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保健室独特の匂いがする。
この学園には珍しく、しかし一般的な保健室らしい簡素なパイプベッドがいくつか並び、その手前にソファーや机、戸棚などが配置され、パーテーションで区切られている。
第一保健室はだいぶ豪華な作りらしいが、第二の方は比較的シンプルだ。
この一年と学園で生活してきて、身体測定以外では寄りつこうとも思わなかった、忌避してきた空間。
当然テンションが上向くはずもなく、現在進行形で急降下中。
その理由にはバ会長に連行されたこともあるけれど、最も頭を悩まされているのは最悪なことにただいま保健室では宴の真っ最中うええええ。
「……オイ、ベッド空けろ」
「誰だァ……? ……なンだ、奏 か。使うなら本館の方使えよ」
「こっちは急患なんだよ。正しい保健室の使い方だろうが」
「あァ……? オレが移動しろってか? かったりィな」
やけに慣れたこのかんじ、やっぱり常連かよバ会長。
そして一番奥のベッド、カーテンから顔を覗かせ大人の色気を漂わせるハスキーボイスで応答するのもしかしなくても養護教諭。誰かと絶賛交わっている養護教諭。
何度も言うが、養護教諭だ。つまり保健室のセンセー。仕事をしろ。
会長は聞いている限り彼から下の名を呼ばれるくらいには親しい関係らしい。やり取りが実にスムーズだ。デキてんのかと思うのは邪推か。
そんなことを考えていればまた奥へ奥へと腕を引っ張られる。医療専用のスライドドアが、背後で音もなく閉じられた。
近づけば近づくほど、男のくぐもった喘ぐ声と卑猥な水音が……あああああ逃げ出したい。
カーテン越しに踊るシルエットと絶え間なく発せられる息使い、鼻をつく匂い、すべての無理要素が飽和して吐きそう。むり。
そんな俺の切実な想いが伝わったのか、バ会長は不快そうに眉を寄せ、仕切りのカーテンに手を掛け……あ、ばか開けなくってもいいだろ!
「養護教諭の分際で生徒に手ェ出してんじゃねえよ」
「手癖の悪さならテメェも負けてねェだろ。それより、今日は随分上玉を捕まえてきたじゃねェか」
何だこの、デリカシーとか常識とか恥じらいが欠片もない異次元。
カーテンが開いた瞬間即座に目は逸らしたけど、目隠しだとか大人の玩具だとか、その他マニアックなものを色々と見てしまった。ぅゎ夢に出る。
ときどき鎖がぶつかるような金属音が何かなんて想像したくない。仕切りがなくなったことで音も匂いも濃さが増して、具合の悪さに拍車をかける。
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