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第一話

「大きくなったら、おれがあなたをお嫁さんにしてあげるからね。ぜったい迎えに来るからね」  そう言ってくれたのに、幾度夜を迎ようと君は一向に来てくれない。あと何度ため息をついて、一人静かな山の中で君を待たねばならないのだろうか? 君に抱かれる準備などもう遠の昔に出来ているのに。白無垢が似合うように肌も白くして髪も伸ばしてみたのに。紅をさす練習だってしたのに。それでも迎えに来てくれないのは僕が男だから? 同じ人間じゃあないから? 君よりもうんと長生きだから?  本当は理解っている。約束したときの君は幼い子供だった。だからきっと忘れてしまったんだろう? 今はもうきっと、普通にお嫁さんを貰って子供が産まれて幸せになっているのかもしれない。人間は、それも幼子なんてものはすぐにものを忘れてしまうから。僕に会いに一人で山に登ってきたことも、途中で摘んできた花をくれたのも憶えていないんでしょう?  君に出逢う前は夜など一瞬で過ぎて行ったのに、何でだろうね? 今はまるで山鳥の尾のように長く感じるよ。嗚呼、今日も君は来なかった。だから僕はまた今夜も君の夢を見るだろう。  

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