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♯9 マズルカ〝寒照町〟3

 自分の車だとマネージャーに見つかるかもしれないから、と、真雪はレンタカーを借りてきた。桜也は必要最小限の荷物だけを持ち、車の助手席に乗る。運転席の真雪はサンバイザーやサングラスをつけ、慣れた様子で運転し始めた。  このレンタカーは一週間後に返却する契約になっているが、おそらく業者との約束は果たされない。桜也と真雪は、これから死地へと向かうのだから。  すぐに高速道路にのるのかと思いきや。  車は東京の中心地…銀座へと向かった。   「終焉の時を迎えに行くんだから、最高にかっこよくなってもらわなきゃ」  到着したのは、メンズ専門のショップ “A LA MODE”。  この店の特徴は、ヘアサロンとセレクトショップが一緒になっていることだ。超一流のスタイリスト、美容師たちにより、上から下までトータルコーディネートしてくれる。芸能人、メンズモデルが御用達にしていることでも有名だ。     店内に入ると、高級感あふれる空間が広がっていた。  ワインレッドの絨毯。大理石でできた壁。  いたるところに飾られた生花。  ダークブラウンの棚に、たっぷりと間隔をあけて商品が並べられている。ヘアサロンは個室。びしっとスーツを着た店員さんが、にこやかな営業スマイルを浮かべて待機している。  こんなお店で服を買ったことなんてない。    近くにあったかっこいいレザージャケット。その値札を確認して、桜也は度肝を抜かれた。  書かれていた値段は¥680,000-(税別)。以前貰っていた給料をはるかに上回る値段だ。たかが服一着に、こんな大金を出す奴の気が知れない。

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