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しかしその直後、ああでも会長様になら殺されていい、むしろ殺されたい、嫉妬でヤンデレ化とか爆萌え、と続くあたり、彼は腐った思考にその身を捧げていると言っても過言ではない。
「どうした篠崎?」
「っぬぅお、びっくりしたああ!!」
彼の人からの抱擁の余韻に浸っていた一年生。
しかし、自分と同じように佐々部を探して送迎バスを降り、あのあとバス停で鉢合わせた柔道部兼ルームメイトも隣に乗り合わせていたことを思い出し、声をかけられてぴょえっと肩を跳ねさせる。
「そういや大丈夫そうだった? 佐々部様……」
「ああ、うん。というか佐々部様は、多分僕が励まさずとも大丈夫だったと思う……強い人だから」
そう言って、一年生は主将の背中を仰ぎ見た。
───あの背中に憧れている。
どっしり構えてて、男らしくて力強くて頼りがいがあって、とてもかっこいい。自分もこうなりたいと素直に思える、彼にとって目標の先輩。
(そして………もう一人)
彼がスライドさせた視線の先には、背筋をまっすぐ伸ばした一人の姿。
薄い身体。柔道部主将のように男らしくも力強くもない。下手すれば鍛えはじめたばかりの自分よりも細い、男にしては華奢なソレ。
それでも、自分と同じ一般庶民でありながら、学園の生徒の最高権力である生徒会の一員となり、その細い肩に大きな責任を負い、多方面からの注目にさらされ───それでもまっすぐに立つ、その人のまっすぐ伸びた姿勢を見て。
自分のような一般生徒にまでまっすぐに向けられる、あの眼差しを受けて。
芽生えたものは、憧憬と。
それから───。
「あのな。どうしてかは、分かんないけど。副会長様に背中を押してもらうと………すごく、勇気が沸いたんだ」
彼は、変わろうと思った。変わらなければならないと。
主将の姿を自分の未来の理想像に当てはめ、ただ模倣するのではなくて。
その人に背を押されたときのように。
自分で考え、自分で動ける足を手に入れたいのだと。
だからまずは受け入れることから。拒絶一辺倒だった佐久間ルイのことを、ただ嫌いだからと避けるのではなく、今度はチームメイトとして向き合う機会を、自らの意思で。
ひたむきな一年生はそう胸に決意を固めて、逸る鼓動はそのまま、白い横顔を盗み見た。
「……一体何でだろうね?」
と、副会長を見つめながら照れくさそうに呟いた彼の問いに対して、腐りきった脊髄反射で「それはKO☆Iだな」と応えた隣の腐男子が、空気を読むことはなかった。
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