432 / 584
学祭騒動再び~最終日・嗚咽~⑤
「あれは!……お前のせいじゃん!」
「そうだな」
うっ……素直に肯定すんな!むきになった自分が恥ずかしいだろうが!
もー!そんなことより、とにかく零号温室まで行こう!零号温室に制服があるなら、生徒会室に制服を取りに行くより全然低リスクで制服に着替えられるし、お風呂にも入れて一石二鳥じゃん!
いや、でも……零号温室まで何を着て行けばいいわけ?
「……」
このもこもこを着るくらいなら、汗まみれのしわしわだろうが、昨日脱ぎ散らかした着物を着て行こう!
ベッドの下の方でぐちゃぐちゃになっているだろう着物を探すために布団をめくると、明らかにべちゃべちゃとした”何か”が付着したオレの白いパンツが、まず目に入った。
「うっ!?」
「どう致した?」
どうしたもこうしたも……いくら何でも、こんなぐちゃぐちゃしたパンツ……履けない!
しかもベッドのいたるところに脱ぎ散らかされていた着物と長襦袢を触ると、ところどころじっとりと何かで濡れている。
う……。
汗なんだか、あの貝の潤滑剤なんだかわからないけど……これ、もう一回着られるの?うっ……やだ。でも、白いもこもこを着るほうが……いや、温室までなら……まだ白いもこもこのほうが……。
白いもこもこを一枚広げて見ると、もこもこはしてるけど、半袖のTシャツ……と、言えなくもない。ちょっと丈は短めだけど。
これなら何かでぐっちゃり濡れている着物を着るより、いいんじゃ……。
いや!やっぱりこれはない!
まだ見当たらない肌襦袢を探すと、床に落ちた皇の着物が目に入った。
皇の着物は床に落ちていたからか、皺にはなっているけど、濡れてはいないようだ。
皇の着物を拾おうと手を伸ばすと、すぐ脇に、明らかにべたべたしているオレの肌襦袢が落ちていた。
何でっ?!
「何でお前の着物だけ無事なんだよ!」
皇に、べちゃべちゃの自分の肌襦袢と、無事だった皇の着物を拾って見せると『サクヤヒメ様のご加護であろう』と、ふっと笑った。
「ぅえっ?!サクヤヒメ様ってそんなところまで守ってくれるの?!」
本気で驚くと、皇は吹き出してひとしきり笑った。
「そんなわけがあるか。そなたが余の着物を脱がせて落としたゆえ無事だったのであろう?」
そう言われて、夕べ自分から皇の着物を乱暴に脱がせたことを思い出して、一気に体が熱くなった。
「どう致した?」
「べっ!別にっ!」
もう……恥ずっ!
でも、どうしよう。何を着て温室まで行けばいいんだよ!
「ん?」
オレが悩んでいるっていうのに、皇は涼しい顔で、無事だった自分の肌襦袢を羽織ったところだった。
「あっ!」
「ん?」
「お前、急いで帰らないでいいならオレに着物貸してよ。オレ、温室行って着替えて来るから」
「あ?余は何を着たら良い?」
「お前はオレが戻るまでここにいたらいいじゃん」
「そなた一人で行かせるわけにはいかぬ」
「はぁ?学校の中だもん。大丈夫だよ」
「ならぬ」
「だって!じゃあオレは何を着たらいいんだよ!着物はべちゃべちゃだし、あるのはこのもこもこだけ!そうだ!お前がこのもこもこ着たらいいじゃん!」
「そなたがそうしたいのであれば、それで良い」
いいのーっ?!
皇がこの白いもこもこを?!
……うん。こいつならきっと何でも着こなしてくれるはず!
白いもこもこを広げて皇に当ててみた。
けど……小さすぎるー!オレにジャストサイズなんだった!
「これの何が気に食わぬのだ?」
皇に着せるのが無理だとわかってガッカリしていると、もう一枚のもこもこを広げて、皇がオレにそう言った。
皇が広げたそれは、白いもこもこした短パンだ。
「は?むしろどこを気に入れって言うんだよ!」
「手触りも良いし、そなたに似合いそうだ」
言われてみれば、手触りはものすごくいい。
って!そうじゃなくて!お前は手触りが良ければ何でも着るのか!
「少し丈が短いか?」
そこじゃないんだよーっ!オレが嫌がってるのはそこじゃなくて!
って……え?オレ、どこが嫌なんだろう?
良く見たら、もこもこしてるだけの半袖短パンじゃん!そうだよ!他にもゴロゴロ転がっている付属品は見なかったことにして……半袖短パンだけなら別に……そうだよ!ただのパジャマじゃん!
「……」
白いもこもこ半袖に腕を通すと、すごく肌触りがいい。
べちゃべちゃなパンツは履かず、オレは素肌にもこもこ短パンも履いてみた。
……確かに、肌触りは抜群にいい。
「良いではないか」
ちょっとお腹が見えるし、膝上何センチだよって短パンだけど……もうそこは目をつぶる!
もういいや!深く考えずに、とりあえず急いで温室に向かおう!
「温室まで急ぐぞ!皇!」
「勇ましいな」
皇がふっと笑ってオレの頭をポンッと撫でた。
ともだちにシェアしよう!