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 何の前置きもなく告げられた会長の報せを受け、内情を知らない生徒たちの間に広がるのは波紋。主に不安、困惑。  俺たちが立っている場所は一段小高いこともあり、生徒の反応がよく見渡せる。 「誰だろ……『候補生』選出にはまだ時期が早いよな……?」 「つ、ついに武士属性クルー?」 「ここは小悪魔タイプに期待」 「人手不足なのかな……」 「それにしたって、事前の通知もなしに?」 「……二年生は四人もいるから、選ばれるなら一年が妥当だよね?」 「一年って……もしかして…」  様々な憶測が飛び交う中、嫌な予感に表情を曇らせる生徒たちがぽつぽつと増えてきた。  中には新たな萌えの予感に打ち震える腐男子もいたがテメェらはいい加減空気を吸うだけじゃなく読むことも覚えろ。 「………まさか」 「あの転入生のことじゃ……?」  そして疑惑の目は王道へ。  ついにあの黒マリモが生徒会入りする可能性にうちひしがれ、涙目になる生徒会の親衛隊員数十名。  生徒会にルイは渡さないとばかりにこちらを睨む王道信者もちらほら。  ……お前ら安心しろ、毛玉違いだから。  他にも、純粋な興味、無関心、生徒会業務の滞りの危惧、んなこたぁどうでもいいから会長サマもっと喋って! な視線を浴びる中、会長の口が動くのを固唾を飲んで待っていた生徒たちは、次の瞬間───。  一人残らず、予想を裏切られることとなる。  “ みゃぁぁおん “ 『『………………へあ??』』  俺の手元、バスケットの蓋をまるい頭で押し開けて顔を覗かせた灰と白の猫の、鈴の音のような鳴き声。  ノアの顔がドアップで映し出されたスクリーンを見上げる生徒の、間抜けな声。  それらを聞いた会長は、満足げに笑みを深めた。 『新しい生徒会役員としてつい数日前に迎え入れた“生徒会宣伝係“だ。慣れない学園生活でこいつも不安だろうから、お前らが快く受け入れてくれると助かる』  そんな係は初耳ですが。  つまるところ、マスコットってとこだろう。  会長が用意した「報告の場」とは、平たく言えば、「風紀をはじめとする6委員会を説得する前に全校生徒を納得させること」が狙いだ。  まず最初に理事長から認可を貰い、そのあとすぐにノア専用の生徒手帳や学生証まで準備する用意周到っぷり。  最高権力の生徒会だからこそ可能となる、横暴な力技。  一応設定としては「《月例会議》の後に拾った」ことにしているから、「嘘の報告をした」ことにはならないと思うけれど、しばらくは各委員会方面の顔を見れない。このあと来るであろうツバキ先輩や風紀あたりからの非難も覚悟の上だ。  会長が敢えてノアに対して人間同然に気を使うような言葉を選んでることもあって、生徒の反応は概ね良好。  特に、会長に心酔している親衛隊や『神宮』の名に取り入りたい人間は会長の一言一句を聞き逃すまいと必死な顔。 『こいつは人間じゃねえが、すでに生徒会の一員でもある。───手出しは無用だ』  このとき、いわゆるネコ側の生徒のほとんどが「猫になりたい」と思ったらしい。  お前らそれでいいのか、人として。  

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