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専属家庭教師の特別授業 第1話 | 東雲からるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
専属家庭教師の特別授業
第1話
作者:
東雲からる
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第1話
小鳥遊
(
たかなし
)
希望
(
のぞみ
)
は、高校生である。 恋と仕事と勉強、その他様々な楽しいことで大忙しの思春期を突っ走り、青春を謳歌していた。 そんな希望も一八歳。高校三年の夏、本格的に受験生となった。 希望には歌手としての仕事がある。歌うことは好きだから、この世界で歌い続けていくことはきっと変わらない。 しかし、希望にはもっともっと、学びたいこと、見たいこと、やってみたいことがたくさんあった。元々仕事は忙しくても、勉強を疎かにしていたわけではないし、希望の高校には大学進学のためのカリキュラムも存在する。基礎学力は育っていたし、環境も整っていた。 しかしそれでも、志望校は今の希望には少し、高い目標だった。他の級友たちと同様に、少しでも勉強しておかなければならない。 次の模試は一ヶ月後に控えている。 希望は少しでも良い結果を出そうと努力する日々を送っていた。 そんなある日、希望に最大の試練が訪れる。 *** じっ……と見つめる眼差しは重かった。 それでも希望は、必死に目の前の問題に集中しようと、頭を動かし、手を動かしている。僅かでも視線を向ければ呑まれてしまう気がした。 あの深い緑色の瞳は、ライの眼差しは、それほどまでに強く、重く、鋭かった。 恋人のライとは、実に三週間ぶりの逢瀬だ。 ライが仕事を終えた希望を迎えに来てくれて、そのまま当然のようにライの家へと連れてこられた。普段なら今頃は、ライの激しく熱い愛を受け入れて、快楽に呑まれていただろう。 しかし、希望は今、問題集と戦っていた。参考書を開いて、一問一問確認しながら、悪戦苦闘しつつも解いていく。 ライはその隣で、じっと希望を見つめていた。 希望はなんとかライの誘惑を撥ねのけ、「何しに来たんだよ」などと言われながら、勉強しているのだ。 何しに来たんだよ、とか酷くない? 会いたかったんだよこの野郎! と、希望は言い返したかったが、恋人といながら勉強を優先してしまったので、強く言えなかった。 本当は、希望だって思う存分いちゃつきたい。キスして、抱きしめて、可愛がってもらいたい。甘くて低い声で口説いてほしいし、逞しい身体であんなこともこんなこともしてほしい。 でも、次の模試で結果を出すためには、もうひと頑張りが必要だった。 だから希望は、必死に我慢して、拒んだのだ。 しかし。 「……っ……っん……」 ぴくり、と希望は小さく身体を震わせた。ライの手が、するり、と希望の腰を撫でて抱き寄せる。腰をさすり、尻は柔らかく揉まれていた。 いつの間にか、ライは希望にぴったりと寄り添っている。腰を撫でながら抱き寄せて、希望の首筋に顔を埋めた。 「んっ……ふっ、んぅ……!」 ライは希望の首筋あたりで何度も、すりすり、とすり寄った。 希望は唇を噛みしめて、腰を撫でる手や耳元に息がかかるくすぐったさに耐える。 すると、ライの唇が、希望の耳元で囁いた。 「……まだぁ?」 ひぃん! 可愛い! 好き! 希望は心の中で悲鳴を上げた。口から溢れてしまいそうな愛を、ぎゅうっと唇を噛みしめて、無理矢理飲み込む。 ライは強引に襲ってくるだろうと覚悟していた。その方がよかった。無理矢理襲われれば、意地でも勉強してやる! と対抗心を燃やして、抗うことができただろう。 だが、甘えられたら、抗えない。 こんなのずるいぞ! 反則だ! と希望は抗議したいが、それさえもできなかった。 震える希望を無視し、ライは耳元で、いつものように低い声で、ゆっくりと囁く。 「なぁ……」 「まっ、まって……」 「三週間ぶりなのに……?」 「……っ」 「会いたかったよ」 「!!」 ……くそっ! さっきはえっち断っただけで「はあ? じゃあ何しに来たんだよ」とか言いやがったくせに!! ライの低い声で耳を犯されながらも、希望は頭をぶんぶん! と振って、正気を保つ。問題を睨んで、震える手でシャーペンを握り直した。 ただでさえ、解らない問題なのに、ライの誘惑が強すぎて、ますます内容が頭に入ってこない。何度も書いては消し、書いては消して、うーんうーんと唸っている。 ライはその様子を、じっと眺めていた。 不意に、今まで見向きもしなかった問題集へと、視線を向ける。 「……ここ」 「え?!」 ライが問題を指差したので、希望は思わずライは見てしまった。けれど、ライの視線の先は希望ではなく、問題集と、希望が問題を解くために開いた参考書がある。 「な、なに?」 「これ、こっちの問題と同じだろ。数値と文章が変わるだけ」 「……?」 希望が首を傾げていると、ライが参考書と問題集を示して、類時点を詳しく説明してくれた。 解いていた問題は、参考書のどの部分を参考にすればいいのか分からなくて悩んでいたが、言われてみればその通りだ。 説明は頭にするりと入ってきて、理解できた。けれどライの行動に驚いて、希望は何度も瞬きを繰り返していた。 「……あ、ありがとう……」 「あとこっちの問題、ややこしい解き方してたな。途中で間違えてる」 「え! ど、どれ?」 希望は思わず姿勢を正した。 ライの説明は淡々としていて、無駄がない。希望が理解しきれずに、なんとなく勘で解いていたところも見破って、問題の構造と解き方を教えてくれた。 その結果、ライ自身が妨害していたとはいえ、今まで苦戦していた分野の問題をあっさり解けるようになっていた。 「終わった?」 「うん!」 綺麗に解けた問題を見て、希望は感動した。解らなかった問題が解けると気持ちがいい。これが勉強の醍醐味だと希望は思う。 しかし、それ以上に、希望はライに感動していた。 確かに今まで、ライの話はわかりやすいと思ったことはたくさんある。最初の頃は、お話上手だな、いろんなこと知ってるな、いっぱい話が出来て楽しいな、などと感じていた。 だが、それ以上にライの言葉に散々傷つけられたので、同じ口で勉強を教えてくれたことが不思議だった。 人の心を抉るだけではないのだ、ということが分かって嬉しかった。 ライさんの説明わかりやすいし、意外と丁寧だったなぁ……。 ……そうだ!! きらんっ! と希望の頭上にお星様が輝いた。 「ライさんにお願いがあります!」 「あ?」 今まさにソファの上に押し倒された状態だったにも関わらず、希望は抜け出してしまう。 ライが思いっきり眉を寄せたことも気づかずに、鞄を漁って、興奮した様子で何冊か問題集と参考書を取り出した。 「わかんないとこがまだいっぱいあるの! お願い、さっきみたいに教えて?」 希望はうるうると瞳を潤ませて、ライを上目遣いで見つめた。おれとても困ってるんですっ! 助けてくださいっ! と主張するように、眉を下げて、両手を顔の前で組んでいる。 ライは少しの間、希望を見つめていた。じっと睨むように見つめて、眉を寄せている。 けれど、急にふっ、と表情を和らげた。 「いいよ」 目を細め、ライが微笑んだので、希望はぱあっ! と瞳を輝かせた。 「ありがとうライさん!」 「……で、どれから?」 「えっ、えっと! これかな」 希望は慌てて本をテーブルの上に広げた。 ライを見ると、先ほどと同じように優しく微笑んでいる。 次回の模試への結果に光が見えて、希望もにこにこと笑って返した。 少しだけ、違和感はあった。 ライが「いいよ」と快諾した時、氷の精霊が耳元で何かを囁いたかのような、ひんやりしたものを感じていた。 けれど希望は、優しく丁寧に教えてくれるライの、低く落ち着いた声を聞きながら ……年上で大人の恋人に勉強を教えてもらうなんて、なんかちょっと……イイなぁ♡ などと考えていたので、精霊も呆れて飛び去ってしまったのだった。
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東雲からる
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