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学祭騒動再び~最終日・嗚咽~⑥
『これは良いのか?』と、白いもこもこした靴と、小さな付属品を拾った皇に『そんなの要らないから!』と言って、素足に昨日履いてきた草履を履いた。
一歩部屋を出ると、朝の空気がものすごく冷たい。
ぶるりと体を震わせると『それでは風邪を引く』と、皇がオレに羽織をかけた。
っつか……羽織!羽織があったんじゃん!はじめっからそうしてよ!羽織でくるまってれば、とりあえず誰かと会っちゃっても、恥ずかしさもそこまでじゃないじゃん!
二人でらせん状の階段を下り始めると、窓の外が急に明るくなった。
何だろう?と窓を覗くと、朝日が昇り始めたところだった。
「あ」
足を止めると、皇が『どうした?』と、オレの手を取った。
「太陽、昇って来た」
森の向こうのほうに、昇ってくる太陽の端が光って見える。
「ああ。ここは学院の中で一番高い建物ゆえ、日の出もよう見えるはず」
さっきまで薄暗かったのに、太陽がほんの少し見えただけで、びっくりするほど辺りが明るくなった。
日の出を見るのは初めてじゃないのに、何だか初めて見る物みたいな気がした。
端が見えたと思った太陽は、あっという間に半分まで顔を出した。
「太陽って……こんなに速く、昇って来るんだ」
「ん?」
ゾクリと背筋が冷たくなった。
外気が冷たいせいじゃない。
時間の速さを実感して、怖くなったんだ。
皇とこうしていられるのは……あとどれくらいなんだろう?遠い未来だけじゃなくて今日だって……いつまで一緒にいられるんだろう?
「皇?」
「ん?」
「……ううん」
今日はいつまで一緒にいられるか聞こうとして、やっぱりやめた。離れる時のことを考えながら過ごすのは、嫌だ。
だけど……学祭が終わって学校に行かなくて良くなったってことは……学校で皇と会える時間もなくなったってことなんだ。
今日離れたら、次はいつ会えるんだろう?渡りは一週間に一回だ。一週間に一回しか、会えなくなるの?
もしかすると、そのまま大学に入って、一週間に一回だけ会うのが、当たり前になってしまうのかもしれない。
皇と一緒に、ただ学校の中を歩いているだけの今この瞬間……時間が止まってしまえばいいのに……。
誰かに会うんじゃないかとヒヤヒヤしながら、森を抜け、生徒会室棟に向かった。
まだ朝日が昇ったばかりの学校は、何だかいつもより綺麗に見える。
人の気配なんか全く感じないけど、ビクビクしながらエレベーターに乗った。
無事に到着した零号温室は、朝日が差し込んでものすごく明るい。体が震えるほど寒かったのに、温室の中はすごく暖かかった。
オレはすぐに羽織を脱いで、制服を探すことにした。
「オレの制服って、どこにあるの?」
「ああ。奥に大きな扉があろう?その中にあると思うが」
「んー」
皇が指差した扉を開くと、そこはウォークインクローゼットだった。洋服用っていうか……何だか色んな物が置いてある。
オレの制服、どこだろう?
洋服が掛かっている場所を探しても、制服らしき服がない。これって誰の服だろう?皇が普段着てい私服とは、趣味が違う気がする。
「あったか?」
「んー……ない」
「ん?そなたの制服は、確かにどこかにあるはずなのだが……」
皇もクローゼットに入って来て、オレの後ろでガサガサしている。
もっと奥?下のほうかな?
腰をかがめて下を覗くと、お尻を触られた感触がして『ひゃあっ!』と、飛び上がった。
「なっ……え?なに?」
ちょっと待って!今……もこもこ短パンの上からお尻を触られたって感触じゃなくって……直接……素肌を触られた、みたいに感じたんだけど……。え?何で?
驚いて固まっていると『穴があいておった』と、皇がオレのお尻を指差した。
「うえっ?!」
穴?!もこもこの短パンのお尻を触っても、穴なんて見つからない。
「え?穴なんて……」
「あいておった」
皇にぐるりと体をまわされた。
「え?!何?!」
皇はオレの腰を掴んで『ああ、ここだ』と、お尻の中心近くを指で押した。
「ぎゃあっ!」
皇からお尻を隠すように座り込んで、そっとお尻を触ってみると、確かに一箇所、穴が開いていた。
もこもこしてるから気づかなかったんだ!
「なにこれ?!」
「そなたが捨てた手紙の裏に、説明書があった」
「はぁ?」
皇は着物のたもとから、くしゃくしゃな紙を取り出した。
そこには、もこもこパジャマの絵が描いてあって”ここにしっぽを装着してね♡”と、お尻のところに矢印が書いてある。
「なっ……な……に?しっぽって何-っ?!」
「ああ、これか?」
皇は、また着物のたもとから、小さな白いもこもこを取り出した。
お前のたもと、どうなってんのー?!
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