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第12話 ビシッと決めて!【前編】
折り目正しい男は規律と節度と礼節を弁えて生きていた
綾小路 綾人は人生を踏み外す事なく生きて来た
この先も、そのつもりで生きて逝く
なのに………
おちゃらけた同僚……中村璃央(りお)に……
由々しき事をされた……
責任!取って貰いますからね!
【キス】
それは一つのキスから始まった……
飛鳥井建設 社員同士の親睦会
この日、綾小路綾人は同僚の中村璃央に無理矢理引っ張って来られた
「おめぇさ、親睦会、一度も出ねぇってどう言う事よ?」
難癖付けて来るのは何時もの事だった
小学校の頃からそうだ
璃央は何かにつけて綾人に難癖を付けて来た
そのせいで綾人は被害を何度被った事か……
言い出したらきりがない
「親睦会に出ても……誰とも仲良くなる気はない」
「良いけどさ、会社の方針に従わないのは、お前にしては珍しくないか?
規律と節度と礼節を第一に考えるお前が、親睦会に出ないのは変じゃないか?」
「………お酒の場は好きじゃない」
「好き嫌いで仕事すんな!
しかもお前、経理、人事、総務部の統括本部長補佐なんだろ?
だったら下に示しがつかないぜ!」
綾人は同期で一番の出世頭だった
璃央はまだペーペーの社員してるのに、既に本部長補佐をしていた
「………でも……」
「お前さ、顔も俳優バリに良いし頭も良い
しかも身長も高いし、モテ要素は半端なくある
なのに……女っ気のないのは……
その性格故だと何故気付かない……
そりゃ……お前んちは元華族とかで品性があるのは解る……だけど、キスしたら結婚……とか言ってたら逃げる女は……」
「男たるもの責任は取るのは当たり前だ!」
「………お前……童貞か?」
「………当たり前だ!
でもシミュレーションはやっている!
男たるもの相手を満足させられねばならぬからな!」
「………人付き合いも大切だぜ?
お前ならぶっ千切りで本部長にもなれるさ
部下との信頼や付き合いも必要になるだろ?」
「………ふむ……」
「だからさ、今夜の親睦会出ろよな!
お前も参加と出して来たからな!」
強引に言われて…綾人は諦めた
コイツの強引さは身にしみて解っていたから……
この日の璃央はかなりテンションが高かった
この日の親睦会は綾小路綾人が参加と言う事もあって、女性社員は騒いでいた
男性社員も興味津々に見ていた
その中でかなりピッチを上げて璃央は飲んでいた
「………璃央……飲みすぎ……」
「気にすんな!オレはこれからテンションが上がるんだ!」
かなりハイになった璃央が場を盛り上げる
昔から璃央は人に好かれていた……なと思い出した
璃央の回りは何時も人で溢れ返っていた
なのに璃央は何を思ってか何時も綾人の傍にいた
「綾人!」
不意に名を呼ばれて見ると……
璃央の顔が間近にあった
「また出たよ!璃央のキス魔が……」
誰かが叫んだ
「………選りに選って……綾小路統括本部長補佐が犠牲になった……」
皆……青褪めた……
融通が利かない男で有名だったから……
皆は顔を覆った
この後……殴られるのを想定していた
なのに……綾人は璃央の好き放題にキスさせていた
………綾人は何が何だか解らなかっただけだが……
正気に戻ると綾人は璃央を引き剝がした
「………この酔っ払いが……」
そう言い席を立つと……
綾人は璃央を担ぎ上げた
「私は帰る事にします!
それでは皆さん楽しんで来て下さい」
そう言い綾人は璃央を担いで帰って行った
「………璃央……無事で……いられるかな?」
誰かが呟いた
「……多少……顔が歪んでも……自業自得だろ?」
言われ……酔っぱらいたちは
「そうだな!」
と考えないようにした
綾人は酔っぱった璃央を担いで家まで帰って来た
綾人は港の見える高台にマンションを持っていた
その家に璃央を連れて帰った
綾人はマンションに入り、部屋の階までエレベーターに乗った
部屋の階に着いて、璃央を抱えたまま、綾人は鍵を開けた
誰もいない寒々とした部屋に璃央を連れて行き、ベッドに寝かせた
寝てると想ったのに……璃央はニコッと笑って
『綾人…』
と名を呼び、長年の友達にキスしまくった
綾人の股間はギンギンに勃っていた
璃央は勃ち上がった綾人のペニスに触れた
『してあげようか?』
『………交際しない相手としか……僕はしない』
『なら付き合おうよ!』
真面目腐った綾人を揶揄する為に言った
夢中で綾人のペニスを舐めて……
綾人は呆気なくイッてしまった
それを口で受け止めて………
璃央はゲロを吐いた
全裸にしてゲロの処理をした
処理が終わると、疲れ切って綾人は璃央の横に潜り込んだ
人肌を感じて綾人は璃央を抱き締めた
綾人に人肌を教えてくれたのは……
璃央だった
何かにつけて抱き着いて、迷惑をかけられたけど……抱き締めてくれた
「………お前は変わらないな……」
綾人は笑った
「………お前は……懲りないからな……
少しだけ……いじめてやろうかな?」
綾人は楽しそうに笑った
璃央は何時も調子が良い
少しは懲らしめてやる…
そんなつもりだった
璃央の自由さは憧れていた
生き生きと瞳を輝かせ……
見ているだけで満足だった
自分のモノには絶対にならない
手に入らぬ宝のように……見ているだけで満足だった
目が醒めて……
頭上をガンガンと小人がダンスを踊っている気分だった
ズキズキ痛むこめかみを押さえながら辺りを見渡すと……
綾人が寝ていた
「………相変わらず睫毛長いな……」
寝顔に想わず呟いた
整った人形のような顔をしていた
寡黙で喋れないの?
言葉、知らないの?
と思った位話さない綾人を見て来た
しつこく付きまとって……
友達と認識して貰える位にはなった
綾人の顔を見ていると……
綾人が目を醒ました
「………綾人……おはよう…」
「二日酔いは?」
「……なってる……頭ズキズキだ…」
「なれば、後で薬を出してやる」
「…………所で……綾人さん…」
「何だ?」
「何でオレ……全裸?
お前……オレに何かした?」
「何かしたのはお前だ!
僕にキスして襲ったのは君だ!」
璃央は頭を抱えた
「璃央」
「何だ?」
「当然君は責任を取ってくれるんだろうな?」
「……責任?何よ?その責任って!」
「会社の皆の前でキスしたばかりじゃモノ足らず……僕を襲った……」
「………綾人……
………お前が犯られたの?」
「犯られるのは君だけど?」
「………なら責任って何よ?」
「僕は結婚相手としか接吻はしない」
はぁいいいいいい?????
なんと仰いました?
「………once more……」
「僕は結婚相手としか接吻はしない!
お前は僕のファーストキスを奪った
当然、僕と結婚してくれるんだよね?」
「…………オレ……♂……」
「この際構わない!」
そこ……構おうよぉ………
「………あの……綾人さん……」
「何だ?」
「………オレ……お前に掘られたの?」
「掘ってはいません
ちゃんと手順を踏まねば、やってはならない事なのです
お前が僕のズボンと下着を脱がせて……
僕の……ナニを、掴んで扱きだして……
挙げ句……舐めまくって……
イッた所で……僕の服の上で盛大に吐きました
当然君の服も、僕の服も……君のゲロまみれになり洗濯しました」
璃央は頭を抱えた
オレ何やってるの……
綾人のナニを掴んで扱いて……舐めたと言うのか?
酔った昨日のオレ!
取り返しのつかない事をしたな……
高等部の時、綾人に迫って強引にキスした隣町の女子高の生徒は……
キスした以上は結婚しましょう!
と言われて……逃げ出し転校した
なんと綾人は両親に話して、結納の準備をしたのだ
花嫁になる方は花嫁修業をなさって下さい
と花嫁の教育係の人に言われて……
恐れをなした
逃げるしかない……
綾人の前から姿を消した
以来……綾人に近寄ろうとする人間は現れなかった
「璃央、昨日の答えです」
「………え???何?」
「付き合いましょう!」
「………あの??……」
「両親に話しておきます」
「おい!冗談……」
「璃央となら……共に生きていく覚悟を決めました」
「………覚えてねぇんだよ!」
「もう遅い!僕は君を妻にすると決めた」
「………妻……」
「君を幸せにするので大丈夫です」
「………結婚は良いのかよ?」
「僕は三男故に跡継ぎを産まねばならぬ事はない!」
「………綾人……」
「このマンションに越しておいで!」
「……あの……」
「朝早く、君のご両親にはご挨拶しておいた!」
「えー!!何って言ってた?」
「末永く宜しくお願いします!と言われた」
「…………まぢかよ……」
「大切にします!」
もう何も言う気が起きなかった……
「………腹減った……」
「では食事にしましょう!
食事を終えたら引っ越しの手続きをしましょう!」
「………まぢで……」
「しきたりに則って、君を花嫁に迎え入れた後、君を抱きます」
「………今でも良いぞ……」
こうなったらヤケクソ……
もう何時抱かれても良い……
「君を日陰の身には置きません
ちゃんと正妻として迎え入れるつもりです」
「…………正妻……なのか?」
男なのに……正妻で大丈夫なのか?
璃央は言葉を失った
【青天の霹靂】
親睦会は決まって週末に行われる
綾人は翌日の休みを使って、璃央に引っ越しさせた
アパートの解約は……しなかった
同居……だけは会社に知らせたくない……と抵抗したからだ……
で、取り敢えず着替えと必要なモノを取りに行った
その日から……璃央は綾人と同居する事になった
綾人は璃央には甘かった
何も出来ないと思っていたのに……
料理はかなり上手い
今まで食べて来たのは何だったの?
と想う程に……
会社から疲れて帰って来たら、暖かいお風呂に入れて貰い、洗って貰った
髪を乾かして、美味しいご飯を食べて一緒に眠る
正式に式を挙げてないから……
最後までしなかったが……Bまではしていた
挿入しないだけで……
体中舐めまわされて……
事もあろう事か……素股で何度もイカされた
ヘロヘロの璃央を風呂場に連れてって綾人が楽しそうに洗うから……
まぁ良いか……と思った
寡黙で無骨な男の指先が物凄く優しく動くのを……
自分の体躯で知った時……
胸がやけにドキドキしたの覚えている
付き合いはやたらと長かった
なのに………こんな綾人は知らなかった
二人で食事を取る
甘い男は膝に乗せてご飯を食べさせていた
まるで餌付け
なれたら……何の事はない
食べさせて貰って、あーんと口を開けているのも抵抗なく出来た
「良く噛んで食べなさい」
「美味しい!」
バランスを考えて口の中に放り込まれる
綾人も同じモノを食べて、合間に璃央の口に放り込んでいた
「綾人、最近残業多いな……」
「決算期だからな……」
「だよな……」
「君のいる部署は?
忙しくないんですか?」
璃央は建築 施工 建設部門の部署にいた
工事の日程や工事の材料の発注とか、現場に合わせて人工の配置などを主にやっていた
「オレの所はそんなに激務じゃない」
「そうですか」
「綾人、明日の予定は?」
「特に……君はまた親睦会ですか?」
「なら迎えに来てよ」
璃央は甘えだ
酔った時の記憶はない
何故付き合うと言い出したのか……
酔った時の自分の記憶は曖昧だった
だが、こんなに大切にされるなら…
悪くはなかった
恋人とつき合っても長続きはしなかった
見てくれの良さと中身が違う……
別れた恋人は総て口にした
スマートな男じゃない
ムキになるし……
嫉妬もする
見なかった事に出来ないし……
恋人を問い詰める事もした
すると皆口々に……
「………その見かけに騙された……」
と口にした
クールビューティーと言われる容姿と、中身が違う……
恋人は去って行った
不安にならない程に愛されるなら……
綾人で良い
璃央はそう思っていた
飛鳥井建設の親睦会
璃央は盛り上げ係として飲みまくっていた
璃央は飲むとチューする癖があった
だから……あの夜、隣に座っていた綾人にキスしたんだっけ……
覚えていないけど、璃央はふと想い出していた
キスして……
綾人に抱えて連れて行かれた
『綾人…』
長年の友達にキスしまくった
綾人の股間はギンギン勃っていた
『してあげようか?』
『………交際しない相手と……僕はしない』
『なら付き合おうよ!』
真面目腐った綾人を揶揄する為に言った
夢中で綾人のペニスを舐めて……
………どうしても……その先は想い出せなかった
交際を申し込んだのは……オレだ……
それを綾人は受けてくれたのだ
璃央は嬉しくなった
愛されてる
大切にされてる
それが嬉しかった
璃央は気分良く飲んでいた
解散直前になると綾人が璃央を迎えに来た
「璃央……酔ってるのか?」
「らいじょうぶ!
綾人以外にはチューしてにゃい」
キス魔を封印させたのは綾人への愛だと想うと……
くすぐったかった
「綾人、帰るにゃ」
綾人は璃央をヒョイッ担ぎ上げると、連れ帰った
社員達は皆、それを見送って……
「………総務部の統括本部長補佐が直々にお迎えかぁ……」
と呟いた
「あの二人幼稚園からの腐れ縁らしいですよ?」
「そんなに長い腐れ縁かぁ……」
社員達は口々に口にした
融通が利かない男……綾小路綾人……
家柄も財産も名声もある男だが……
いかんせん……昔気質の思考に……
皆 遠巻きにするしかなかった
車に乗せて自宅マンションまで帰る
「璃央……誰ともキスしませんでしたか?」
改めて綾人は問い掛けた
中村璃央のキス魔は有名だったから……
「綾人としか……しにゃい」
「それは嬉しいです」
「綾人、オレ、思い出した」
「何をですか?」
「オレが付き合おうって言ったんだな…」
「だから答えを翌朝言いました
付き合いましょうって!」
「オレ、忘れてた……」
「酔ってましたからね
他に……何か思い出しましたか?」
「………お前の……舐めた所まで……」
璃央は頬を赤らめた
「璃央……君は男と……その……した事あるのですか?」
「男とはない!
これは断言できる!
何でかな……お前のなら舐めれると想ったんだ」
「そうですか……」
「なぁ、何時オレを全部お前のにしてくれるんだ?」
「………璃央……本気ですか?」
「正式にお付き合いしてるんだろ?オレ達」
「…………冗談ですよ
酒癖の悪い……君を懲らしめる為に……嘘をつきました」
「………なら……オレと付き合う気なんてねぇのかよ!」
「………君も僕も男で……正式な交際など……」
「………もう良い……
てめぇはオレを弄んだんだな!」
「違います……」
「オレが何時もお前に迷惑掛けるから?
懲らしめてやろうと想った?
勝手に付き合ってる気になって……オレ……バカみてぇじゃねぇか!」
「璃央……」
「最後まで犯らねぇ訳だよな……
男なんかと付き合う気もなかったんだもんな…」
璃央は泣いていた
綾人は胸がキリキリ痛んだ
こんな風に泣かせる気はなかった
自分なんかが……
手にして良い存在ではなかった……
「下ろせ!」
「嫌です、今夜は泊まって……」
「……殴るかも知れねぇぞ?」
「殴って構いません」
「………アホらしい……」
璃央はそっぽを向いた
その夜璃央は綾人が眠ったのを確かめて荷物をまとめて出て行った
【互い】
璃央は家を出て行った
その日から……綾人は家に帰るのが嫌になった
璃央がいた想い出が綾人を苦しめた
綾人は今まで以上に必死に仕事をした
璃央は自分のアパートへ帰った
綾人に構われすぎた日々が……
璃央を何もやらせる気もなくさせた
綾人……
お前さ……冗談のつもりでオレを……
甘やかしたのかよ?
お前に甘やかされて過ごした日々ばかり思い出す
生活全般、綾人がやってくれた
御飯まで食べさせて貰っていた
ボーッと考え事をしてると携帯電話が鳴り響いた
璃央は着信相手を見た
綾人ではなかった
がっかりして璃央は電話に出た
「………母さん、何?」
『お前、綾小路の坊ちゃんの足手纏いになってないか?』
「………何の事?」
『大切にするんで一緒に暮らさせて下さい
……と、申し出があったのよ!
まるでプロポーズね!
私達は反対はしないわ
お前が好きになさい!』
そう言えば親には電話を入れたと言ってたな…
「………母さん、オレが綾人の妻になっても良いのかよ?」
『綾小路の方々は綾人さんから申し出があって、了承を取り付けてるわ
相続権の放棄と後継者から手を引くと約束して、綾人さんはお前を選んだのよ』
そこまでしておいて……
手放すなよ!
何だか腹が立って来た
腹を立ててると玄関がノックされた
璃央は立ち上がってドアを開けた
「今晩は璃央君」
玄関に立っていたのは綾小路家の長男 綾瀬さんだった
「……綾瀬さん……」
「お邪魔しても良いかな?」
「……あ、どうぞ!狭い所ですが…」
「本当に狭いねワンルームなんだね
綾人の所で暮らせば良いのに……」
「……お話は何ですか?」
「綾小路の家は古い
旧華族の頃から、果ては皇族の血を引いている」
「………知っています」
「まぁ、聞きなさい!
綾小路の家から時々、女に興味のない人間が産まれる
昔、先祖が衆道に走った経緯もある
男の愛人を家に囲った先祖もいる
綾小路はそんな子供を排出して来たから、跡継ぎになる者は、このご時世でも子供を沢山産める女と結婚している
それは男しか愛せない人間が必ず出るからだ
綾人の場合、君と出逢うまで何も興味を持たぬ子供だったが……
君への執着は……飛鳥井建設に就職する程に……ですからね」
綾瀬は笑った
綾小路家は事業をいくつも持っていた
複合企業体コングロマリットだった
綾人なら、その中のどれかに入ると想っていた
「君が飛鳥井建設に入社を決めたから、綾人も飛鳥井建設に入社を決めた
そして綾人が生涯を璃央と生きていきたいと申し出して来ました
家族はやっとか……程度でした
それ程に綾人は君に一途でした
だから家族は条件を出したのです
遺産相続の放棄と後継者辞退の提示をした
綾人はそれを総て飲んで君を選んだ
綾小路の家は君を正式な伴侶と認め、迎え入れると決めた
…………なのに……教育係の者が行くと……
璃央とは結婚しません……と綾人が言い出した……
この由々しき事態の真相を聞かせて戴きたいのですか?」
ギロッと睨まれて……璃央は観念して総て話した
総て話しを聞いて綾瀬はため息を吐いた
「………不器用過ぎでしょう……」
「ですよね!」
「璃央、君は綾人の妻になる気はあるのですか?」
「あります!」
「綾人とこの先何があろうと共に生きていけますか?」
「努力します!」
「綾人は相続権も総て放棄した」
「別にオレは綾人の財産などあてにはしない」
「でしょうね!君なら!
君には教育係を付けるので教育を受けて貰い
然るべき待遇で一族の者に紹介致します」
「え……それはどう言う事ですか?」
「嫁と認めます!
綾人の伴侶として一族は認めると言ってるのです
近いうちに綾人の伴侶として花嫁教育を受けて貰います」
「はい!でも綾人……逃げ腰ですけど?」
「それは君が何とかしなさい!
夜這いするなり、綾人を振り向かせなさい
綾人には君しかいないので、直ぐに振り向くと想いますよ?」
「なら夜這いするか!!」
「綾人は君に惚れています
自覚がなかっただけです
家族は全員知っていました
………子供の頃……君と出会った日から綾人は君のストーカーでした
同じ幼稚園に転入して、同じ小学校、同じ中学、同じ高校、同じ大学、同じ職場とまぁ……君を追いかけてますからね……」
「アイツまだ挿れてやがらねぇんだぜ!」
「………同棲してる間に……犯ったと思いました……
根回しする暇に……普通は犯るでしょうに……
本当に綾人は……」
綾瀬はため息を着いた
「兎に角、……夜這いして、オレが自分から挿れてやる!抵抗しても上に乗ってやる!」
「健闘を祈ります!
不器用な子ですが……
君しか見ません
弟を幸せにして下さい
そして君も幸せにして貰いなさい」
「はい!」
綾瀬はニコニコして帰って行った
璃央はベッドに寝っ転がり、どうやって振り向かせるかな……
と思案した
臆病で不器用な男を想像した
子供の時から、学生時代から……
ずっと横にいる男の傍に行きたいと想った
「………あんなに勃起してるのに……
我慢しまくる男の本心をどうやって暴くかな……」
綾人……
お前の傍に行きたい……
お前に大切にされて日々生きたい
一緒に寝て
愛し合う日も
そうでない日も一緒に寝たい
離れたくないのは……璃央も一緒だった
璃央は会社に行くなり同期の3人を集めた
「なぁお願いがあんだけど?」
璃央は同期の奴、城田琢哉、瀬能理人、愛染 陣を呼び出してみた
城田は面倒くさそうに
「………お前のお願いはロクなもんじゃない!」と嫌がり
瀬能は仕方なさそうに肩を竦め
「聞くだけ聞いてやる
どうせ、綾小路の事だろ?」と言ってのけた
愛染は「早く結婚しろ!お前の面倒を見れるのは綾小路だけだろ?」と返した
「だから!頼みが有るんだよ!」
理人が言うと城田が瞳を輝かせた
「お!反撃に出るのか?」
瀬能は「とうとう綾小路のモノになる覚悟が出来たのか!」と楽しそう
愛染も「なら協力してやる」と乗り気だった
「綾人をオレの前に連れて来てくれ
アイツ……オレから逃げ回ってやがる……」
弱気な璃央の言葉に城田は
「ならさ、お前がヘマやって会社をクビになりそうだ……と噂流すか?」
と提案した
愛染が「意気消沈して今にも自殺しそうだ……」とか付け加えるか?
瀬能が「それを統括本部長補佐に直々に言ってやる!
噂で流すと尾鰭と背鰭がオマケで着いて来るからな……」と提案した
城田は「お前、会社を休め」と言い
愛染は「根回しはやってやる!」と肩を叩いた
瀬能は「後は綾小路の想いがどっちに転がるか……」だけだ……
城田は円陣を組んだ
「賽は投げられた」
城田の手の上に瀬能が重ね
「お前は運命を掴み取れ!」
二人の手の上に愛染も重ね
「融通が効かぬなら押し倒して鳴かせてしまえホトトギス!字余り!」
璃央は一番上に手を重ね
「うし!オレは綾人をゲットするぜ!」
と叫んだ
翌日 決行開始
その日、璃央は会社を休んだ
城田琢哉、瀬能理人、愛染 陣 の3人は出勤するなり、総務部 統括本部長補佐の所を尋ねた
「綾小路君、少し良いかな?」城田が言う
綾人は怪訝な瞳を城田に向けた
「中村璃央の事なんですが……」
瀬能が言うと綾人は
「聞きましょう!要件は何ですか?」
とパクッと餌に食い付いた
「…………璃央………仕事でヘマやって………
会社をクビになりそうなんです……」
愛染は苦しげに言葉にした
綾人は表情を強ばらせた
「………璃央は…何をやらかしたのですか?」
心配そうな綾人の瞳に………
3人は確信を持った
「アイツ……会社にも来ません」
城田は主演男優賞バリの演技で言ってのけた
「……どんなヘマですか?
僕の方でフォロー出来るならします」
「…………ここ数日……アイツ、上の空だったから………」
愛染もかなり泣きそうな顔をして訴えた
「………クビになる前に……会社を辞める
アイツ……その一点張りで……会社にも出て来ません……」
瀬能は不安げに璃央の事を心配してる顔を作った
「………璃央……会社に出てないのですか?」
「………このままアイツ!」
涙を堪える城田が叫んだ
「会社を辞める気だ!」
目頭を押さえて……瀬能が言った
「アイツはチャランポランだけど、責任感は人一倍強いからな……」
まるで故人を偲ぶみたいな出来かな……と愛染は想ったが……
続けるしかなかった
早く……璃央の処へ行きやがれ!
全員が想った
やはり……トドメを刺すしかないか……
城田は「………アイツ……落ち込んでいたからな……」と不安を煽った
「………自殺したりしてないよな?」
これでもか!と瀬能が押して
「……………璃央は本当は脆い奴だからな……
それは幼少期から一緒にいる貴方が一番解ってるんじゃないんですか?」
と愛染がトドメを刺した
綾人は考え込んで……
「君達が見に行けば良いんじゃないんですか?」
………と返しやがった
城田はキレた
「俺達が行って逢えてるなら統括本部長補佐に言ってないだろうが!」と怒鳴った
瀬能も冷静な表情を取っ払い
「誰も逢えないから……こうして貴方に言っている!
誰か連絡取れるなら、とうの昔に俺達は止めに入っている!」
と怒鳴った
愛染に至っては
「………もう良いです!
璃央にとって綾小路が特別なんだと想っていた
だけど、貴方にとったら璃央はどうでも良い存在なんですね!
貴方に頼もうとした僕達がバカでした
警察に捜索願を出させれば良かった
今からでもご両親に捜索願を出すように頼みに行きます!」
綾人を切り捨てて、3人は立ち去ろうとしていた
「璃央は家に!
…………家にいないのですか?」
「俺らは璃央の家は知らない!」
城田は言い捨てた
意外な言葉に綾人は城田を見た
「………璃央の家……知らないんですか?」
綾人が問い掛けると瀬能が
「会社の同僚の家を、貴方は知ってますか?
僕達は会社の外では遊んだり飲んだりはしますが、家まで連れては行きません
仕事とプライベート
一緒にするなら相当、ソイツを信頼しなければ……家は教えません!」
と訴えた
「……捜索願は待って下さい!
僕が璃央に連絡を取ってみます……」
城田は「お願いします」と綾人の手を握った
愛染も「………アイツ……救って下さい」と硬く手を握り締めた
瀬能も「………頼みます」と綾人の手を握った
綾人は3人の手を握り………
「僕はこれより璃央の処へ行きます
お休みだと本部長に伝えておいて下さい」
と言い、駆けて行った
城田は息を吐き出した
「…………あの人……意外に頑固……」
愛染も肩の力を落とした
「……結構面倒臭い人だよね」
瀬能も額を拭って
「………これで食い付かなかったら………
鳩尾に拳を入れる所だった……」
と有段者が語った
なんにせよ!
璃央頑張れよ!
と3人はエールを送った
この貸しは大きいからな!
どうやって取り立てようか……
ほくそ笑む3人から徴収される事を……
璃央は知らなかった
綾人は地下駐車場まで行くと、愛車のプリウスを走らせた
この車は璃央が車のカタログを見て、カッコいいな……と呟いたから買った車だった
璃央はこの車の助手席に乗るのが好きで、何時も乗せてくれよ!って言っていた
その璃央のお気に入りの車を走らせて璃央のアパートまで走らせた
璃央のアパートまで来て車を停めた
車から下りて璃央の部屋のドアを叩いた
留守なのか……
璃央は出て来なかった
綾人は璃央に電話を入れた
すると部屋から着信音が鳴り響いた
「璃央!璃央!部屋にいるんでしょ!
出てらっしゃい!璃央!!」
綾人は叫んだ
すると璃央がドアを開けた
「そんなに叫んだら近所迷惑だろうが!」
「………璃央………生きてた……」
綾人はガクッと崩れて地面に崩れ落ちた
璃央は腰砕けになった綾人の手を掴み……
部屋の中に招き入れた
【立場】
部屋に連れて行くと、璃央は綾人をベッドに座らせた
「何か飲むか?」
「………要りません……それより璃央……何をやって会社をクビになったんですか?」
「………お前に言っても……何ともならない」
「言わないと解らないじゃないですか……
僕が……取り成すので…」
「……オレ……会社を辞めるわ」
「璃央!!何処へ行くのですか?」
「何処へ行こうかな……」
「………璃央……決めてないのですか?
なら、兄さんに言って綾小路の会社の一つに行きませんか?」
「………それは嫌……」
「僕も飛鳥井建設は辞めます!
僕と一緒に………璃央……」
璃央は綾人の腕を掴んで………
ガシャッと手錠を掛けた
「………え?………」
「オレと他の会社に移ってくれるってか!
オレを追う癖に……逃げやがって!
オレをお前の妻にしろ!」
ベッドの柵に手錠を掛けて、綾人の服を脱がし始めた
「………璃央………どうしたんですか?」
「花嫁教育、始まるんだよ!
オレさ、お前の花嫁になるんだよ!」
「………あの話は……断りました……」
「オレさ綾瀬さんに引き受けると言った!
このアパート引き払ってお前のマンションに行って一緒に暮らす予定だ!」
璃央は綾人のスーツを脱がせに掛かった
ネクタイを外して、ワイシャツのボタンを外した
はだけた胸に、璃央は指を這わせた
「怖じ気付きやがって!」
「……璃央……止めて……」
「やだよ!
オレが触ると感じる?」
「………璃央……どうしたんですか?」
「無理矢理でも……お前と一つに繋がる気だ!」
「………璃央……触らせて……
全部……僕にやらせて……」
「嫌だ……お前、直ぐに逃げるし…」
「逃げないから……」
「絶対だぞ!」
「約束します…」
「…………でも、逃げたから……お仕置き…」
璃央は綾人のズボンの前を寛げた
ビンビンに勃ち上がったペニスが、下着の隙間から顔を出していた
「すげぇな……先っぽ……濡れてる……」
璃央は下着から顔を出してるペニスの先っぽを撫でた
「………璃央……」
先っぽを舌でペロッと舐めてやると綾人は仰け反った
「………イキそうだな……
イッたらお仕置きにならない…」
綾人の見てる前で璃央は服を脱ぎ始めた
綾人に見せ付ける様に一枚一枚……脱ぎ捨てた
「……璃央……」
綾人の手が璃央へと伸ばされる
璃央はその手をヒョイッと避けて、ワイシャツを脱いだ
璃央のツンッと尖った乳首が綾人の目の前に現れた
括れた腰からヘソに掛けて……
瞳は釘付けだった
ベルトを外し、ジッパーを下ろし……
ズボンを脱いだ
「………璃央……お願いだ……触らせて……」
「ダメ、お仕置き」
「璃央挿れたい……」
「挿れたら責任取れよ?」
「挿れる以上は然るべき責任を取ると言った筈だ…」
「……なら……もう逃げるなよ」
「………璃央……璃央……」
「あんまし鳴かせるなよ……
このアパートは壁が薄いんだからな……」
「無理です……自制なんて効く筈がない……
でもこのアパート引き払うんですよね?
なら……大丈夫です……璃央……早く……」
璃央は綾人の手錠を外した
すると綾人に押し倒された
「………キスは?綾人……」
キスを強請って見上げると……
執拗な接吻をされた
綾人はズボンも下着も脱ぎ捨てて……
璃央の体躯を弄った
「………璃央………ごめん……」
綾人は謝った
「オレの事、どう想ってるか聞かせろよ」
「愛してる……璃央の傍に……ずっといたいんだ……」
「ならオレを離すんじゃねぇぞ!」
「………離さない……絶対に離さない……」
綾人は璃央に口吻けた
乳首を摘ままれて……捏ね回され……引っ張られた
痛みと……疼く様な快感が……体躯を走った
身体中噛みつく様な愛撫を受けて……ヒリヒリした
綾人は璃央の脚を持ち上げて折り曲げると……
アナルを舐めた
ペロペロ舐められて……
逆に璃央が抵抗した
「……汚いってば……」
「舐めて傷付けない様にする
だから璃央……挿れて良い?」
「……痛くないなら……」
「最大限善処します」
言われて指を挿れられ……拡げられた……
「……慣れてる……誰かとした?」
「シミュレーションは怠らないと言いませんでしたか?」
「……シミュレーションの相手……誰だよ?」
「………璃央です
僕は……君しか眼中にない見たいです……」
「オレが会社に辞めたら……お前どうする?」
「辞めます
そして璃央の後を追います」
躊躇する事なく紡がれる言葉に……
璃央は胸が熱くなった
「璃央……挿れて良い?」
「挿れろよ!んなの聞かなくても良いってば!」
恥ずかしいからぶっきらぼうになった
解れるまで舐められたアナルは蕩けきっていた
蕩けきったアナルを確かめて、綾人は挿入した
かなりの圧迫感はあったが……
痛くはなかった
「…………痛いですか?」
「大丈夫だ……動けよ……」
「男には前立腺と言う感じる場所があるそうです!
それをこれから掻き回して探します」
…………この男は……
甘い時間を愛し合おうとかないのか?
真面目に言われて……
璃央は呆れ返った
痺れだ様になった下半身に快感が襲って来たのは……
直ぐ後だった
「……ぁ……何?……あぁん……ゃ……何これ?…」
「気持ちいいですか?璃央……」
「………気持ちいい……お前は?」
「君の中……キツくて……熱くて……気持ちいいです…」
「そりゃぁ良かった……」
ニコッと笑うと……
ガシガシ腰を揺すられた
「……ゃん……あぁっ……ぁん……」
璃央の口から甘い吐息が零れた
二人は夢中になって……
互いを求め合った
璃央は気絶して……
意識を戻して……
気絶して……
何度か繰り返した
その間ずっと……
下半身には突き刺さったままだった
童貞とか言った癖に……
璃央は完全に意識を手放した
もう……起きてやるもんか!!
「璃央……璃央……」
優しい指が頬を撫でる……
揺すられて目を開けると……
心配した綾人の顔があった
「綾人、どうしたんだよ?」
………んな、泣きそうな顔して……
綾人の頬に手を当てニコッと笑うとギュッと抱き締められた
「………覚えてますか?」
「覚えてるに決まってるだろ?
人を酔っ払いかボケ老人の様に言うの止めろ……」
「………僕、飛鳥井建設、辞めます」
「そうか!お前、飛鳥井建設辞めるのか……
オレは定年まで飛鳥井建設にいるのにな」
「…………え?……」
「オレが、んなクビになる様なヘマやると想ってるのかよ?」
「…………辞めないのですか?」
「お前さ、オレを避けてるだろ?
だからあの三人に頼んでお前を誘き出して貰ったんだよ」
「…………騙されました……
迫真の演技でした……」
「今度、オレを捨てようと想ったら……
息の根止めるぜ!」
親指を立ててニコッと笑われると……
璃央には勝てない……と想った
「………璃央……璃央……」
甘えて首に抱き着けば……優しく抱き締められた
璃央は昔から……
変わる事なく傍にいてくれた……
「花嫁修行……してくれるのですか?」
「おう!お前が他の誰かのモノになる位ならな!
オレのモノにして…….
ずっと……ずっと……一緒にいたいと想ったんだよ!」
「………傍に……」
綾人の肩は震えていた
離れる恐怖を誰よりも知っているのは綾人だった
「オレの婿になるんだからな!
ビシッと決めて、生きて行けよ!」
「はい!君を妊娠させられる様に頑張ります!」
ヘロヘロなのに……
再びガシガシ揺すられて……
璃央は完全に気絶した
飛鳥井建設 総務部 統括本部長補佐
通称 鬼の綾小路!
今日も彼の行く先には恐怖が湧き起こる……
廊下にゴミが落ちてれば……
「会社は顔です
自分の顔に貴方達はゴミを落としますか?」
ゴォォォォォォォ……と恐怖を背負い
本部長補佐が静かに威嚇する
「只今!」
たまたま、そこに居合わせた社員は箒とチリトリを持って走る
掃除をした社員には
「君が汚した訳ではないのに、済みませんでしたね」
と慰労の言葉が降ってくる
…………だけど………顔が怖くて……
社員は聞いちゃいなかったが……
妥協を許さない
融通……と言う言葉を遥か彼方に追いやった……鬼の綾小路……
彼が廊下を歩けば社員は……廊下に寄って立ち止まった
飛鳥井康太はその光景を見て笑った
「伊織、おめぇよりすげぇの……いたな……」
あまり嬉しくない言葉だった
「………彼は鬼……です」
「おめぇも昔は鬼って言われたな
龍なのにさ!」
康太はニコニコ笑っていた
「………康太……僕はあそこまで……恐怖政治はやってません!」
……………そうか?
あんまし変わらないって想うんだけど……
康太が黙ると榊原は「康太!」と名前を呼んだ
「あんだよ?伊織」
「………黙らないで下さい……」
拗ねた様に言われ康太は笑った
可愛い男だ
康太の愛すべき男だった
「伊織は伊織のままで良い」
青龍は青龍のままで良い……
変わらなくても良い……
康太の愛だった
「それにしても……華族の人間ってのは……
皆 あぁも堅苦しいのか?」
康太が言うと康太の横に立っていた男が
「まさか……綾人は曾祖父に酷似してるせいで、融通が利かないのです」
「綾瀬……お前の弟、飛鳥井建設にこのままいて良いのかよ?」
「構いません
璃央は会社を変わる気は皆無
綾人は璃央の傍を離れる気は皆無……
仕事だけは出来るので……堪えて下さい」
綾瀬の言い分に康太は笑った
「お前の弟、一途で可愛いな…」
「………その台詞が吐けるのは貴方と璃央くらいなもんです」
「そうか?」
「そうです!
五人兄弟の中で一番の堅物……
綾那 綾野 綾太は……もっと柔軟です」
「仕方ねぇだろ?
ガキの頃に一生涯の相手と出逢っちまったんだからな……」
綾瀬は弟の姿を見送り
「………綾人が……独りでいなくて良かった…」
と呟いた
璃央をなくせば……
綾人は独りで生きていくしかないから……
他は要らない……
頑なに独りだけ求め生きて来た弟が、孤独に陥らなくて良かった……
綾瀬は胸をなで下ろした
「さてと、仕事するか綾瀬!」
「………多少は……手加減して下さいね!」
「……手加減か………それを決めるのは建築施工部の中村璃央だ
お前も飛鳥井建設の電卓の噂は聞いた事位あるだろ?」
「………相手は璃央でしたか……
では綾人を貸して下さい!
綾人に私の援護射撃をしてもらいます」
「…………それだと、負けたも同然だな……」
康太はそう言い笑った
「綾小路本社ビルの建設の依頼ですからね
少し優位に立ちたいと想います」
「綾瀬」
「何ですか?」
「綾人が璃央に勝てると思うか?
璃央は厄介な人間だとオレは思うぞ」
「………僕も……そう思います……」
綾瀬はため息をついた
「アイツは電卓を持たせたら無敵だからな!」
「………綾小路に欲しいですが……」
「それは駄目!
アイツが高等部の時にツバ付けといたからな!」
康太は笑った
飛鳥井建設の電卓
と璃央は言われていた
建築に掛かる料金を試算して打ち出す
その的確さ
後はもう値切る相手に一歩も譲らず契約を取る
飛鳥井建設の電卓と威名を持つ中村璃央だった
副社長室のドアがノックされた
榊原は立ち上がってドアを開けに向かった
ドアの前には璃央が立っていた
「中村、ご苦労さまです」
「副社長、試算ですか?」
「そうです!綾小路の本社ビルの建築の試算をお願いします」
「解りました!
では話を聞きましょう!」
璃央はタブレットと電卓を手にして社長室の中へと入ろうとした
「璃央!」
綾人が璃央が副社長室に呼ばれたと聞き付けて、駆けてきた
「………綾人……どうしたよ?」
「君……何をしたんですか?」
「仕事に決まってるだろ?」
璃央は呆れた顔をして、綾人の手を掴んで副社長室の中へと入った
「オブジェだと想ってください!」
璃央はそう言いソファーに座った
「それでは、敷地面積、構想、イメージ、工事期間をお聞き伺いましょう」
璃央はタブレットを操作しながら電卓を弾いた
綾瀬は建築構想を璃央に渡した
璃央はタブレットを物凄い速さで触りながら電卓を弾いた
「立て壊し工程、着工、施工
下請け、人工の確保
材料資材の発注
貴社の要望通り数字に換算すると、こうなります」
璃央は綾瀬にタブレットを渡した
非の打ち所のない見積もり換算に……
綾瀬はお手上げした
「………康太……やはり璃央は手強い……」
「だろ?飛鳥井建設の電卓だかんな!」
「羨ましい……うちの会社にも欲しい…」
「んな事になったら綾人も退職するだろ?」
康太が言うと綾人は「はい!」と即答
綾瀬は呆れて、康太は爆笑した
「割れ鍋に綴じ蓋とはよく言ったな」
康太が言うと綾瀬はボヤいた
「………本当に綾人は昔から璃央しか見てません!」
「言ってやるな
で、どうする?
璃央に反論して値切り交渉するか?」
「………止めときます
でも、少しだけサービスして欲しいです
オプションサービスしてくれませんか?」
綾瀬が言うと璃央は
「正面玄関にオブジェ、サービスします」
と大幅に譲歩して提示した
「ほほう!オブジェ……ですか?
康太、物凄いサービスされました」
「良かったな綾瀬
で、どんなオブジェをサービスすんだよ?」
「オレの友人が新進気鋭の彫塑作家なので依頼します
友人はそのうち頼んでも作って貰えぬ程のモノを造ります」
璃央が言うと綾瀬は興味深そうに問い掛けた
「作家の名前は?」
「海堂秋穂」
「…………知らないな」
「そう言ってられるのも今のうちです」
璃央のやけに自信満々の言葉に綾瀬は興味を持った
「………へぇ……そこまで言ってしまえるんだ…」
「ええ!アイツなら、それだけの賞賛が貰えると想ってます」
「その作家にオブジェを頼むなら……
相応の値段はいるんじゃないのか?」
「オレは海堂のマネージャーを遣ってるんです
海堂を売りに出す、これはチャンスと踏みました!
綾瀬さん海堂のパトロンになってくれませんか?」
「………パトロン……」
綾瀬は言葉をなくした
「………あの……芸術家に投資するのをパトロンと言います
囲って好き勝手にする方ではないです」
「………なら……その彫塑作家の彼に逢わせて貰わないとね」
「彼じゃなく彼女です」
「………え?女で彫塑作家なの?」
「ええ!オレはアイツの才能に惚れてます」
璃央が言うと綾人が焼きもちを妬いて抱き着いた
「………綾人……」
「お前が一番愛してるのは僕だって言ったのに……」
「…………綾瀬さん、近いうちに逢わせます
彼女の作品を見て気に入ったら出資してやって下さい」
璃央は抱き着かれ辟易しながら言った
綾瀬は乗り気で、文句を言う事なく飛鳥井建設に新社屋の建設の依頼をした
これは余談だが……
海堂秋穂に逢わせてもらった綾瀬は、秋穂に一目惚れした……
秋穂は結婚するにあたって彫塑を続けるという条件を出した
それを認めて貰えないなら結婚はしない!
そう言って牽制した
だが綾瀬は一歩も引かず……
諦めた秋穂は綾瀬の妻になった
独身貴族を誇っていた綾瀬を結婚させた璃央の手腕に……
綾小路一族は……敵に回さなくて良かったと心底想ったのは言うまでもない
綾小路綾瀬の結婚式が盛大に行われた
璃央は綾小路の一員として式場に参加していた
肩書きは『綾小路綾人の妻』だった
結婚式には各界著名人に有識者を招いて、綾小路此処に在りと知らしめる結婚式となった
その中に飛鳥井康太も伴侶と共に参列していた
海堂秋穂は美しい容姿を引き立たせ純白の衣装を身に纏っていた
璃央は秋穂に
「こうして見ると……お前、女に見えるわ」
と揶揄した
璃央の知ってる秋穂はタンクトップに短パンの出で立ちでドリルを持っていた男前だったから……
「我はお前が綾人の妻になったのは知らなかったぞ!
何時結婚したんだよ?」
「オレしかアイツの妻は務まらねぇじゃねぇかよ!」
璃央はそう言い笑った
「………悔しい……我と結婚すると想ってたのに……」
「お前は綾瀬さんの妻になったろ?
紛らわしい事を言うな!」
「お前が人のモノになったからな……
我も近くに行こうと想っただけだ!」
花嫁は誰よりも美しく微笑み……悪態をついた
端から見たら……
美しく気高く女神のように美しいと謂われた花嫁が、悪態を着いてるとは想わないだろう……
「ほれ、美しく笑って綾瀬さんの妻を演じてこいよ!」
「なら、お前も可愛く笑って綾人の妻を演じて来るのだ」
「オレは元々可愛いからな、今更だ」
璃央はヤケクソになって呟いた
秋穂も「我だって元々美しいから今更だ」
と笑った
綾瀬が妬いて秋穂のそばに来た
「秋穂、花嫁さんなんだから僕の傍を離れないで……」
「璃央は家族も同然だから気にするでない」
「…………秋穂……」
ヤキモチだと気付くだろうに……
秋穂は気付かなかった……
璃央は「ほら、花嫁の役目を果たせ!」と秋穂を送り出した
「お前も妻の役目を果たせ」と秋穂は璃央の傍を離れた
綾瀬の弟の綾那 綾野 綾太が璃央の傍にやって来た
綾那は「璃央!久しぶり」と綾瀬とよく似た顔で微笑んだ
綾野は「元気にしてたか?」と綾人によく似た顔で笑った
綾太は「綾人とは上手くいってるの?」と綾人の父によく似た顔で璃央の手を取った
綾人は兄弟にも嫉妬を露わにして牽制した
「寄るな!」
綾人の言葉に三人は笑った
「……出たよ…」綾那はボヤいた
「綾人の独占欲が…」綾野は笑っていた
「誰も取りませんよ兄さん…」
と綾太は綾人に言った
綾瀬
綾那
綾人
綾野
綾太
綾小路家の5人兄弟だった
綾小路家で一番早く結婚したのは……
意外な事に綾人だった……
綾人の妻を璃央と認めさせ、一族に迎え入れられた
その璃央の知り合いと綾瀬は結婚した
べた惚れで求愛しまくってやっとこぎ着けた挙式だった
残りは次男綾那 四男綾野 五男綾太だった
綾那は綾小路家の一つの会社の社長をして
綾野は幾つかの会社を修業して回っていた
綾太は大学生で、彼等は浮き名は流しまくりのプレーボーイだった
新婦側の女性陣からの熱い視線を一身に受けて、それを流していた
綾人は隣の妻をこよなく愛し、脇目も触れずにいた
傍目から見たら……一対のカップルとして見られていた
それを綾小路家が受け入れて認めているのは一目瞭然だった
綾人の母 貴子が璃央の横に行った
「璃央、元気そうだな」
「貴子さん、元気です」
「綾人は……邪魔ではないか?」
「愛する男ですからね邪魔だなんて!」
璃央はそう言い笑った
学生時代から貴子は親友の息子でもある璃央を可愛がってくれていた
「喜美子、元気にしてる?」
「あの人は殺しても死にはしません
でも寂しがってましたね
兄は好き勝手やってますし……
オレは綾人と一緒にいる為に家を出た
弟は……非行に走って……母さんを泣かせてます」
「あら、それはそれは……喜美子も大変ね…
璃央も嫁に行ったしね」
「それが一番母親が喜んでましたね
綾人を引っ付けたままじゃ……
婿に行っても戻されて来ちゃう……って…」
「……あり得るから笑えないわ……」
璃央は笑った
「実際……綾人を引っ付けたまま……デートに行った事あるんだったよね?」
「ええ。デートだって言うのに離れないので仕方なく綾人を引っ付けたまま行きました
当然……フラれましたよ……
彼女の前で……綾人の膝の上に乗せられて食事をした日には……翌日大学で有名になりました……」
璃央は思い浮かべてため息を着いた
貴子は璃央の肩に手を置いた
「璃央……綾人を見捨てないでくれて本当にありがとう……」
「逃げた綾人を押し倒したのはオレですからね!
押しかけ女房になり、綾人の横の位置を手に入れました」
戸籍上は綾小路璃央となった
だが会社では中村のままで良いと飛鳥井康太が言ってくれたから、中村のままだった
貴子と話してると飛鳥井康太が傍にやって来た
「璃央、お前の挙式かと想って来たのにな…」
康太は璃央を揶揄した
「康太さん…オレの挙式なら……こんなに盛大では困ります……」
「盛大に挙げて貰えよ」
「別に式なんてどうでも良いです
盛大に挙げても離婚する時は離婚する……
オレの従兄弟は若いのに×2ですよ?」
「璃央……言うな……夢がない……」
「夢ならありますよ!
綾人とオレの最適な老後」
康太は爆笑した
「貴子、久しぶりだな」
「康太、久しぶりだ!
また素敵になったな伴侶殿!」
「だろ?オレの伊織が一番男前だったからな!」
「ごちそうさま!」
貴子は笑った
「しっかり者の嫁が来て良かったな貴子」
「あの綾瀬が結婚するとは……
私も驚いた……天変地異の前触れかと想った」
「酷い言われようだな」
「我が家の男どもは……綾人以外は歩く生殖器みたいなもんだったからな……」
プレーボーイの名前を欲しいままに好き勝手やっていた
「貴子、秋穂は次代の綾小路家の礎を築く子を産む
大切に守ってやれ!」
「…………そうか……潰れないか……綾小路は…」
「新しい風を入れたからな、先へと繋いでしまったみてぇだな!」
「康太……ありがとう……」
「貴子、宵山には京都に行く」
「お待ちしております」
貴子は深々と頭を下げた
康太は笑って貴子の横を素通りしていった
盛大な挙式は熱気さめやらぬうちにお開きになった
璃央は綾人と引き出物を持って帰宅の途に着いた
「璃央……結婚式……挙げたい?」
ソファーに座って綾人は問い掛けた
「結婚式挙げたらからと言って永遠に綾人と一緒にいられる保障はねぇだろ?
だったから一緒にいられる日々を築いて行く方が大切だと想う」
「………僕……璃央を妻に貰えて幸せです」
「そうか?」
「璃央は?」
「オレは綾人の妻になれて幸せだぞ!」
綾人は璃央を引き寄せた
璃央の唇に唇を重ね……貪った
いつの間にか綾人の手が服の中に忍び込み……
乳首を弄った
「……オレ……結婚式で疲れてるんだけど?」
「僕は璃央が欲しくて……堪りませんでした
璃央……愛してます」
ズルい……
そんな事言われたら……
ダメって言えなくなる……
キスの合間に璃央は服を脱ぎ始めた
「綾人も脱げ…」
「抜く時間も惜しい……」
璃央のペニスを口に咥えアナルを解した
「あぁっ……いきなりはダメだって……んっ…」
璃央は仰け反った
リビングのサイドボードの引き出しを開くと、ローションが入っていた
綾人はローションを手に取ると、璃央のアナルにローションを垂らした
綾人がその気になったら何処ででも出来る様に……
どの部屋にもローションは置いてあった
「………冷たい……」
「直ぐに熱くなる……」
綾人はズボンの前を寛げると、ペニスを取り出した
蕩けたアナルに綾人は挿入した
圧倒的な熱い塊が璃央の腸壁を掻き分けて入って来る
璃央は体躯の力を抜いて……
綾人の背中に縋り付いた
揺さぶられ……
噛み付かれ……
意識は朦朧となる
「………綾人……イクっ……」
「璃央……一緒に……」
同時に熱い白濁を吐き出して……
璃央は意識を手放した
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