に入った。
「何これ?」
「藤咲が寄越したそなたの着替えであろう?」
オレの着替え?このもこもこが?
「……」
やられた!またサクラに騙された!
オレの着替えって言ってたから、てっきり制服を入れてくれたのかと思ってたのに!何?このもこもこ!
いや!もしかしたら奥のほうに、制服も入れてくれてるのかな?
そう思って、紙袋の中身を全て出しても、あとからあとから白いもこもこが出てくるばかりで、オレの制服は入っていなかった。
……だよね。
この白いもこもこを見た時から、サクラが渡してくれた着替えの中に、オレの制服なんて入っていない気はしてた。だってサクラだから!
ガッカリしながら紙袋を覗くと、一番下に手紙が張り付いている。
剥がして見ると『ばっつんのサイズで作った特製パジャマだよ♡がいくんに楽しんでもらう仕様になってるから♡ごゆっくりー♡』と、書いてあった。
「んだよ!それっ!」
楽しんでもらう仕様って何だよーっ?!
手紙をくしゃくしゃに丸めて、紙袋に投げ入れた。
「オレの制服ー!」
生徒会室まで行けば、オレが昨日脱いだ制服があるはずだけど……。
田頭達が泊まっていたら、かち合っちゃう!
いや!こうなったら、恥ずかしいとか言ってる場合じゃない!田頭たちに会うリスクを冒してでも、生徒会室の制服を取りに行かないと!
だって曲輪まで何を着て帰ればいいわけ?この白いもこもこパジャマ?昨日の女装大会の振袖?どちらを着て帰っても、ツッコミどころ満載じゃん!ありえない!
「ああ、そなたの制服なら、零号温室に揃っておる」
「えっ?!ホント?」
「ああ。そなたがまたいつ粗相をするやもしれぬゆえ、梓の十位に揃えさせた」
「粗相?」
「いつぞやそなた、吐き出した物をズボンに零して騒いだではないか」
「へ?」
吐き出した物をズボンに?
吐いた物がズボンに付いて騒いだことなんてあったっけ?昨日吐いたのは、寝不足もあって、体調を崩してたからだと思う。
でもここのところ、吐き気に襲われることはそうそうなかったし、学校で皇と一緒にいて、吐いたことなんてあったっけ?
ズボンに零して騒いだ?
ズボンに、零して……?
しばらく考えたあと、一学期の中間テストの最終日のランチ当番の時、皇に触られて、制服のズボンに”アレ”を飛ばした記憶が蘇った。
「どぅあっ!」
吐き出した物って……口からじゃなくて……そっちー?!
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