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♯2 即興曲〝桜隠し〟1

 真雪は鼻歌を歌いながら、車を運転していた。  自宅に近づくにつれ、真雪のほおは緩む。 (もうすぐ桜也に会える…)  昨日の桜也もかわいらしかった。  自らの尿と精液にまみれてうずくまる桜也。  桜也の匂いが強烈に薫るバスルーム。  健康的な桜也の肌は、まるで桜のように美しい。  真雪はその上に雪を降らせた。  達する直前に引き抜き、桜也の中で温めてもらった精液を、桜也の肌にぶちまけた。  せっかくの桜のような肌に、穢れた雪のような真雪の精液が降りかかる。  あまりにも美しかった。  頭の芯が焼けきれてしまいそうなほど。 (ああ、桜隠しだ…)  桜の花が咲く春に、季節はずれの雪が降ること。  そして、桜の花を雪がおおいかくすこと。  そんな幻想的な風景を「桜隠し」と呼ぶらしい。  子供の頃、一度だけ、桜隠しを桜也と見たことがある。  真雪と桜也は十才。小学五年生の春だった。  桜が咲く中、春の雪が降った。  淡いピンク色の花びらに、純白の雪。  すごくきれいだった。まるで夢の中にいるみたいだった。  気温は氷点下を下回っていたのに、桜也は寒さなんて感じていないように、元気にはしゃいでいた。 「すっげー、桜に雪がのってるよ! きれいだなー! な、真雪!」  白い息を吐きながら振り向いた桜也の笑顔が、あまりにきらきらしていて、まぶしくて。とても直視できないくらいだった。  その明るい笑顔が好きだった。  桜也のことが、ずっと好きだった。  時間が経つにつれ、友愛は劣化していく。  情欲を孕んだものへと。

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