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素直とは無縁 1

   広大な敷地で起こり得るいじめや暴行被害の発生率を下げる狙いとして、風紀委員会は昨年より、特定の時間帯における活動区域に制限をかける制度を導入した。  ひとつ例を挙げるなら、放課後にしか使われない部活棟などは授業中・昼休み中には封鎖されており、一般生徒は入れない。  例外として『役職持ち』や『部長クラス』などの肩書きを持つ生徒は、その生徒の役柄に応じて規制解除ができるよう電子生徒手帳に組み込まれている。  濫用する気はないが、ちょっとした密会の手段として、これを利用しない手はない。 「───このひと月で脱退者は5名、不登校者2名、学生掲示板への悪質な書き込み1名。いずれも名前を抜き出して詳細を纏めているので、ご確認を」 「……入隊希望者が増えている理由は?」 「そこは後日、幹部が個別面談の機会を設けて徹底的に動機を洗う予定です。日取りが決まればまた連絡します」  ここは人気のない文化部の部室棟、とある和室。  久々に見えた晴れ間の昼下がり、竹細工が施された丸窓の向こうで、雨水に濡れた観賞用の小さな庭がきらきらと光を弾いている。  座布団の上に姿勢正しく座し、同じく座している相手の淀みない報告に相槌を打ちながらも、俺は痺れて悲鳴をあげる足をこっそり撫でた。  困った。まじでこまった。  長時間の正座が久々過ぎてちょっと痛い。ピリピリしてきた。  しかしこの学園の中で『最も副会長キャラを崩してはいけない相手』が目の前にいるので、足を崩すわけにもいかなくて。 「───以上が、先日開かれた各親衛隊会議の報告です。何かご不明な点などは」 「いえ、把握しました。ご苦労様です」 「しかし1ヶ月以上経過した今でも、やはり貴方様と佐久間がどのような関係か問う者もまだ多いようで。……納得のいく説明はいただけないものか、と」 「……特定の個人に好意を抱く理由を説明しろと仰られても、難しいですね……」 「承知しています。ですのでその手の声は鎮めておきました」 「……」 「……? どうされました?」  じ、と無言で見つめていると、手元の資料から顔を上げた男子生徒が不思議そうに首を傾げる。  雲ひとつない澄みきった空のように鮮やかな青髪が、遅れてさらりと揺れた。 「いえ、なかなか敬語が外れないものだなと、思いまして」 「……。それは……気をつけている……の、ですが」  まばたきひとつすることなく俺を真っ直ぐ見つめる、相手の真剣な眼差しを受けて、思わず笑ってしまった。 「…--しかし、リオ様」  この、生真面目め。 「俺は貴方様を慎んでお慕いする、親衛隊の隊長です。そのような者に対して敬語を崩せとは、………貴方様は本当に、人が悪い」  彼こそ、俺がこの学園の生徒の中で一番、「生徒会副会長」でいなければならない相手。  見た目は冷静沈着で涼しげな雰囲気をしているくせに、中身は真面目で堅実な。  俺の親衛隊の、隊長さん。 「同学年ですし、そこは努力をお願いいたします、(より)」  

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