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「もうっ、何考えてるの!? せっかくこの僕が副会長ルート解放のために情報提供してあげたのに、あろうことかフラグをべっきりへし折って帰ってくるなんて! この人でなし!」
「ざっけんな、今回は完全に風紀案件だったろーが! こちとら毎日毎日忙しいってのに、お前のBL萌えに付き合ってる暇なんざねえんだよ!!」
ところ変わって、現在寮のとある一室。
白とアイボリーを基調とした清潔感ある内装。部屋の広さや調度品の質を取っても高校生一人にはもったいないほどの贅を尽くされている。
そんなモデルルームのような部屋で、膨れっ面をさらす我が幼なじみ。いい年した高校生がする顔じゃねえと思うがここの生徒にはこれを可愛いと思う野郎共が以下略。
BLファンタジーふわふわお花畑思考を炸裂する幼なじみは、またよく分からない主義主張で訪ねた俺を責め立てる。
「何度言えば分かるの!? リオには素質があるんだっていつも言ってるじゃん! BL漫画に出てくるような高飛車美人のド受けみたいな顔面しやがって、ちくしょう! 好き!! 今回そこをあえて『押し倒しちゃってもいいよ』って言ったのは、リオも主導権握りたいだろうなっていう僕なりの最大の譲歩を感じ取って感涙してもらうためだったのに!」
恥じらいも罪悪の意識もなく堂々と勘に障ることをほざく幼なじみ、名を、栗見李宇 。
こいつは男同士の恋愛を主食とする腐男子だ。
中学の頃、俺が共学校で同性に告られるという事態があって以来、腐男子として本格的に覚醒したリウは、半ば騙し討ちで俺にここを受験させ、結果、特待生として俺は入学を果たした。
ここの実態を知った時にはすでに遅し。こいつがこの学園の存在さえ言い出さなかったらと、リウを恨んだ懐かしきあの日。
でも、リウの母親で腐女子である莉奈さんにまで申しわけなさそうに電話で謝られては、渋々受け入れる以外あるまい。
なんせ莉奈さんには多大な恩があるので。
「はぁ……床ドンひとつも見れないなんて……せっかく大人しめの可愛い子が相手だったのに…」
呆れたように髪をかき揚げる幼なじみが心底ムカつく。何様だコラ。
確かにこいつが言うように、今回の被害者は小動物系の可愛らしい男の子ではあった。
だが、俺が救出した後すぐ俺の肩にしなだれかかってきたあたり、たぶん純情なタイプでもねえぞ。フラグをべっきりへし折りたくもなるわ。
そしてこいつが言ってることは大変えげつない。つまりこいつは目の前で起こる犯罪紛いを見てみぬふりしてまで萌えとやらの糧にしようとしたわけだから。
こいつの頭の中に「結果的にはリオが助けるから被害者への実害は少ない」という他人丸投げ思考と結果至上主義という血も涙もない冷徹なところがあるのは長い付き合いで心得ている。
まあこう言われると思って反論を用意していた俺さすが。さす俺。
「お前、自分の言ったこと忘れてねえよな。『押し倒してもいい』、とは言われたが、『押し倒せ』なんて別に言われてない。
腐男子っつーのは、”傍観者”なんだろ? 遠くから男同士の当事者たちの惚れた腫れたを見て好き勝手に妄想するのが趣味でポリシーなんだろ? お前、ただの傍観者の分際で、俺(当事者)に行動を強要する権限があると思ってんのか?」
そう言って見下したような態度をとれば悔しそうに顔を歪めるリウ。メシウマー。
腐男子の在り方を逆手に取った言葉に、腐男子のプライド(笑)(笑)を傷つけられたらしい。もっと悔しがれ猫被りが。
「チッ……、今回は泳がせといてあげるよ。……結局カメラは見つけられなかったみたいだし?」
まさかの切り返しに今度はこちらが顔を顰めるハメになる。現状の課題はそれだ。被害者を風紀委員室まで送ったあと室内を隈無く探したというのに見つからなかったんですけど。
リウを含め、この学園の何割かを占める腐男子たちが至る所に盗撮・盗聴器具を設置しているらしいが、未だ発見は叶わない。
常識的に考えて当たり前だが、盗撮・盗聴は犯罪です。ストップ濡れ場泥棒。
物的証拠の捜索はまだまだ諦めてません。
「あーあー、せっかく王道学園にいるのに供給が足りないよ。腐男子の桃源郷はもっと腐男子に優しくあるべき」
「腐男子なんて稀少種族は少数派の戦闘民族に過ぎないんだよ。やたら群れるな、特待生なんだから大人しく学業に徹してろ」
「この王道学園に腐男子がどれだけいるか知ってる? 生徒総数の二割強だよ二割強。少数派なんかじゃない、ニーズは常に満ち溢れているんだよ!」
「……王道学園なんて幻想だ」
「まだそれ言ってんだ? でも現実は嘘を吐かないよ。ようこそ夢のネバーランドへ」
───《月城学園 》。俺とリウが在籍する本校の名だ。
ここは、政治家や財閥、資産家や著名人などなどを親または家系に持つ息子たち───一括りに、富裕層が集められた山中の全寮制男子校である。
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