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「おら、お前はさっさと寝ろ」 「、……っ!」  奥のベッドとは反対側のパイプベッドまで腕を引かれるまま歩き、肩を押されて背中からダイブする。  衝撃に耐えるためぎゅっと目を瞑るも、実に柔らかい弾力に受け止められ、特に痛みは生じなかった。  本当にここで寝なければならない雰囲気らしい。睡眠を取るだけならわざわざこんな危険領域を選らばなくても、生徒会室のプライベートルームで良かったんだが。  本館の端だから距離は遠いものの、心の療養といった意味ではここよりずっっとマシだった。  ……あ、でもこの疲労困憊状態で仕事中のマツリ達と鉢合わせたら、気まずかったかもな。  腹をたててはいるけど、変な気の遣われ方はしてほしくないのだ。向こうの罪悪感を軽減させるためというよりは、俺のプライドの問題として。  会長がそこまで汲んでいるかは、知らないケド。 「そのまま、大人しくしていろよ」 「え? っ、………あ……!?」  ベッドに投げ出していた俺の足首を、掴んだ手。足元に跪く気配。  まさか。……まさか!  太腿から上までベッドに乗った状態ですぐさま起き上がる。急激に動いたことでまた頭痛がしたけれどそれどころじゃない。  見下ろした先、信じられないことをしている後頭部に向かって、鋭く抗議の声を上げる。 「っ、『生徒会会長』ともあろう方が! 何をやっているんですか!」 「靴を脱がせている。じゃねえとベッド入れねえだろが」 「じゃ、あ、普通に脱がして下さい! ……床に膝なんか付けないでくださいバ会長!」  足首を掴む手が、抵抗する度に強くなる。さすがにこの体勢で暴れたら会長を蹴ってしまいかねないので、下手に暴れられなくなってしまった。  ヒュウ、と軽快な口笛の音が遠くから聞こえる。  その間にも慣れた手つきでするりと両足とも靴を脱がされ、ベッドに入るよう促された。  ……信じられない。  「会長」だろ、あんたは。 「さっきから、ジタバタと。往生際が悪いぞ」 「悪くもなりますよ。あなた、ご自身の立場をわかっていないのですか……」 「たかだかこの程度で減るような立場じゃないことは確かだな」  ……ああもう、だから。  疲れた。さすがに。  勢いまかせに再びベッドに沈みこんだ。薄目を開けて例の奥のベッドの様子に目を向ければ、片付けを終え、シーツに包んだ男を肩に担ぐ養護教諭の姿。  長めのアッシュブロンドを後ろで結った、無造作なスタイルもよく似合っている美形。  ちら、と立ち上がった会長と見比べる。気付いた会長が少し不愉快そうに眉を顰めつつ、 「従兄弟だ」 「ああ、確かに……」  なんか似てると思った。    

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