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第13話 ビシッと決めて!【後編】
【愛する行方】
体躯が怠い……
体躯を繋げてから綾人は……
毎晩のように求めて来る
毎晩はダメと何とか押し止めて週に3回……
終末は綾人の好き放題
セックスは当分しなくても、やっていけるな
璃央はそう思って笑った
一ヶ月に1回でも良い……
でないと怠くて……
体躯が重い……
「中村!試算だ」
統括本部長の栗田が璃央を呼んだ
「はい、会議室使って大丈夫ですか?」
「………お前……怠そうだな?」
「………専業主婦になろうかな……」
璃央は呟いた
ったく……怠いに決まってる
「何だ?中村!」
「いいえ!試算に行きます!」
気怠く璃央は立ち上がった
城田は「本部長、愛され疲れです!構わない様に!」と助言した
「うるさい!城田!」
「さぁさぁ、補助に着いてやるから行くぞ」
城田は璃央を急かして会議室へと向かった
恵太が栗田の横に立つと
「中村は綾小路と結婚してるんですよ」と小声で教えた
「………綾小路……綾人?
彼は男だけど?」
「綾小路家から正式に認められた嫁、だそうですよ?」
「………男だけど?」
「それを言うなら貴方も僕も男ですよ?」
「……恵太……結婚式挙げたい?」
「何言ってるんですか……」
恵太は呆れて栗田の横を離れた
栗田は恵太の後を追った
統括本部長と飛鳥井恵太……
この二人の仲は……周知の事実だったりする
部署の人間は……ラブラブしてるんじゃねぇ!
と仲の良いカップルに辟易していた
総務部 統括本部長 補佐は不機嫌な顔をしていた
統括本部長の陣内は綾人に
「……お前……その不機嫌そう顔……何とかしろ…」
とボヤいた
「………妻が……優しくないんです……」
綾人はボヤいた
「………君の妻って……あの……」
中村璃央でしたね……とは言えなかった
「璃央が……拒否るんです……」
「………浮気してるとか?」
陣内が笑うと、綾人の顔が間近にあった
うっ!……陣内は冗談も通用しないか……
と、辟易した
「妻の心配は仕事が終わったらしなさい!」
「僕の仕事は完璧です!」
自画自賛してみせる
反論できないのが……悲しかった
ズンッと綾人に睨まれ……陣内はたじろいだ
仕事をさせればパーフェクトな男は……
性格に難があった……
完全無欠な男は何事にも興味がなかった
寡黙で人の心を何万光年先に置き忘れて来たかと思えば……
中村璃央には執着しまくり……
ストーカーばりの執拗さで纏わり付いていた
その時、中村璃央が城田琢哉と共に総務にやって来た
「陣内さんいます?」
璃央が言うと綾人は璃央に抱き着いた
「………中村、要件は?」
「経理の方で動かせる金額を聞きに来ました」
そう言い璃央は陣内に書類を手渡した
「材料費……ですか?」
「そう!発注するのにかなりの金額を動かす必要があるので来ました」
「………まだ試算の段階でしょ?」
「試算で1円でも安く叩き出すのがオレの仕事です
材料の買い付けは1円でも安く買い付けねば意味がない!」
一歩も引かぬ中村璃央との攻防戦が一番厄介だった
結局は璃央の粘り勝ちなのだが……
陣内は後のやりくりも考えてくれ!と腹を立てていた
綾人は璃央に逢えてご機嫌だった
気を取り直して、陣内は社員食堂へと向かった
社員食堂には璃央が綾人を引っ付けて座っていた
城田琢哉、瀬能理人、愛染 陣がテーブルを囲んでいた
愛染が陣内に気付いて声をかけた
「陣内さん、空いてますよ?」
「………お前達の隣は嫌だ……」
瀬能が「そんな事言わずに!」と無理矢理座らせた
「………お前ら……暑苦しくないのか?」
陣内の質問に城田は笑って
「慣れですよ」と答えた
愛染も「慣れれば人畜無害ですからね気になりません」と笑った
5人は部署きっての精鋭達だった
「お前達、仲良いのか?」
「俺達は同期ですから!」と瀬能が言った
「璃央は学園時代から連んでたし」と城田も付け足した
「学園時代から……綾小路はこんな風なのか?」
陣内の言葉に愛染は爆笑した
「璃央一筋な奴です
でも仕事は完璧にこなす奴ですから!」
気にするなと三人は言った
城田は陣内に
「璃央は正妻として綾小路家に認められてますから!」と説明した
瀬能も「本名は綾小路璃央って言うんですよ」と付け加え
愛染も「だから綾人の僕の妻発言もあながち嘘ではないんです」とトドメを刺した
陣内は疲れ切って……
「城田、愛染、瀬能、お前達はお相手いないのか?」と話をそらした
璃央は「城田は姉さんの子供を引き取って育ててる……自分の人生捨てた様なもんだって何度も言っても聞かないし……」とボヤくと
愛染は「瀬能は結婚したばかりで妻を亡くして……再婚する気は皆無だし……」と付け加えた
瀬能も「愛染は別れた相手を忘れられなくて……節操なくて遊んでるのに……結婚考えてません」と呟いた
陣内は「皆……色々あるんだな……」と聞いて悪かった……と謝った
愛染は「璃央と綾人は変わらない……唯一無二の存在なんです」と璃央の頭をクシャッと撫でた
城田も「綾人は昔から璃央璃央……だったからな……それが当たり前になってて、離れてたりすると逆に心配になる……」と親心だね……と呟いた
瀬能も「二人が離れないでいる為なら協力は惜しまない!
晴れて妻に認められたのですからね、友として誰よりも喜んでます…」と笑った
羨ましい関係だった
陣内にはない親友関係だった
友も同期も……邪魔臭い存在として生きてきた
抜き身な存在は敵を作り……
仲間を作る事はなかった
今なら解る
今なら唯一無二の友を持つ気持ちが解る
その夜璃央は母親に呼ばれて実家に来ていた
母親は……泣いていた
「……母さん……どうしたんだよ?」
璃央は問い掛けた
母親は璃央に学校からの停学届けを見せた
「……竜吾……何やったの?」
「………家に帰って来ないから解らない……」
しくしく泣いていた
綾人は停学届けを開いて見た
「警察に捕まって学校側としても処分を下さなきゃならなくなったみたいですね」
「………あのバカ……」
璃央は呆れて呟いた
兄の俊作と、璃央、そして17歳の竜吾
中村璃央には兄と弟がいた
兄はこよなく弟を愛し……
弟はひたすら兄を求めた
綾人にとったら脅威の兄弟だった
「兄さんに頼むか……」
璃央は思案した
このまま学校に通わせても問題を起こして退学になるのは目に見えていた
「母さん、竜吾は兄貴に預けるしかねぇと思う……」
「………ホスト?」
「母さん、ホストって言っても結構シビアな世界だぜ?
歌舞伎町で店を出すのは並大抵な努力じゃないんだよ
ましてや店を維持して存続させるのは、実力だけじゃ出来ない芸当だ……
兄貴には人脈も実力もあるって言う事だ」
「………俊作が……受け入れてくれるかしら……」
「……それは……兄貴に相談してみるよ」
「璃央……ごめんね……
お嫁に行ったあんたに言うべきじゃないと想ったんだけど……
母さん……どうして良いか……」
喜美子は万策尽きたと……途方に暮れていた
「で、竜吾は?」
「………解らないのよ……本当に……
お前が家を出てから……あの子も還らなくなったから……」
「なら掴まえるしかないか……」
璃央は思案した
掴まえて話し合いをしよう……
そう考えていた矢先に竜吾が傷害事件で逮捕された
高校生の陣取り合戦がエスカレートして死者が出てると連日の報道で流れるほどの事件だった
主犯格の少年Aは中村竜吾だ……
隠していても……
世間は……真実を暴き出すだろう……
よりによって竜吾は飛鳥井悠太を潰そうと地下に監禁していた
日の光も差さぬ地下に暴行を加えて放置して監禁していた
中には……発狂して命を断った者や、治療の甲斐なく息絶えた子達もいたと聞く……
突き付けられる現実に……
璃央は立っていられなくなった
綾人と帰った家で璃央は綾人に……
「綾小路の戸籍から抜いてくれ……」と頼んだ
竜吾が殺人罪で逮捕されれば……
中村の家は…殺人者を出した家となる
殺人者の家族を持つ……自分達が普通の生活など望んではいけない……
と、心に決め……
璃央は綾人と別れる覚悟をした
子供の時から一緒に生きてきた
綾人が璃央から離れないから……
離れる日なんて来ないと想っていた
なのに……璃央は泣いていた
愛しているのだ……
この面倒くさい男を……
何も言わない男に璃央は
「………他人になろう……」と告げた
そんな璃央に綾人は「別れる気はないよ」と言った
「綾人、オレさ男と同居なんて嫌なんだよ
お前うるさかったから……
仕方なく付き合ってただけなんだ!」
「………璃央……」
「明日……この家を出て行く!
会社も辞める
お前とは今日で終わりだ」
「本気なのか?璃央」
「本気に決まってる!
次の仕事先……見付けないとな……
悪いけどお前に構ってる暇はない…
本当はお前の事嫌いだったし、オレはちょうどいいか!」
「璃央……その言葉……僕の目を見て…ちゃんと言って?」
綾人は璃央を膝の上に乗せた
璃央は歯を食いしばり……
「お前……なんか……嫌いだ……」と告げた
「嘘……璃央は嘘が下手ですね」
「嘘じゃねぇ……」
「僕の目を見て……」
璃央は綾人の瞳を見た
「僕が嫌いなら……こんな涙で潤んだ瞳をしてちゃダメじゃないですか……」
璃央は瞳を瞑った
「………康太さんは怒っていた……
オレは……飛鳥井にいられなくなる……
当たり前だよ……竜吾は康太さんの弟を……」
「璃央がした事じゃない!」
「それでも……アイツはオレの弟だ……
マスコミは親族を嗅ぎつけて……
取材に来る……
そしたらオレ達に平穏な日々なんてなくなる………
当たり前だ……竜吾はそれだけの罪を犯した
離せ!荷造りして出ねぇとダメなんだ…」
報道関係者が突き止めるのも時間の問題だろう……
璃央は慌てた
なのに綾人は璃央を離さなかった
「璃央……僕が嫌いですか?」
綾人の瞳が璃央を射抜いた
璃央の瞳から……涙が溢れた
「………お前に迷惑がかかる……
強いては綾小路の名を汚す……
オレは相応しくねぇんだよ」
「そしたら僕は綾小路の名を捨てます」
「………綾人……それはダメだ……」
「綾小路とは飛鳥井建設に就職を決めた時
僕は綾小路とは関わりのない者になりました
遺産相続は放棄して後継者も放棄しました
僕は綾小路とは関わりのない者です
なので……璃央を離す気はありません」
「………綾人……お前……バカだ……
オレなんか捨てれば良いのに……」
「僕は璃央は絶対に……
手に入らないと想っていました
でも君は僕のモノになってくれました
だったらもう離さない……離したくない
離したら……死んでしまう……」
「………綾人……迷惑が掛かる……」
「どんな困難も……君と二人で乗り越えて行きましょう
僕達ならば……乗り越えられませんか?」
璃央は泣きながら笑った
そして綾人に口吻けた
「愛してる……綾人と離れて……生きていたくない……」
「璃央……僕も愛してます」
「抱いてくれよ……」
「良いですよ……
だけど、僕が目を醒ました時にいなくなっている事はしないで下さいね……」
璃央の心を読んで綾人は口にした
「………オレ……当分外には出ないから……
綾人がオレを囲えよ?」
「ずっと働かなくても食べさせてあげます
でも君は……閉じ込めれば……
元気をなくして萎れてしまうんでしょうね
なので、会社に行きなさい
康太さんも言ってたじゃないですか……」
『お前が飛鳥井の駒なのは変わらねぇ!』
康太はそう言ってくれた
けど……怖かった
璃央は首をふった
「………会社は……行きたくない……」
「なら、この家で僕だけを待って過ごして下さい」
「うん……綾人だけ待って過ごす……
だから……綾人が要らないと想ったら………
オレを殺してくれ……」
「要らないと想う日なんて来ませんよ?」
「お前がいなくなる日なんて知りたくない……」
「そんな日来るわけないでしょ?」
「……綾人……綾人……」
璃央は綾人に口吻けた
綾人は璃央の口吻けを更に深く……接吻に変えた
服を脱いで……
互いを求めて……一つに繋がり愛し合った
璃央は体内に綾人を欲しかった
抜けようとすると……
必死な顔で……綾人に縋り付いて……
気を失って眠りに落ちた
綾人は不安定な璃央を抱き締めて眠りに落ちた
翌朝、綾人は何時も通りに会社に出勤した
………が、璃央は会社へは出なかった
休憩のたびに綾人は璃央に電話をした
メールをした
ラインをした
それに璃央は総て返して綾人を安心させた
『璃央……家にいますか?』
ラインが入る
不安がらせてるのは解る……
綾人が会社に行ってる間に……璃央が消えてしまうんじゃないかって……
不安なのだろう
「家にいるよ」
『君が消えたら僕は死にます』
嘘じゃないからタチが悪い……
綾人は本当にやるだろう
嘘でも脅しでもない
「綾人だけを待ってるから死ぬな
お前が死んだらオレも後を追うしかないじゃねぇかよ!」
『璃央 愛してます』
「オレも愛してる」
その言葉に綾人は頑張る
何時もの倍頑張るから……
鬼に磨きが掛かってしまう……
建設 施工部門の中村璃央が……
長期休暇と退職届を提出したのは……
その翌日だった
城田、瀬能、愛染が康太に呼び出された
康太は三人に「璃央の退職を許した覚えはねぇんだけど?」と告げた
瑛太から中村璃央の長期休暇と退職は伝えられた
康太の駒だから瑛太はちゃんと主である康太にその事を伝える義務があった
城田は「……璃央……会社に出て来ません」と告げた
瀬能も「電話も解約したみたいです」と携帯がいつの間にか使えない現状を伝えた
愛染も「綾小路と一緒にいると想いますが……綾小路の野郎……口を割りません!
そして……綾人の野郎……引っ越しました」と最悪の状態を告げた
「綾人が貰い受けたのは都内のマンションが3棟と横浜にあるマンション2棟だからな、それのどれかにいると想う
が、会社で拉致るしかねぇと想うぜ!」
「………遺産相続は放棄したんじゃないんですか?」
愛染は呆れてそう言った
「遺産を放棄したから父と母と兄と弟と祖父からマンションを贈与されたんじゃねぇか……
遺産相続は放棄しても家族なのに変わりはねぇからな」
「……綾人……弟からもマンション貰ってるんですね……」
城田は呆れて言った
「みんな綾人が心配なんだよ
不器用で璃央しか見てねぇ綾人が……
心配だから自分の資産を綾人に贈与した
今回もな綾小路の家族は璃央をなくさないかって心配している……」
「………璃央が離れるなら……息の根止めますからね綾人は……」
と瀬能は辛そうに現状を告げた
「とにかく、璃央は会社にはなくてはならない存在だ!
お前達四人はオレの駒じゃねぇのかよ?
どれか一つても欠けたら回らねぇって言ったじゃねぇか!」
「「「はい!璃央は我等の盟友です!」」」
三人は声を合わせて言った
「と、言う事で捕獲頼むな!
璃央はそこまで苦しまなくても大丈夫だ
事件の主犯格は捕まる
竜吾は……可哀想だが……この世から消える…」
「……それって……死ぬって事ですか?」
城田は……敢えて問い掛けた
「違ぇよ……オレは……中村竜吾の存在をこの世から消した……
竜吾はもう璃央の弟だという経歴は残ってねぇんだよ……
本人のたっての希望でな……
そうしてやったんだよ……」
「「「真贋……総て話してくれませんか?」」」
三人は康太に事の顛末を話した
「留置された竜吾は……命を断つ気でいた
オレが気付いた時には舌を噛み切って死ぬ所だった
オレは竜吾に死ぬなと言った
竜吾は生きていられないと泣いた
ならお前を生かしてやるから……
お前の希望を聞かせろと問い掛けたら……
この世から中村竜吾を消してくれと言った
生きて来た経歴も……存在も総て……消してくれと言われた
だからオレは消してやったんだよ……
元々竜吾は操られてただけだ……
だが状況は……口裏を合わせた奴等に主犯格にされそうだった
竜吾はそれを知っていた
オレは竜吾に言った
なら望みを叶えてやるからお前はオレの駒に収まるか?って……
そしたら総て……飛鳥井康太に捧げるから……
中村竜吾を消してくれと言ったんだ
璃央が綾小路から離縁されないようにしてくれと泣いて頼んだんだよ……
オレはアイツの望みを叶えてやった
だから……この世から璃央の弟の中村竜吾は消えたんだよ
だけど無傷ったって訳にはいかない
別人になって……今回の罪は償う
だからな……当分は出て来られねぇわ
出て来たらオレの駒として生きて貰う
……だからもう二度と……璃央とは兄弟としては逢えねぇんだよ
その罪を……一生背負うと竜吾は決意した」
自分を消して……
璃央や家族に迷惑が掛からないようにして……
罪を背負って生きていくというのか……
この先……
別人として……
生きていく道を選んだというのか……
城田達は言葉もなかった
「中村竜吾は……また17のガキだ……
皆………その事を忘れちまってるのが口惜しいな……」
康太はそう呟いた
舌を噛み切って死ぬ人間に………
一縷の望みの糸を投げ掛け……
生かすには……
総てを捨て去らせるしかなかった……
弟は家族や兄の生活を願って……
やっと自らの罪の重さを知った
「残酷だ……」
城田はそう言い……瞳を瞑った
愛染も「………竜吾は本当にバカだ……」と目頭を押さえた
瀬能も「………今は……何という……名前なんですか?」と問い掛けた
「今は知らなくて良い……
そのうち……オレの駒が飛鳥井に入って来る
ソイツは叩き上げられたオレの駒だ
その時になれば……お前らは解るだろ?
それまでは……知らなくて良い……」
三人は頷いた
駒に収まったのなら……
代わりはいない
寸分違わず……何時か……
逢えるのだろうから……
三人は綾人に璃央に逢わせろと迫った
綾人は観念して……
璃央の所へと連れて行った
璃央は都内の綾人の所有のマンションに住んでいた
綾人に連れられて部屋の中に入ると……
窶れて痩せた璃央がいた
一体……どれだけの想いでいたのか?
三人は胸が痛くなった
代表して愛染が飛鳥井康太と竜吾の想いを
寸分違えずに告げた
もう……この世に中村竜吾はいない……
竜吾は別人になって罪を償い
飛鳥井康太の駒になって生きていくと告げた
そして璃央は気付く
父と母が会社に働けてる事実に……
父は会社に退職届を提出した
トナミ海運の社長 戸浪海里に直々に呼び出されて……
『飛鳥井家真贋に頼まれてるので退職は許可できません!
今まで通り……いえ、今までより会社に尽くして働いて下さい』
と言われたと言い……
父は前より柔和になって部下ともより上手く行っている……と言ってた
母も会社を辞めるつもりだったが……
「康太がね辞めさせちゃダメだと言って来たのよ!
だから退職を許可したら……怖いじゃない!」
と言い許可して貰えなかった
兵藤美緒が社長の輸入会社で今も働いている
そんな両親の今は平穏だった
ゴシック記者もマスコミも……
一度たりとも姿は現していなかった
璃央は泣きながら……
何も言わず三人の言葉を聞いていた
竜吾……
お前は自分を消したのか?
自分を消して……
家族を守ったのか?
馬鹿だな……お前は……
オレ達は覚悟はしていた
そんな風に……
守られても嬉しくないってば……
馬鹿竜吾……
お前は……本当に馬鹿なんだから………
オレの弟の中村竜吾は……
「………もう……この世にいないのか……」
逢っても……
他人でいなきゃいけないのか……
一緒に暮らして来た想い出も……
「……夢だったのか?」
璃央は呟いた
城田は璃央に
「康太さんは竜吾が17のガキだって……
皆…知らねぇのが口惜しい……って言ってた
竜吾は17のガキなんだよな……
まだ……17年しか生きてねぇんだよな……」
今更ながらに…そう呟いた
愛染は璃央に
「『今は知らなくて良い……
そのうち……オレの駒が飛鳥井に入って来る
ソイツは叩き上げられたオレの駒だ
その時になれば……お前らは解るだろ?
それまでは……知らなくて良い……』
そう仰った
ならば、その日が来るまで……
僕達は油断出来ねぇって事なんだよ?
僕達は飛鳥井康太の駒だ!
僕達に取って代わろうなんて100年早いって思い知らさなきゃ!
男が廃る!違うか?璃央?」
愛染はそう言いウィンクを送った
璃央は立ち上がった
「受けて立ってやろうじゃないか!
なら俺は会社に復帰する!
綾人、そう言う事なので……退職届と長期休暇届、破棄して貰って来てよ!」
綾人は呆れて笑った
だけど、璃央はこうでなきゃ!
「そう言うのは自分でやって下さい!」
「冷てぇぞ綾人…」
「真贋は大変な時期です
僕達が支えなくてどうするんですか!
栗田さんや陣内が……事故ったんです……
康太さんも撃たれて……生死の境におられる
あの方は死なない
絶対に伴侶殿が死なさない
なれば、僕達は会社に行きサポートせねばならないのですよ!
璃央、会社に尽くすのが恩返しです!」
「綾人、会社に行く!」
「では着替えましょう!
そう言う事なので先に会社に行ってて下さい」
綾人はそう言い寝室に璃央を連れて行った
三人は……呆れて綾人のマンションを後にした
城田は「……転んでもタダでは起きねぇな綾小路……」と笑った
璃央を奮起させる材料に利用されたのは……
三人の方だった
愛染も「綾小路はキレ者だからな……璃央の横にいると見落としがちだが……アイツも伝説の生徒会長様だった……」とボヤいた
瀬能も「真贋の不在は痛いが……統括本部長の不在の穴埋め位はこれで出来る!」と先の事を考えていた
飛鳥井康太の駒は
明日の飛鳥井の為に……
飛鳥井康太の為に……
回り始めた
【果てへ‥‥】
嵐のような日々から5年が過ぎた
飛鳥井康太が言った通り、中村竜吾は戸籍から消えていた
生まれた痕跡も……
生きてきた道程も総て消えていた
俊作、父や母は……
璃央から聞いて戸籍を取って来た
戸籍には……中村竜吾の名はなかった……
どうやったのか……
解らないが……
俊作が「飛鳥井家真贋なら容易いであろう……」と呟いた
「………俺は飛鳥井家真贋の情報屋として生きてます」
俊作はその時初めて……自分の事を告げた
父や母は俊作の子供……
双子の片割れを育てている
それが生き甲斐になりつつあった
璃央と綾人は相変わらずだった
「……んっ……朝から盛るな……ぁん……深いってば…」
璃央は朝から背後から抱き締められ串刺しにされていた
「璃央……止まらない……」
璃央の体内で更に嵩を増して……
綾人は硬くなっていた
璃央は綾人の腰に足を巻き付けて誘った
「もっと……奥に……挿れやがれ!」
そう言い噛み付く様な接吻をされた
璃央らしくて綾人は笑った
あの日……分かれると言ってた璃央はもういない……
あの日から璃央はがむしゃらに仕事をした
そして【試算部】なる部署まで作らせた
勢いは留まらず……
全店舗の試算は中村璃央を通せ!
とまで言わしめていた
綾人も新設した【経理部庶務課】の統括本部長をやっていた
経理部 総務部 併せての部署から切り離して貰っていた
【四人衆】と呼ばれる城田、愛染、瀬能、璃央はそれぞれ責任ある部署に着かされていた
だが変わらないのが…四人だった
喫煙室でサボる事は定番になっていた
近頃、城田が結婚した
それを揶揄して……
「城田どうよ?新婚生活は?」と言う
すると意外な言葉に唖然とした
「そのうち離婚する」
「「「え!!何よそれ!」」」
三人が叫ぶと城田は耳を塞いだ
「時雨の母親を……と想ったら……
アイツ……時雨を邪魔にしやがったんだよ」
時雨と言うのは城田が引き取った子だった
小学生にもなると母親は欠かせないかな?
と、思って結婚した
そしたら女は城田の妻になり
時雨の母にはなろうとはしなかった
愛染は「………産んでもねぇ子に母にはなれねぇだろ?」と達観した言葉を投げかけた
「……だよな……時雨……七瀬の方に懐いてる…」
「………七瀬って結婚するまで付き合ってた製図部の七瀬美乃里?」
「……そう!アイツが先に結婚したんだよ!」
七瀬美乃里……城田達より一個下の……男だった
瀬能は「元サヤに収まったら?」と笑った
璃央も「試す事ばっかしてると見失うぞ!」と呆れ顔だった
城田は「それより瀬能、妻は元気かよ?」と瀬能に話を振った
瀬能は最近同棲を始めた
失った女性に囚われて…生きてきた
愛する女性を見付けて第一歩を踏み出した
愛染は……三度目の離婚をした
「………皆幸せそうで……」とふて腐れていた
璃央は「……陣の場合……恋人に誠実じゃないもんね……」と笑った
瀬能も頷いた
城田は「腐れ縁いるじゃん!観念して腐れ縁、受け入れたら?」と諭した
愛染は「……腐れ縁……恋人作りやがった……
僕よりも誠実だわ……男前だわ……文句もつけられないから……断ち切るしかないです」と寂しそうに笑った
「馬鹿だな!陣は!
腐れ縁を取り返してみせる気心ないのかよ!」
璃央は腹を立てていた
「腐れ縁が別れたら頑張るさ
そしたらもう離す気はないって言うさ」
近況について話をしてると綾人が呼びに来た
「真贋がお呼びだ!
お前達も呼んでるので来なさい」
そう言い綾人は璃央の手を取り歩き出した
飛鳥井建設の名物の一つ
絶対に別れない離れないカップル
拝むと……ご利益あると密かに……言われつつある名物だった
幼稚舎から付きまとい恋人になったという強者
下手したらストーカー
中村璃央が、デートに綾人を引っ付けて来るのは有名な逸話だと伝説として伝えていた
手を繋いで歩くカップルは幸せそうだった
ずっと変わらないカップル
社長室のドアをノックすると榊原伊織がドアを開けた
社長は先頃交代した
飛鳥井瑛太は会長になった
飛鳥井清隆は相談役になり会社に残っていた
副社長の座は不在だった
だが飛鳥井翔を始めとする5人の兄弟が仕事を手伝っていた
副社長室は彼らのために空けたと言っても過言ではなかった
「呼び立てて悪かったですね」
榊原伊織はそう言い笑って社長室に招き入れた
社長室のソファーには見知らぬ男が座っていた
何処か………懐かしく……
璃央はその人に瞳が釘付けになった
「お!璃央、紹介するな!」
そう言うと男は立ち上がった
「コイツは城ノ内龍之介だ!
今年、22歳になる!」
22歳……
竜吾と同い年……
「龍之介は飛鳥井家菩提寺の城ノ内優の息子になる
今年大学を卒業したからオレに還してくれた
コイツは城ノ内優と言う僧侶を父に持ち
行く行くは……父親の跡を継いで僧侶になるそうだ!
だが城ノ内はまだ元気だからな息子に世間勉強に出ろと言ったんだよ
で、オレが預かった!」
真摯な瞳が………
竜吾のそれに似ていた
「………初めまして……中村璃央です」
璃央は泣きながら……龍之介に手を差し出した
………生きて……いたんですね……
何処かで……
竜吾は死んでるんじゃないかって想っていた
龍之介は璃央の手を取ると……
強く……握り締めた
「……初めまして……城ノ内龍之介です」
「………出逢えて……良かった……」
璃央はそう言い泣き崩れた
「だから言ったろ?
璃央は絶対に忘れねぇって……」
「………康太さん……」
「血は水よりも濃く………
身内を嗅ぎ分ける為に働くんだ
お前が……全身を整形したとしても璃央にはお前が解る
お前だってそうだろ?
どんだけ変わっても璃央が解るだろ?
それが親子や兄弟……血の絆ってもんだ」
「………俺は……許されません……」
「誰も……永久に贖罪しろとは言ってねぇだろ?
お前は罪を償った……
それで充分だ……」
「康太さん……」
龍之介は泣いていた
何処か……俊作に似た容姿をしていた
俊作を厳つくさせて凛々しくしたら……
龍之介になる
璃央は笑っていた
竜吾と出逢えるなら……
笑って迎えたいと想っていたから……
瞳からは涙を流して……
微笑む姿に……璃央の苦悩を見た……
「………ごめん……」
傲っていた自分は無敵と勘違いしていた
兄……璃央への邪な想いを隠す為に……
家に寄りつかなくなり……
堕ちていくしか出来なかった……
愚かな……
取り返しの間違いを犯したと気付いた時……
自分の存在が……
家族を地獄に堕とすのだと気付いた
殺人者の家族と言うレッテルを貼って……
家族に……罪を背負わさせる……
堪えられなかった……
死んでしまおう……
そう思っていた
そんな時……留置場のドアが開いて……
飛鳥井康太が入ってきた
「お前が死んでも罪は消えない
お前が死ぬ事によって……
家族は下ろせぬ罪を背負わせる気か?」
「………お前は誰なんだ?」
「飛鳥井康太!」
その言葉に竜吾は……瞳を瞑った
飛鳥井悠太……とか言う奴に暴行を加えたのを思い出した
「………俺を殺しに来たのか?」
「お前を殺しても……悠太が死の淵から生き返る訳じゃねぇ……」
「なら……何しに来た?」
「オレはお前の兄 璃央の雇用主だ」
「……え?………」
「璃央は会社を辞めて……綾人と別れる気だ
お前の父も母も……会社を辞める気だ」
「……だよな……殺人者の……身内……だもんな……」
「だから死ぬのか?」
「………それしかねぇ……家族や兄弟にに迷惑かけたんだからな……」
「望みを言え
そしたら一つだけ叶えてやる
その代わり……お前はオレのモノになるんだ」
「………一つだけ……叶えてくれるというのか?」
「そうだ」
「………なら………中村竜吾をこの世から消してくれ………」
「親や兄弟と別れても良いと?」
「………俺がいない方が……幸せになれる……」
「罪は償わねぇとダメだぜ?」
「罪は償う…でもこのままじゃ……家族は犯罪者の身内だとレッテルを貼られる……」
「解った!お前をこの世から消し去ってやる!」
飛鳥井康太はそう言い………
後日弁護士を連れてきた
戸籍謄本には……中村竜吾の形跡は一切なかった……
竜吾は孤児院の出で……親もなく身内もない……
そんな竜吾を飛鳥井家の菩提寺が後見人として拾ってくれた
そして城ノ内住職の子供として戸籍に入れて貰い……
一から人としての修行を叩き込まれ日々育てられた
勉強も教えて貰い頑張って大学に通う事にした
寺の手伝いをしてバイトをして大学に通った
城ノ内住職は親身になって竜吾を育て上げてくれた
「おい!龍之介!」
城ノ内はそう言って竜吾を、龍之介と名を変えて育てて来たのだ
龍之介は城ノ内には頭が上がらなかった
喧嘩も強く……湘南を仕切っていた暴走族だったと……酔うと教えてくれた
たった四人の男が……
全国統一した暴走族を打っ潰した伝説も自分の事の様に聞かせてくれた
その四人の中に……
飛鳥井康太が入っててビックリしたが……
あの威圧感は……頷けた
「璃央、竜吾と言う男は何時も家族の幸せを願っていた……それだけは忘れてやるな
例え……この世から中村竜吾が消えたとしても……アイツの願いは忘れてやるな」
「はい!絶対に忘れません!」
「城ノ内龍之介だ!
飛鳥井康太の駒だ!
お前達と同じポジションに入る」
「はい!宜しくお願いします」
「仲良くな!
ソイツは城ノ内に預けられてるんだからな!
行く行くは飛鳥井の菩提寺の住職になる男だ
父親と同じ道を逝くとオレに言ってくれた
今は親父も元気だからな……」
康太が言うと龍之介も
「父さんに長男が誕生したのに……
何故か……菩提寺は俺が継ぐと……言ってます
長男が継ぐのは当たり前なんだよ
と言ってるので……康太さん……生まれた子に継がせる様に言って貰えませんか?」
「無理だな
アイツは頑固で一度決めたら梃子でも動きやがらねぇんだよ!」
「………義父さん……俺を養子にしたから最初……ゲイ婚じゃないのかって疑われてたし……」
龍之介が言うと康太は爆笑した
「そっか!養子縁組……してぇなオレも…」
腹を抱えて本音をポロリ…
「四人を呼んだのは、龍之介の仕事の事でだ
顔見せと、仕事の内容について話があったからだ
龍之介に【出る】と言う土地や建物を渡しておいてくれ!
頓挫した土地は優先的に見せろ!
それを龍之介に見せて対処をして貰う」
康太が言うと璃央は
「………あの……龍之介さんは……
そう言うのが視えるのですか?」
と尋ねた
「視るだけじゃねぇ!
祓えるし、調伏も出来る
そのために五年間……厳しい修行を重ねて来た
期限付きだが飛鳥井の為に働いて貰う」
愛染は「解りました!強い協力者で助かります!」と言った
四人は城ノ内龍之介を受け入れた瞬間だった……
「璃央……疲れたの?」
帰宅してソファーに座ったまま動かない璃央に……綾人は問い掛けた
「綾人……僕と一緒に死んで……」
綾人は璃央を強く抱き締めた
「良いですよ!」
「お前が死ぬ時……オレも逝くからさ……
オレが逝く時……一緒に死んでくれ……」
「願ってもない事だ
何処までも君と逝く事しか考えていない……」
「綾人……」
「でも、その前に……ライバル出現なので……僕は頑張ろうと思います!」
「ライバル?誰よ?それ?」
「龍之介です!」
璃央は笑って綾人を抱き締めた
「あれは……弟……みたいな感情……」
「それでもね強敵に変わりはない」
「………綾人……来年も……再来年も………
十年後も……五十年後も……一緒にいよう」
「当たり前です……」
「綾人……」
「璃央……」
二人は自然と接吻していた
「綾人……」
「何ですか?」
「今週は試算で出張もある」
「なので、その分…」
「だからな、オレは寝る!」
「えー!そこは愛し合わないでどうするんですか!」
「疲れ果てて逝きたくねぇんだよ!」
璃央は笑って立ち上がった
「ほら、寝るぞ!」
「お触り……禁止ですか?」
「お前は待てを覚えねぇとな……」
「待てなんてくそ食らえです!
ここはやっぱビシッと決めて!
頑張ります!」
お姫様だっこして綾人はベッドに向かった
「お前……ビシッとする場所間違ってる…」
「気にしない!気にしない!」
「少しは気にしろ!」
「今夜の僕はビシッと決めます!」
璃央は綾人の背を抱き締めた
この愛すべき男がいるから生きて逝けるのだ……
「仕事も頑張れ……」
「勿論、総てにおいて頑張ります!」
そんなに頑張らなくても……
良いよぉ……
息も絶え絶えに……璃央はそう思う
でも何年経っても愛されたい
だから何時でも可愛くいたい
この男と共に生きて逝く
そう心に決めた
「愛してる綾人…」
「僕も愛してます璃央!」
重なった想いを手放さないでいるなら…
想いは果てへと続く
END
【笑顔】
「母さん、今夜家に行っても良いかな?」
そう璃央から連絡が入った
母は『何改まってるのよ!何時でも来なさい!』そう言った
母親から電話を切った後に兄に電話を入れた
「兄さん……実家に来てくれないかな?」
『璃央、どうした?』
「話があるんだ……ダメかな?」
『解った!実家に何時頃向かえば良い?』
「8時には仕事が終わるから、遅れても待っててくれないかな?」
『解った待っててやるよ!』
俊作はそう言った
璃央は電話を切ると父親には夕刻電話を入れた
「父さん、今日残業なしで家に帰っててくれないかな?」
『璃央、どうした?』
「話があるんだ……ダメかな?」
『今日は残業なしで家に帰って璃央を待ってるよ!』
父親はそう言って電話を切った
璃央は電話を終えると……庶務課に向かった
城ノ内龍之介に逢う為だ
璃央は龍之介に近付くと
「今夜……時間貰えませんか?」と問い掛けた
「………え?……俺……ですか?」
龍之介はビックリした顔で璃央を見た
「そうです……君です」
「………はい。何か用ですか?」
「君は何で通勤してますか?」
「車です」
「今日は?」
「母が会社まで送ってくれました…」
母が……と言うフレーズに璃央は胸が痛くなった
「なら帰りは送るので来てくれませんか?」
龍之介は覚悟を決めた瞳で頷いた
その夜、璃央に連れられ龍之介は中村の家へと向かった
家の駐車場に車を停めると璃央は車から下りた
龍之介は……下りなかった
「………来いよ……」
「………いいえ……合わす顔はありません……」
「新しく出来た親に……遠慮してるのか?」
「違います……
俺は……総てを……棄てたんです……」
「だから?親子じゃないって言うのか?」
「…………違います……
合わせる顔なんて……持ってない……
って言う事です
愚かな俺は……気付かなかった……
家族を地獄に陥れたのは俺だ……」
「とにかく来い!」
璃央は龍之介の手を掴んだ
そして家の中へ連れて入った
「ただいま!」
璃央が言うと奥から母親が顔を出した
「お帰り璃…………」
唖然となり………母親は立ち尽くした
中々部屋に戻らない母親を案じて俊作が顔を出した
「母さん、どうした……」
んだよ………と言う台詞は……飲み込まれた
母親は「………竜吾……」と呟いた
母の記憶の中の竜吾は……
十七歳のままだった
竜吾が大人になったら……
想像する
竜吾と同い年の子を見ると…思い出す
確かにいた
我が子……竜吾はいた
気配も形跡も総て残したまま……消えた
中村の家には…竜吾と言う子供はいなかった
でも確かにいたのだ…
そして日々想う
そんな母や兄の目の前に……
成長した竜吾の姿をした青年が立っていた
何処から見ても竜吾だった
璃央は龍之介を応接間まで連れて行ってソファーに座らせた
「今日会社に行ったら……康太さんに紹介された……
城ノ内龍之介って言う……そうだよ……」
俊作は「城ノ内」と聞いて
「飛鳥井の菩提寺の住職の名前と同じ?」と問い掛けた
「はい!父は城ノ内優、母は水萠、俺は長男になります」
龍之介はそう言った
俊作は「………飛鳥井の菩提寺の住職の長男か……養子に貰ったんだったな……」と考えを巡らせた
そして続ける
「城ノ内優が養子を貰ったのは5年前……
竜吾、お前が消えた後だ………」
「…………良くご存じですね……」
「僕は飛鳥井康太の情報屋だからな!
あの人の凄さも怖さも……傍で見てきて駒になっている……
お前……竜吾だろ?」
「………はい。ですが……竜吾は跡形もなくこの世から消えました
俺は家族に迷惑を掛けたくない……
その想いで……真贋と取引しましま
俺はあの方の駒になる
あの方は俺をこの世から抹消してくれた
そして新しい人生を送れと……用意してくれたのが今の自分です……」
昔の傍若無人な竜吾はいなかった……
俊作は……何も言わず……龍之介を抱き締めた
「名前が変わろうとも……お前は僕の弟です
その事実は………消えてなくならないよ竜吾
お前の体の中には……父さんや母さんの血を受け継いでいる
その事実は消えてはなくならない……そうだろ?」
「…………兄さん……」
「お前の瞳を見れば……贖罪の日々を送ってきたのは解る
真贋は言われなかったか?
何時までも贖罪の日々を送らなくても良い……って……
あの人は……ちゃんと見ていてくれる
そして適材適所配置されるんだ
お前が……僕達の処へ……姿を現したとしたら……それはもう償わなくて良いって事なんだよ……」
「………兄さん……馬鹿な弟でした…」
「お前を……正してやれなくて……すまなかった……
お前を正すのは家族や兄弟の務めだったのに……
お前を………この世から抹消させた……
ごめんな竜吾………
僕達も覚悟をしていたんです
どんな事があったって……
受け入れようと話していたんだ……
お前が悪い訳じゃない
お前に向き合わなかった……僕達も悪い……」
「………兄さん………」
「生きててくれて……本当にありがとう……」
俊作はそう言い龍之介を抱き締めて泣いた
母も父も悔いる様に静かに泣いていた
璃央は「竜吾……この世の誰も知らなくても良い……
オレらが知ってれば良い……
オレ達は忘れてない
中村竜吾がいた……
オレの弟がいた
絶対に忘れない
生きててくれて本当にありがとう竜吾……
名前は変わっても……
オレは……お前の幸せを誰よりも願ってる……」
「………兄さん……」
龍之介も泣いていた
愚かな自分が招いた……
事だった……
「………竜吾だけが……犠牲になる必要などなかったのに……」
母親も悔いていた
「母さん……」
「………今……何処に住んでるの?」
「………俺は今、城ノ内龍之介と言います
康太さんが俺の生まれる前に遡って……
中村竜吾を消してくれました
俺は生まれつき孤児で、孤児院で育って……
城ノ内住職が養子に迎え入れてくれました」
龍之介は少しずつ……自分のことを話した
璃央は「龍之介は飛鳥井建設に入って来たんだよ!慶応大学出てるのにはビックリしたな……」と今朝の出来事を話した
俊作は「慶応大学……すげぇな……」と感心した
「両親が……大学まで出してくれました
康太さんの役に立てる様に……死に物狂いで勉強しました
康太さんの執事をしている慎一さんが勉強を教えてくれて…何とか大学に入りました」
立派な姿に……
父や母は……胸が熱くなった
親子と名乗れずとも……
我が子の成長は嬉しい
立派になった
それをしたのが………自分達でないのが悲しかった……
自分達の手で……
立ち直らせた訳ではない
竜吾に向き合わず……手放した
今立派に立っているのは……
今の両親の賜物なのだろう……
母は笑った
泣いた顔など……覚えさせたくないから……
この先……竜吾が生きてく上で……
自分達は……介入してはならないのだと…
思い知らされた
「……俺は……今の親に大切にされれば、される程に……
中村の家の事を想いました
親孝行一つ出来ずに……申し訳ないと……
何時も想っていました
兄さん達にも……不出来な弟のままで……
申し訳ないと想いました」
璃央は「………竜吾……」と呟いた
「俺は……今の両親に恩返しをしつつ、あなた方にも……返して行こうと……
心に決めています……
今の俺は……中村の家では赤の他人も同然ですが………
それでも俺は……貴方達と暮らした日々があります
ですから……少しずつ恩返しが出来たらと想っています」
母は龍之介を抱き締めた
「恩返しなんて……良いのよ……
お前が幸せに生きててくれさえすれば……
それだけで良いの……」
「………母さん……」
「恩返しなんて要らないから……
時々……遊びに来て……それだけで良いから……」
「……はい。……」
俊作は「お前の母親って……水萠……って言う巫女?」と問い掛けた
「そうです」
「…………あの怖い巫女か……」
「知ってるのですか?」
「真贋にお祓いに行けと時々言われるからな……
行くと「おなごを泣かす不届き者」とすげぇ扱いされたりする……」
「………あぁ……時々来るホストって兄さんでしたか……」
「………僕は真冬にバケツの水をぶっ掛けられました……」
「………母は女を泣かす男が大嫌いですから……」
「………僕は……泣かせてはません……
女性に夢を与えているのですからね……」
俊作が言うと龍之介は笑った
子供の時に見た………笑顔で笑っていた
屈託のない……笑顔だった
何時から……笑った顔を見なくなったんだろう……
璃央は想う
璃央は……知らないうちに泣いていた
「………璃央さん……」
龍之介は呟いた……
「オレらはお前を背負う覚悟はしてたんだ!
なのにお前は……この世から消えた……
オレ等と暮らした日々を消し去って……
オレ等を護ったと想ってるのか?」
「………想っていません……
俺は取り返しのつかない事をした……
その想いばかりで死のうと想っていた……
そんな時……康太さんが姿を現した
一つだけ願いを叶えてやる……
そう言ってくれたから………
俺は……自分を消す事を頼みました
生きていても……
貴方達を苦しめるしか出来なかった……
そしたら……康太さんは……
俺に第二の人生を送れと言ってくれました
そして……俺の人生はリセットされました
俺は……二度と間違えないと誓いました
俺のこれからの人生は康太さんへ返すために生きるつもりです
適材適所配置された場所で精一杯生きるつもりです」
姿を見れば……
苦悩が刻まれた顔をしていた
今も贖罪の日々を送っているのが伺えられた
「龍之介……この世の……総てが敵に回ろうとも……オレはお前の味方でいたい……
今も……その考えは変わらない……」
璃央はそう言った
「………ありがとう……」
俊作も「僕もお前の味方でいたい……これからもそれは変わらない……」と言葉にした
母親も父親も「「私達も……想いは一緒よ」」と伝えた
龍之介は笑っていた
嬉しそうに笑っていた
父も母も……俊作も、璃央も笑っていた
長い間……忘れられていた笑顔だった
この日から……スタートすれば良い
家族はそう思った
進む道は違えど……
家族なのだから……
龍之介は家族の笑った顔を胸に刻んだ
そして深々と頭を下げた
すると璃央は龍之介の頭を上げさせ抱き締めた
俊作も、父も母も……隆之介を抱き締めた
家族だった……
間違う事なく……家族だった
璃央は龍之介を送っていった
車から下りる時、龍之介は「ありがとうございました」と言い車から降りた
駐車場に城ノ内が出迎えて待っていた
「隆之介!お帰り!」
「父さん、ただいま」
城ノ内は龍之介の肩を抱き締めた
そして璃央を見た
「また誘ってやってくれ!」
そう言い龍之介に似た笑顔で笑った
まだ若い…
璃央よりも年下の……隆之介の父親だった
「………宜しいのですか?」
「構わねぇよ!
龍之介は名前が変わっても、お前達の弟だ
血は水よりも濃い……
他人になれとは言ってはいねぇ」
「………ありがとうございました……」
「礼は飛鳥井康太に言え
総べてはアイツの想いのままに配置されているんだ!
龍之介、母さんが待ってる!
さぁ、風呂に入って寝ちまえ!」
そう言い城ノ内は龍之介を連れて菩提寺の方へと還って行った
璃央は車を走らせた
マンションに還ると綾人が待っていた
「お帰り璃央…」
綾人は璃央を抱き締めた
「……綾人……龍之介を家族に逢わせた……」
「喜んでくれましたか?」
「………うん……家族だなって痛感させられた……」
「良かったですね」
「綾人……ありがとう……」
「何ですか?」
「………オレを支えてくれて……
本当にありがとう……」
綾人は璃央を抱き締めて口吻けた
「お礼じゃなくキスして璃央……」
璃央は綾人に口吻けた
「愛してる綾人……」
「僕も愛してます」
璃央は綾人の胸の中に顔を埋めた
竜吾……
生きててくれてありがとう……
またお前に逢えて……良かった……
璃央は心より想った
生きてさえいれば……
また逢える
明日へ続く関係を築ける……
璃央は……幸せだと想った
この先もこの幸せを離さない!
絶対に!
璃央は笑顔で笑った
幸せだから……笑った
ありがとう……
璃央は康太へ……
感謝の想いを込めた……
その分返さなきゃ!
ビシッと決めて!頑張らなきゃ!
璃央は明日を夢見て……
瞳を閉じた
【あとがき】
此処まで読んで下さって本当にありがとうございます
やっと完結させられました
璃央はもう弱音は吐かないでしょう!
明日を夢見て、璃央は戦い続けます
綾人もそんな璃央を支えて生きていくでしょう!
そんな先を感じさせられる終わり方が出来て本当に良かったです
本当にありがとう
感謝の想いを込めて
2015・10・17 (土)
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