330 / 442

July:御礼に参る 1

 7月初日から七夕までの一週間。  平日だろうと休日だろうと関係なく例年通りのスケジュールが施行されるのが、この学園の期末考査だ。  7月1日。テスト1日目。  現古漢、日本史、歴史学、地理。  テスト2日目。  数学、英語、物理化学、生物地学。  テスト3日目。  政治・経済、倫理、医療(保健体育)、情報処理。  テスト4日目。  専門科目、専門科目、専門科目、専門科目。  テスト最終日、実技込み。  美術、音楽、書道、家庭科。  ちなみに4日目の専門科目とは、授業で習う内容よりさらに高度な専門分野(帝王学や法学・薬学・心理学など)、英語以外の外国語(俺は去年も含めてすでにフランス語は履修した)、その他資格取得(三年生のなかにはここで車の免許を取るひともいる)など、個々の関心によって異なる選択教科のことを指す。    そして現在、期末考査5日目。最終日。  最終日に固まる科目は前半45分が筆記で後半45分が実技となり、提出さえすれば後は自由時間だ。  終了時間10分前にすべての工程を終えた俺は、ショッパーにまとめた小さめのマフィンを数個抱えながら、地獄のテスト期間からの解放を祝して足取り軽く歩いていた。  何故マフィンかというと、最終テストの実技がお菓子作りだったからだ。  先ほどまでいた調理室はほんと地獄だった。がっしり体型の男が集まってピンクのエプロンに身を包み、甘い菓子を作る光景。正直に言おう、吐気がした。  しかしテストが終わっても気を抜くにはまだ早い。  明日で大部分のテストが返却されるし、何よりその次の日には七夕祭りが控えている。自己採点した限り手応えはあったので前者はまあ大丈夫だとは思うが、問題は七夕祭り。テスト週間が始まる前に粗方準備は整えたけれど、ここ最近は慌ただしかったので取り零しは多いだろう。明後日までに仕上げねば。  早くこの一週間を乗り切りてえな、という願望を抱きながら人気のない廊下の曲がり角を折れた先に、人影。 「わ……!」 「、……!」  すんでのところで衝突は免れたものの、避けた拍子に相手の手荷物が落下。  バサバサ、楽譜と思わしき紙束。ワックスがかけられた艶のあるの床の上を、一面の白が埋め尽くす。 「あ……すみません」  ひとまず謝罪し、共にしゃがみ込んで楽譜をかき集める。  空白という空白に書き込みがされた譜面を手分けして拾い、数枚を相手へ差し出した。  無表情でそれを受け取った男子生徒は、楽譜の枚数を確認し、角と角を綺麗に合わせて、それから俺と目を合わせた。  そして数秒、謎の無言が続いた。  堅そうな黒髪にきりっとした顔立ち、そして相手をひたすら無言で見つめる眼差し。  何度か覚えがあるぞ、この顔。この視線の感じ。  えっと、えっと、確か、確か……。 「……かたじけない」  武士きたこれ。  

ともだちにシェアしよう!