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こちらの男子生徒は一年Sクラス出席番号10番・槻千景 くん。
リウ曰く、「生まれかわったら彼みたいな顔よしスタイルよし運動神経よしのリア充でちゃっかりスクールカースト上位にいても嫌みにならず老若男女にモテる好青年になりたい」という腐男子見解というよりごく個人的感情にまみれた評価を獲得している。
一見べた褒めに聞こえるが、これは嫉妬が多分に含まれていそうだ。当の本人は無意識かもしれんが。
「あ……、、すみません副会長さん、話を中断させちゃって……」
「いえいえお気になさらず。どうぞ引き取って差しあげて下さい」
「ご迷惑をおかけしました。……まわりの先輩方も、食事の邪魔してしまってごめんなさい」
俺の存在に気付いた爽やかくんが爽やかに気を使ってくれたおかげで煽りモードもなりを潜める。さらには遠巻きに見守っていた生徒にまで東谷の代わりに謝罪ができる気遣いスキルと、『親衛隊持ち』にしては珍しい謙虚さ。
さすが上下関係が染み付いた体育会系、いいこいいこ。
爽やかくんもポジション的には王道に好意を寄せているのかもしれないけれど、東谷と違って敵意を感じないどころか滲み出る人の良さのおかげで+100000000点。
「探したよ、東谷。佐久間に置いてかれたからって、そうふて腐れなくてもいいだろ?」
「るッせぇ」
「佐久間も心配してたよ。東谷の分の飯も取ってあるから、行こうぜ?」
「余計なお世話なんだよ。テメェはいつもへらへらしやがって。そうやってルイに取り入ろうってか?」
「カリカリするなよ……ほら、いつも佐久間が言ってるよな? 皆と仲良くしようって」
「テメェなんかと仲良くした覚えはねぇ」
「別に無理して仲良しこよししなくてもいいけどさ……東谷が周りの皆を邪険にしてるって知ったら、佐久間、すごく悲しむんじゃねえかなあ……」
「ぐ」
おお。王道専属狂犬のしつけがなかなか上手いぞ、この爽やかくん。力関係が透けて見えるようだ。
つっけんどんな物言いもサラリと受け流して丸めこむのも実に手慣れていて、わりと日常的な光景なのかもしれない。
この爽やかくん、面倒見良さそう。
リウは『王道の取り巻きの爽やかキャラはオプションで漏れなく腹黒属性が付いてくるよ!』と訴えていたが、俺はこれが素だと思いたい。むしろ素であってほしい。
そんな一年生二人の掛け合いを余所に、半歩後ろを盗み見る。
さて、東谷は爽やかくんに任せるとして、俺が宥めるべきはこっちだ。
「……頼さん」
「はい。なんでしょう?」
「その……怖いです」
というのも、斜め後ろにいらっしゃる方がちょっと、先ほどから不穏でして。
東谷が俺を脅す手段としてテーブルの脚を蹴り上げたあたりから、実に空気が冷めきっておりまして。黙って見守っている時点で逆に恐ろしさをひしひし感じておりまして。
東谷、大丈夫かこれ。
後で頼に闇討ちされないかこれ。
いいやきっと大丈夫だ、なんてったって頼さんは学園の貴公子だし。王子様だし。優等生だし。
お前は東谷みたいなガン飛ばし系不良と違って、ちゃんとTPOを弁えてるって信じてる。信じてるからな。
「この程度の人間、取るに足りませんよ。ご安心下さい」
どうやら俺の「怖い」を東谷への恐怖だと受け取った頼さん。にっこりと優しく笑う頼さん。なおさらお前が怖いんですけど? 逆に安心できないんですけど?
取るに足らないと彼は申しますが、東谷くんはこれでもけっこうここらでは名の知れた単独の族潰しなので、あんまり過小評価しないで差しあげてほしい。
だって俺より強い東谷が頼さんのなかで取るに足らないレベルなら、俺は初っ端に倒されるスライムかキノコ扱いになってしまう。
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