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「ないことはないですけど……何か用事ですか?」
その返答を聞き、二葉はこっそりと目を細める。
恐らく、用事は用事でも仕事の用事だと思っていそうだ。単に真面目なのか、それとも二葉からの用事など仕事の延長上しか思い浮かばなかったのか。
どちらにせよ、言質は取れた。
「8月下旬……正確には神宮の誕生日に、某所で盛大なお誕生日ぱーちーが開かれるのだ。我も学友としてお呼ばれしておるのだが、せっかくなら副会長殿もどうかと思うてな。これを機に社交界デビューしてみては」
「……二葉」
咎める声はひとまず無視をする。
それ以上何も言ってこないのは、会長自身、これを聞いた副会長がにべもなく断ることを想定していたからだろう。
「……私が参加する必要性がわかりませんが」
想定通り。
なんとなく、そう言うと思っていた。
矛先を変える。
「して、神宮。主の同伴者はまだ未決定と記憶しておるが?」
「確かにまだ、決めてねえが……」
「この通りだ。主役の神宮に同伴者がおらぬのは不味い。副会長殿には神宮のパートナーとして出席してみてはいかがかと思うてな。人助けと思うて、神宮をサポートしては貰えぬか」
「パー、トナー」
横顔を盗み見る。
会長のパートナー扱いされること自体にはさほど抵抗感もなさそうだ。実際学園でそういう地位にあるのだから、慣れと言ってしまった方が早いか。
しかしそれがその意味で適応されるのは、あくまで学園内に限るが。
「……考えさせて下さい」
「おいリオ、」
意外な切り返しに、おや、と二葉は片眉を上げた。
返答のわりに、副会長の表情には「夏期休暇中まで会長の手助けとかまじ勘弁」という本音がありありと浮かんでいる。
しかし会長が難色を示せば示すほど、まるで反抗するように目付きが据わっていくのがまた不思議だ。
「……快諾しそうな顔つきでもないが、どういった心境かの」
「そこのバ会長には一応……借りがあるので」
「……」
「会長が本当にお困りなら、しますよ。何だって」
会長と副会長の視線が意味ありげに絡む。二人の間に流れる微妙な空気を二葉は感じ取った。
何やらこの二人の間には人知れず何らかの貸し借りがあったらしい。
それは他でもない、会長が右腕に包帯を巻く理由と大きく関わっているのだが、さすがの二葉もそこまでの推測は及ばない。
ただ、意外な方向に転がったと思う。いい意味で期待を裏切ってくれそうだ、と。
そう思いながら、美術室内へちらりと視線を流す。
(───ああ、やはりか。どうしても、気にせずにはおれぬか)
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