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型崩れなく綺麗にカットされた苺タルトが取り皿へとうつされる。
ご丁寧にそこにフォークが添えられ、さらにはノア入りバスケットとグラスを代わりに持つからと手を差し出すこのハイスペック紳士様は。
「あ……ありがとうございます、……雪景色 、くん」
「どう致しまして、支倉さん」
何を隠そう俺の親衛隊隊長・頼さんでした。
しかし非公開を暗黙のルールとする親衛隊隊長クラス。周りに生徒の存在がある以上、名字呼びと口調の切り替えは必須だ。
親切な同級生の厚意に甘えたというかたちで、グラスとノアを頼に預け、さくさくのタルト生地と甘い苺を咥内へ運び入れる。
なにこれんんんんまい。
「ねえあの二人、すごく絵になる……」
「光様と雪景色様って何か接点あったっけ?」
「特になくね?」
「僕見てたけど、両手塞がってた光様に雪景色先輩がケーキ切り分けてくれてたみたい」
「さすが『学園の貴公子』様……お優しい!」
「フラグ? フラグったの?」
「まだフラグじゃねえよ。ほら、雪景色様は誰にでも分け隔てなく親切な方だし」
「フラグまだなの?」
「そこは妄想で脳内補完しろよ。常識だぞ」
『学園の貴公子』。
あるいは王子。あるいは優等生。
学園の人間は頼をそう評価する。
容姿端麗、文武両道、品行方正に加え性格に嫌味がないとくれば、好かれはしても嫌う人間なんてよほどのひねくれ者くらいだ。
役職に就かずとも絶大な人気と知名度を誇る上、アンチの存在もまるでない。
当然、親衛隊持ち。つまりこいつが俺の親衛隊隊長だとバレようものなら、頼の親衛隊に敵視される未来は想像に難しくない。
「その正装、似合いますね。とても」
「……どうも」
だから距離を縮めてくるな。小声で敬語ログインするのやめろ。
周りに勘ぐられたらどうすんだ。あなたが隠し上手なことは知ってますけど。
声は死ぬほど甘いと感じるのに表情や雰囲気は対外用の優等生。
頼は、ポーカーフェイスが俺よりうまい。
これまで何度かヒヤリとした場面はあったけれど、頼のスマートな対応ときたら、副会長の役柄としては嫉妬を覚えるくらいである。
ほかの生徒にもやってるようにサラリと受け流さなければならないと頭ではわかりつつも、俺の頭の天辺から足先までをなぞる眼差しと、社交辞令ではない心からの褒め言葉を受けて、じんわりと身体が熱くなる。
そんなに見ないでほしい。
褒められて素直に照れるなんて、俺のガラじゃないのに。
そういうお前の方が俺よりずっとずっと似合ってるよああもう、身長5センチ寄越せください。
「ですが少々と言わず……非常に目に毒ですね」
本当に毒なのはお前のそのドストレート羞恥攻めだと自覚してくれ、他称貴公子。俺に対する容赦が足りない。
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