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 中華料理が並ぶテーブルからさり気なく距離を取る。慎重に、慎重に。くれぐれも、『佐久間ルイに好意的なハズの副会長がわざと避けた』と勘ぐられないように。  コマ……えっと、駒井ちゃんには悪いけど、小学生の世話を頼む。それが脇役腐男子の宿命というものだ。  幸い、王道は料理に夢中で俺の存在には気付いていない。つーか俺どころか周りの非難さえ聞こえていない。  皿を使い回すわ飯の前で大声で喋るわ走り回るわ。ほんとに小学生?  堅苦しい席ではないにしろ、最低限のマナーを守れなきゃまた親衛隊の逆鱗に触れるぞ。  まあ、あの様子ならしばらく放置でも大丈夫だろう。王道の現在地から一番遠いスイーツビュッフェのテーブルに移動しよ。ノアを王道から死守せねば。 「父の仕事に興味はございませんか?」 「せっかくですが、ご期待には添えません」 「私、某プロダクションの者ですが、ぜひお話だけでも……」 「芸能関係のお話はお断りしてます」 「一生楽させますから養子に入って下さい」 「他を当たって下さい」 「俺が将来絶対に同性婚を幅広い年代に受け入れられるよう改革いたしますので、副会長様は心置きなく会長様と幸せになって下さいね!」 「あなただけは支持しませんけどね」  人波を躱しながら目的地を目指す。  俺の進路希望の話はそこそこ有名なので将来を見据えたこの手の誘いもそこそこありはするものの、悪いが返事は決まっている。  さて、現場に到着。  予想通り、そこは男の娘の無双地帯だった。  ケーキの城やシュークリームタワー、上品に並べられた洋菓子和菓子が数十種。甘い香りが充満し、色とりどりの取り揃えが目を楽しませる。  足を踏み入れた瞬間に注目が集まったが、俺の視線はある一点でひたりと止まり、周りの目を気にする余裕はなかった。  赤く艶やかな彩りが魅力の苺タルト。  三段式のティースタンドの上で慎ましやかにその存在を主張する。  艶やかな表面がシャンデリアの光を受けてきらきらと宝石のように輝いている。  なにあれ超うまそう。あれ超食いたい。  惹かれるままに近付く。しかしここで困ったことがあった。  片方はノアのバスケット、もう片方はグラスを持っているから、手が使えない。  どうやって切り分けようかな。  それともここは潔く諦めるべきか? 動物連れてるのに飲食するのも、行儀悪い気がするし。  でもあの苺タルトは惜しい、つーか腹が減った。糖分、糖分が足りない。  そんな俺の葛藤をよそに、ケーキナイフに手を伸ばすひとつの影。  あざやかな青が、視界の端に映る。 「…───取ろうか?」  あれ、敬語じゃない。  声を掛けられて最初に思ったのは、そんなことだった。  

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