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第9話

 ユウに言わせてみれば、シャンティの体のほうがよほど柔肌という表現は似合う気がする。しなやかな身体は滑らかで、傷もシミも全く無くて美しい。エルフ達は皆、完璧な美術品のように整った肢体と顔立ちを持っていて、その上人間を無条件に愛するものだから、拒めるはずもない。  仰向けに横たえたシャンティの身体を愛撫する。色素の濃い褐色の肌は、エルフの中でも珍しい部類だと聞いている。確かにエルフといえば、肌が透き通るように白く、金髪に青い瞳と相場が決まっている。シャンティのようなエルフなど、聞いた事もない。けれど、彼の身体は不思議な魅力と色気が有って、ユウは好きだ。  香油でしっとりとした身体を撫でる。慎ましやかな乳首に触れると、シャンティは小さな声を漏らした。  性感は身体の成熟であり、成熟とは破壊と再生の証だという。刺激を受け続けた身体がそれに順応していくのだ。ならばエルフはそれとは真逆の生態をしている。彼らは常に処女であり童貞である、無垢な体だ。ただ、彼らは長い時を過ごす間に、与えられる感覚は覚えている。だから清らかな身体でも、しっかりと快楽を受け入れてくれる。  何度か指で擦ると、つんと立ち上がってくるソレにそっと唇を寄せる。赤子がそうするように吸い上げて、それから舌先で小刻みに撫でる。ぁ、と小さく声を漏らして、シャンティが身を反らせ、ユウの体を撫でてくる。そうしている時、シャンティは心地良さを覚えているのだと、ユウは既に理解していた。  あまりそこばかり舐めていると、赤子扱いに拍車がかかりそうだったので、ユウは手を下へと移していく。辿り着いたそこには男性の象徴があって、僅かに熱を持っていた。ここもそうだ。何百年も生きているうちには色々あったろうに、ユウのソレとあまり見た目は変わらない。握り込んでゆるりと扱いてやると、ユウ、と甘い声で名を呼ばれた。  シャンティはこうして身体を重ねるのを好んでいる。少なくともユウはそう思っていた。ただ、いつも同じようにしているばかりで飽きないのかと思うこともある。だから、その時のユウは少しばかり、思いついたことを試してみたい気持ちになった。 「なあ、シャンティ」 「……?」 「コレ、使っていい?」  ユウはシャンティの香油の瓶を手に取って尋ねる。答えが返るのを待たず、手のひらに流した。サラサラとした油だ。手の滑りは格段に良くなるだろう。 「使う、とは」  何のことかわかっていないようなので、そのまま油に濡れた手で彼の熱を握り込むと、あ、と驚いたような声を出した。 「ユウ」 「こうして擦ったら、気持ちよさそうじゃない?」 「ユウ、貴方、何処でそんな、あ、」  珍しく戸惑った様子のシャンティを無視して、くちゅくちゅと音を立てながらソレを愛でる。ヌルつく手は常より滑らかに動いて、シャンティは「だめ」とユウの手を止めようと腕を伸ばしていたが、力は全く入っていないから構わず刺激を続けると、彼は甲高い声で鳴いて首を振った。 「ぁ、あ、……っ、あ、ユウ、ユウ……っ」 「きもちい? シャンティ……」 「ユ、ウ……ッ、はぁ、ぁ、……っ、あ」  ヌルヌルと先端を指で撫でると、「やぁあ……っ」と女のように嬌声を上げる。それが愛しくて、ユウはシャンティを愛し続けた。  目を覚ますと、シャンティに抱かれていて、瞼に口付けを落とされていた。  体を重ねた後で、疲れて眠っていたらしい。んん、と伸びをしていると、「悪い子です」とシャンティが呟きながらもキスを落としてくる。 「香油はあんなことに使うものではありませんよ」 「ん。気持ちよくなかった?」 「気持ち良いかそうでないかは関係無いのです、いいですか、使い方が……」 「気持ちよく、なかった?」  ニヤニヤとして尋ねると、シャンティは一つ溜息を吐いて、答えないまま寝台から出て服を着始めた。そういえば、今は何時ぐらいなのだろう。時計も無く窓も無いこの小屋の中では、時は止まったままだ。 「……あ、そうだシャンティ、外に馬がいるから、また世話を頼むよ。それに、お土産が有るんだ」  思い出してユウも体を起こす。いそいそと寝巻きを着ると、リビングに向かって鞄を開けた。無事だったパンと、土産のショールを取り出す。リビングにやって来たシャンティに「ほら」と見せると、彼は少しだけ驚いた顔をした。 「ダスラ織ではないですか。どうしてそれを?」 「街に行商が来てたんだ。ダスラ織っていうのか。シャンティの布と同じ奴だって言ってたよ、もう染料が手に入らないから同じのは作れないんだって」 「……そうですか、まだ職人が残っているんですね……」  シャンティはユウが差し出したショールを受け取ると、広げて見つめる。暗い橙色はシャンティのものと少し違って明るい色味をしている。それはそれで似合うとユウは思った。 「シャンティが着てくれたらなと思って」 「私に? それは……、それは、ありがとう……」  シャンティはいつもと違う本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、ショールを羽織った。その姿は幼い子供のようでもあり、淑女のようでもあり、また妖艶な商売女のようでもあって、ユウは不思議な気持ちになった。 「大切にします、ユウ」  シャンティはそう言ってから、寝室に戻って行く。へへ、とユウも嬉しい気持ちになって、パンを机の上に置いていると、シャンティが革袋に入った何かを持って来た。 「ユウ、もしその行商がまだ街にいたなら、これを差し上げて下さい」 「ん、……これ、なに?」  受け取って中を見ると、何やら石のような、土の塊のようなものが見える。特段変わったもののようにも見えなかった。 「ダスラ織の染色に使う原料です」 「へ」 「それを渡せば、使い方はわかるはずです」 「え、待って。何でシャンティが持ってるの、もう手に入らないって、おじさん言ってたよ」  ユウが尋ねると、シャンティはキョトンとした顔をして言った。 「それはそうです。その染料を作ったのは私ですから」  私がここに移り住んでしまったから、もう手に入らなかったのですよ。あっけらかんと言われて、ユウはぽかんとした顔をしてしまった。  また、シャンティの謎が増えてしまった。

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