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今までの経緯を簡単に説明する。
俺、支倉理央 はつい先ほどまで、生徒会室にて、サボリ常習犯の会長と会計に対する苛立ちを生徒会書記と補佐に宥められながらも、次から次へと舞い込む雑務に忙殺されていた。
ここから気付くと思うけど、俺は生徒会副会長を務めている。
まあそれはさておいて。回想に戻ろう。
仕事中、マナーモードに設定していた携帯のバイブレーションが震えた。振動は、俺の制服のポケットから。
あんまり長く続くから電話だと気付き、もしかするとバ会長からかと思って携帯の画面を見ると、そこに記されていたのは俺の幼なじみの名前。
その時の声を再現したものが────コレだ。
『っ、は……リオ……、たっ、助け……いや……やだっ! ……き、北棟! 視聴覚しっ』
ブツリ。
それっきり切られた電話。
ツー、ツーと鳴り響く音を聴く余裕もなく、俺の足はすぐさま北棟の視聴覚室へと向かっていた。
人気のない場所、人気のない時間帯。電話越しの緊迫した空気。
そして、この学園の異常性。
それらを加味して弾き出された推測は、───あの幼なじみが暴漢に襲われているかもしれない、ということ。
俺からすれば裏表の激しい悪魔みたいな幼なじみでも、他のヤツらもそう思ってるわけではない。だからこそ、普段助けなんて求めないあの幼なじみからのSOSにまさかと不安を覚え、気付いたら体は動いていた。
役員が俺を呼び止める声を無視し、誰もいない放課後の廊下を過ぎ、辿り着いた視聴覚室。幼なじみはおろか誰もいない室内に困惑しているとき、再び届いた着信。
さっきの、不穏な笑い声を最後に切れた電話のことだ。
--そして今現在に至る。
はい、回想終了。
まぁああ俺も悪くないけど、断じて非はないけど、神に誓って無罪だけど、100000000歩以上譲って悪かったとしよう。
性根も趣味も腐敗しきったクソ幼なじみの性格を把握した上で、騙されてしまったんだから。自他共に認める腹黒副会長である俺のまさかの醜態。
……あ、腹黒だってカミングアウトしちまった。
でも、女優……いや声優? ばりの演技力を駆使してまで俺をおびき寄せるなんて考えもしなかった。
今考えれば電話の向こうから暴漢とおぼしき声も聞こえなかったし、そもそもあいつがそう簡単に襲われる事態を招くはずもないのに、それを感じさせない演技力。計算高い性格。
この学園で愛くるしい華などと例えられる、そんな俺の幼なじみ。
その実態は、腐男子。
「ああもう、最っ悪だ……」
思わず悪態をつき、向かうは隣の部屋。防音の中、鋭敏に尖らせた神経が察知した複数の気配。
あいつの言う通り、生徒会という生徒の代表組織に属していながら目の前で行われている犯罪行為を無視なんてできない。つーか人道的にできない。
それを踏まえて自分の趣味に利用するあいつはまさに悪魔。ただのキチガイ。
あらかじめ用意していたマスターキーで、内側から施錠された部屋の扉を開ける。
予想通り、そこにいたのは制服をはだけさせた被害者と、間抜け面でこちらを見るガタイのいい男二人。
一人は被害者の腕を抑え、一人は被害者の上に馬乗り状態。
そして性別は三人とも、男。
もう一度言おう。全員、男だ。
────嘆かわしいことに、この学園ではさして珍しくもない光景だったり、する。
「……お楽しみのところ、恐れ入りますが」
二人なら余裕か。
さて、どうしてやろうか。
俺を見た途端、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい二人に微笑みかける。10人中10人が「黒い」と答える微笑を、唇に刷いて。
「覚悟は、出来てますよね」
生徒会副会長という仮面を完全に被り、一歩また一歩と近づいていく。
残念ながら幼なじみが主張するフラグなんてものを立たせようなんざこれっぽっちも思ってない。目的はどこぞの腐った界隈から濡れ場スポットと称されるこの部屋に仕掛けられているであろうカメラを粉骨砕身破壊し、満面の笑みをたたえヤツに突きつけてやること。
アイツの思い通りになってたまるか。
現在進行形でこの現場をどこか安全地帯で見ているであろう幼なじみのことを思い浮かべながら、俺は男共の目前で足を止めた。
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