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「───インターハイに出場する生徒の活躍と、健闘を祈って。乾杯!!」
体育委員長である佐々部さんから発せられたバリトンボイス(ノーマイク)の乾杯の音頭を合図に、立食パーティが始まった。
近くのボーイから高級銘柄のシャンパンを受け取る。ちなみにノンアルコール。大会前にハメを外さないようにと、風紀が目を光らせております故。
近くの会長とグラスを合わせるふりして、擦れ違い様に視線をかわす。
「ノアは任せた」
「……行ってらっしゃいませ」
颯爽と去っていく背中を見送る。
が、数歩も歩かないうちに会長は生徒に囲まれてしまった。
その顔ぶれに至っては、政治家の息子からデザイナーの卵まで。『神宮』の一人息子に取り入ろうと、友好的に、けれど自己アピールも忘れず表面上の談笑が続けられる。
この学園は、彼ら上流階級の人間が見ている世界の縮図だ。
次世代を担う生徒たちにとって今夜のパーティは、日頃おもてに立てない一般生徒が格上の生徒とお近づきになれる数少ないイベント。将来を見据えて強いパイプを作りたい相手と積極的に距離を縮める絶好の機会とあって、自分アピールに余念がない。
親の指示を受け、そういう目的で入学する生徒も少数ではないらしい。
ただ、一般庶民である俺には遠い世界の話でして。
野郎に囲まれる会長の背に向かって『達者でな』と内心声をかけ、その場を離れる。
しかし数歩も歩かないうちに、何故か俺のところにも集まってきていた生徒に包囲されてしまったのだけれど。
「光様! 猫様のお顔を拝見しても宜しいでしょうか?」
「ああ、はい。どうぞ」
「猫たんすごく可愛いでちゅね!」
「ええそうでしょうそうでしょう」
「猫様と生徒会の皆様、リボンお揃いなんですね」
「よくお気付きで」
「そのお召し物、大変良くお似合いですっ」
「ありがとうございます」
「オスですか、メスですか?」
「オスです」
「擬人化妄想捗りますメシウマァ!」
なるほど、ノア効果。
俺の周りを囲む小柄な生徒数名。興味津々ではあるものの一定の距離を保ちつつ、新しい生徒会宣伝係を全力で愛でる。
中には『撫でたい』とリクエストする生徒も何人かいたが、そこは遠回しに断った。いくら大人しいノアと言えど、こんなに大勢に囲まれながら見知らぬ人間に触られるのは怖いだろうし。特に今日は落ち着かないみたいだから、なおさら。
何はともあれ、ノアが思いの外すんなり受け入れられていることを実感して、口許を綻ばせた。
などと満足していたところ、近くのテーブルから聞こえてきた大声に水を差され、眉を僅かに寄せる。
「うお、この肉すんげ柔らかい!」
「る、ルイくん、そんなに食べるの?」
「コマも遠慮せずにもっと食えよー! 次は中華制覇しようぜ!」
……小学生でも紛れてるのかなー?
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