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♯8 プレスト〝折檻〟12
「桜也っ!」
あわてて桜也の胸元に耳をあてる。
すうすうと規則正しく聞こえる、桜也の寝息。心臓の鼓動。
生きていることにほっとするあまり、全身から冷や汗が噴き出し、体が急激に冷えてがたがたと震えた。
さまざまな思いがナイフとなって、真雪の心を切り刻む。
こんな事態を引き起こしたマネージャーに対する憤り。
桜也が死を選ぼうとしたことに対する強いショック。
なにより、ここまで桜也を追いつめてしまった自分への怒り。
やるせない無力感。
どんなに恨まれても、嫌われても、桜也が生きてくれればそれでよかった。
ブラック企業から断絶させ、快楽漬けでぐずぐずににしてでも、桜也をこの世につなぎとめるつもりだったのに。
「桜也、どうして…どうして、そこまでして死にたいの…」
ぽつりと落ちた真雪のつぶやきに応えるものは誰もいない。
ただ秋風にのって闇夜に消えていくだけだった。
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