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会長と副会長の二人が無言で意志疎通する隙に、二葉は肩越しに振り返った。
視線の先には、廊下側一番後ろの席に座る男の背中。
そして扉には数センチ程度の、隙間。
話の内容が相手にも届くようにと、最後に扉を出た二葉があえて隙間を残したのだ。
"パーティー"の説明についてはやや声を張ってみたが、果たしてどこまで明瞭に声が届いているかまではわからない。
しかし気にせずにはいられないのだろう。
いつもは授業が終われば手早く教材を揃えて立ち去るくせに、先ほどから片付けが一向に進んでいない。
これが他の誰かだったなら、無関心を貫けただろうに。
『神宮』に『支倉』という組み合わせでなければ、意にも介さなかっただろうに。
(『好きにしろ』などと。どの口が)
さて、さて。
神宮グループ主催の、次期総帥の席を約束された男の、18の聖誕祭。
大人も子供も小綺麗に取り繕った環境にこの後輩を放り込んだら。金と欲にまみれた人間が集うこちら側の世界に、触れたら。どうなることか。
そんな水面下の思考を遮る声。
「……当事者を置いて勝手に話を進めるな。俺は一言も賛同してねえぞ。小せえ社交界ならまだしも、8月のアレは規模が規模だ。一般庶民を連れていけるかよ」
「……その一般庶民に対して、いつも好き勝手に話を進めるのはあなただって同じでしょう」
「話を混ぜっ返すな。それはそれ、これはこれだ」
「はい出ましたオレサマ理論」
「てめえ今夜部屋に来てみろ、速攻啼 かせてやる」
庶民を見下げるような言い方に、副会長は若干むかちんと来たようだ。反論に刺がある。
実のところ、一般庶民だからこそ孕む危険を危惧した故の判断だったが、些か言葉足らずである。
そしてまたもやヒートアップするやたらテンポのいい舌戦をBGMに、さてどうするかと考えて、またもや矛先を変える。今度は副会長の方へと。
「ところで副会長殿。パーティードレスは持っておるか?」
「「……………。……ドレス?」」
会長副会長共々、例の双子補佐並のシンクロ率で同時に首を傾げる。
先に”気付いた”のは副会長の方だった。
真っ先に嫌な予想に辿り着いたのか、みるみる顔色が悪くなっていく。
それもそうだろう。
ごく一般的に『パートナー』が持つ意味とは、『対等な関係』や『相棒』の他に、『恋人』を指し示すときにも用いられる言葉なのだから。
「………まさか、……女装、しろと……?」
心配せずともさほど違和感はないと思うぞ、という二葉の悪意ゼロのフォローに返ってきたのは鋭い睥睨だった。
一方、副会長の頭の先から爪の先まで無遠慮にじろじろ眺めた会長は先ほどまでの断固反対の態度から一転、至極真剣な顔で二葉に問う。
「……二葉。こいつ何色が似合うと思う?」
「会長……!?」
二対一で行われた交渉の結果は、果たして。
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