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気になるあの子-1
〈時任 奏史〉
最近、悩みがあるのだと業務の終了間際、相談された。
同期の江川 は、僕から見ても仕事ができるやつだ。
おそらく、悩みというのもプライベートなことだろうな、と簡単に予想がついて実際にはその通りだった。
「ウチのとこに新人入ってきたろ? 大卒の」
「うん。背が高くてスラっとしてて真面目そうな新島 君だろ? あの子、スタイル良いよね。スーツが似合ってる」
「……それはどうでもいいんだよ。なんていうか、最近そいつが睨んでくるんだよな。俺のデスク、新島の真正面で前向けば目が合うんだけど、気づいたら毎回睨まれてるような感じがして」
「気のせいじゃない? ちょっと目つき悪いけど、何の理由もなくそんなことはしないと思うよ」
「俺もそう思って、気のせいだってやり過ごそうとしたんだけど、明らかにそうじゃなさそうな気がしてきて……俺、嫌われてんのかなあ。どう思う? 時任 」
休憩室のソファの背もたれに寄りかかって、奢ってもらった缶コーヒーのプルトップを開ける。
実際にそのやり取りを見ていないからなんとも言えないのだけど、江川は怨みを買うような人間ではない。
そのことは同期で、長い付き合いの僕も理解してるからおそらく、どこかで認識の食い違いがあるのだろう。
そのことを伝えると、一応は納得してくれたようだ。
「でも、まったく解決してないだろ?」
「まあ、そうだね」
「お前、他人事だと思って真面目に聞いてないだろ? わかるんだからなそういうところ」
そんなことはないのだが、江川の疑いの眼差しは避けようがなくなってきた。
仕方ないので、もう少し真面目に考えようとコーヒーに口をつけながら思案する。
今の話を聞くに、悪気があってやってないんだとしたら1つしか答えはないように思う。
「もしかして、江川に興味があるんじゃない? 新島君」
ぽつりと、思ったことを呟くと江川は盛大にむせた。
コーヒーを飲んでいる時に言うべきではなかったな、と反省しながら、大丈夫かと背中をさすってやる。
「んなことあるわけねえだろ!」
「んーどうかな。江川がそう思ってるだけで新島君なりに何か思うところがあるんじゃない?」
「例えば?」
「それはわからない」
僕の最終解答に、江川は諦めたように頭を抱えた。
ここまで苦心してるのだから、相当参っているのだろう。
何とかしてやりたいのはやまやまなのだけど、僕に相談するよりも手っ取り早い方法がある。
もっとも、江川がそれに気づいているかは謎だ。
「パーテーションで区切るしかないかなあ」
「別にいいけど、それ経費では落ちないと思うよ」
「お前、主任なんだからなんとかしろよ」
「私的な理由では無理。希望する人が多かったらなんとかなると思うけど。でも江川がいきなりそんなことし出したら新島君傷つくんじゃない? 避けられてるって感じて会社来なくなるかも」
「それは……困る」
「そもそも本人に直接聞いた方が早いんじゃない? 理由がどうであれ、一言やめてくれって言えば済む話だと思うよ」
「それが出来たらお前に相談はしないわな」
最後にでかい溜息を吐いて、空き缶をゴミ箱に放った。
それに倣って、僕も飲み終えたコーヒーをゴミ箱に入れると、さてと立ち上がる。
「江川、今日は残業ないだろ? 飲みに行かない?」
「行く」
「最近、行きつけのバーがあって、そこでも良い?」
「おう」
気分転換に良いだろうと、江川を誘って今夜は花の金曜日。
飲みに行くとしよう。
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