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第12話

「はぁ?つ…付き合うって…」 驚いて叫んだ僕に、蔦田さんは真剣な顔で詰め寄って来る。 「信じてもらえないと思うけど、一目惚れなんだ」 そう言われて言葉に詰まる。 両手を握り締められ、真剣な顔で見つめられて困っていると 「悪いですけど、うちの父親をホモにしないで下さい!」 地の底から這い上がって来たかのような、蓮の声が聞こえた。 そして僕の背後に回ると、蔦田さんの手から僕の手を引き剥がして蓮の腕の中に抱き寄せられる。蓮の逞しい腕に『ドキドキ』したのは、僕だけの秘密。 「随分な言い草だねぇ…。おじさん、傷ついちゃったよ」 静かだけど、怒りに満ちた声に思わず蔦田さんの顔を見た。 蔦田さんは不安な顔をした僕に溜息を吐くと 「邪魔が入ったから、返事は又今度で」 そう言うと、片手を上げてお店を出て行った。 蓮は怒りに任せてお店の調理場から塩を持って来ると、物凄い勢いで撒いていた。 「二度と来るな!」 そんな蓮の姿を見ていて、蔦田さんには申し訳無いけど笑みが溢れた。 僕が告白されただけで、あんなにムキになってくれるんだって…。 いつの間にか僕の身長を追い越して、身体付きも逞しくなった。 そんな蓮が、時々、知らない人みたいに思えてしまっていた。 でも、ああしているとやっぱり僕の可愛い蓮なんだな…って、実感する。 そんな蓮の様子を笑って見ていると、ひとしきり塩を撒いて気が済んだらしい蓮がズンズンと歩み寄ってきた。 そして僕の腕を掴むと 「ハル、ちょっと…」 そう言って、住居へと続くドアに僕を押し込んだ。 思わず靴を脱ぐスペースの段差に躓いて倒れ込むと、ドアが閉まる音と同時に 「ハル…、これはどういう事なんだ?」 静かな怒りのオーラを身にまとった蓮が詰め寄る。 「どうって…。モーニングに来る常連さんで、蔦田グループの代表らしくて…。今日、いきなり店を任せたいって言われて、断ったら告白された…」 怯えながら答えると 「じゃあ、なんで告白はすぐに断らないんだよ!」 前にツンのめった状態から、身体を起こして蓮の方へと向き直すと、蓮に強く抱き締められる。 「あんな奴が好きなのか?」 不安そうに蓮の声が揺れる。 「違う!そうじゃない!」 「じゃあなんで!…なんですぐに断らなかったんだよ」 僕の言葉をかき消すように、蓮が悲痛な声を上げた。 「嫌だ…。ハルは俺だけのハルなんだ。誰に渡さない」 身体を震わせ、蓮が縋るように抱き締める。 僕は背中に手を回し 「うん。僕は蓮だけのモノだよ」 そう頷いた。 すると蓮が驚いたように僕を見つめ 「本当に?」 と呟いた。 僕は両手で蓮の顔を挟むと 「今まで、僕が嘘を吐いた事があった?」 そう答える。 すると蓮は驚いたように目を見開き 「夢…じゃないよね?」 と言うと、蓮の頬を挟んでいる僕の手に蓮の手が重なる。 「ハル…、俺は産まれた時からハルだけを見て来た。ずっとずっと、ハルが大好きなんだ」 幼い頃より声は低くなってるし、僕の手に触れる手はゴツゴツしていて大きい。 でも、僕もずっと…蓮が大好きだった。 確かに、最初は幼い可愛い甥っ子だったけど…。 思春期を迎えて、反抗期になって避けられてるのが辛かった。 でも、それはずっと、可愛がっていた息子に避けられてる寂しさだと言い聞かせていたんだと気付いた。蓮に求められて拒めないのも…、分かった気がする。 僕はどうして…、こうも色々な事に気付くのが遅いんだろう。 蓮の不安そうに揺れる瞳に吸い込まれるように、僕は蓮の唇にキスをした。

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