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♯8 プレスト〝折檻〟14

 電話口の向こうで、神田は頭を掻きむしりながら、どうしたらイメージ回復できるか必死に戦略を練っているんだろう。だがそんな神田とは対照的に、真雪は冷静だった。  桜也の写真を手に、多くの人に話しかけ。  公共の場である公園で、あれだけの嬌声を発しながら行為に及んでいたのだ。    隻眼銀髪の真雪は、ただでさえ人目を引いてしまう。「あれはピアニストの斑目真雪だ」と勘づく人がいてもおかしくない。 『とにかく今は動くな。対応はこっちで協議してるところだから、しばらくは…』 「神田さん」  話をさえぎって、真雪は淡々と言う。 「僕がピアニストとして活動できたのは、神田さんのおかげです。今までありがとうございました。 僕は今日限りで引退します。だから、僕のことなんか忘れてください」 『おい、真雪、まゆ…!』  マネージャ―からの電話を途中で切り、電源もオフにする。  ピアニストとして生きる道を自ら()った。  今の真雪には、桜也しか残されていない。 (桜也…)  再び桜也の寝顔を見つめる。  次の瞬間、桜也のまぶたがぴくりと動いた。

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