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 ちなみに現在頼の手元に預けているノアはといえば、バスケットから頭を出して頼の顔をじっと見上げている。  ここに到着するまでに話しかけられた他の生徒には無反応だったのに……ノアさん、もしかして美形好きだな? 「しかし、困ったものですね。今夜の学園行事は交流を目的とした場だと理解はしていますが、それにしたって貴方様に近付こうと目論む人間が多すぎる」 「……生徒会宣伝係も一緒ですから、自ずと注目されますよ」 「いえ、猫の影響だけではなく。群がる生徒一人一人に貴方様がきちんと言葉を返していることも、生徒が集まる大きな理由かと」  なにあなた、いつから見てたの?  そんな疑問をのせたまま改めて見上げれば、頼はその端正な顔には不似合いの苦笑を浮かべていた。 「すみません、心が狭くて。これでもちょっと妬いてます、俺」  あ、危険だ。  そう判断し、さっと目を逸らす。これ以上相手を見続けていればボロが出そうだ。  ずるい。お前ずるい。そんなことをそんな顔で言われたらこっちが罪悪感に駆られてしまう。何も周りの注目が集まっている今言わなくたっていいのに。  こんなときは冷静に、冷静に対処せねば。  冷静になりすぎて完食し終えたタルトの味さえ忘れてしまったがな。 「……ま、わりに生徒がいる状況では、必要がない限り話しかけない約束だったはずです。疑いを招きかねない行動は、なるべく慎んでいただけると」 「大丈夫ですよ。あなたがここに来る前にも、すでに何人かに料理を取り分けて、雑談もしてますから。ね、"親切"、でしょう?」 「そ、れは……親切ですね……」  あれれれ、あっさり言いくるめられた。  役職名に腹黒がつく俺と違って正真正銘の優等生として浸透している頼さんが大丈夫だと言うならまあ大丈夫なんだろうと、半ば自分で考えることを放棄してしまっている。だって疲れてるんだもの。  考えることをやめた俺のオウム返しを聞いた頼がふふ、と笑う。このやろう。 「頼……あなた今、楽しんでますね…?」 「あ、わかります?」  爽やかな笑顔で言うことじゃない。  どうして俺のまわりには自覚あり自覚なし問わずサディスト傾向にある人間が多いんだろう。  バ会長は反抗すればするほどそれ以上をもって屈服させたがる系ドSだし、志紀本先輩はじわじわ外堀を埋めて追い詰める計画的ドSだし、リウは耳元でBL本を朗読するタイプのSだし、紘野も隠れSっ気あるし、頼もこうして俺の反応を見てわざとストレートに攻めてくることが多々あるので、どちらかといえばS寄りの人間だと思う。  俺の交友関係はどうなっているんだ。Mはいないのか。いなくてもいいけど。  それとも俺が、Sを引き寄せるN極と化している説……? 「チッ……生徒会かよ……」  おや。どうやらS以外にも引き寄せてしまったらしい。  第三者の舌打ちを聴いた直後、笑みをかたどったまま、頼の表情が若干冷める。振り向いた先には馴染みのない顔。  おやおやまあまあ。  こんなところではぐれ狼と遭遇。  

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