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1話 「春」出会う(前編)

高校2年生の春。 2年生になって1度も学校に訪れることもなく3日が経っていた。昼頃なのに、気まぐれに訪れた学校は何故か静か。静かだからこそ、廊下の窓から見える景色は、桜の花びらが風で散って幻想的に見える。 自分が2年1組になったことは友達からメールで知っていた。 2-1と書かれた教室のドアを開けると、男子が一人でポツリと座っている。 制服をピッチリと着ている真面目そうな彼を特に気にも止めず、黒板の方へ歩く。 どこかに座席表がないか探すが、どこにも見当たらない。 真面目な彼に聞くしかなさそうだ。 窓側の席に座っている彼は、日誌のようなものをずっと書いている。 その右横の席に俺は勝手に座って、椅子だけ彼の方に向けた。男子は黒髪メガネで少し地味。初対面だろう。 とりあえず笑顔で話しかけてみよう。 「はじめまして。俺、渋谷快晴っていうんだ。俺の席、どこか知らない?」 彼はペンを止めて、俺をチラリと横目で見た。 金髪でピアスも多く空けてるし、驚かれたかもしれない。付き合っている彼女にも、付けすぎで少し怖いと言われている。 怖がらせないためにも笑顔で言ったつもりだが、彼はまたペンを動かし始めた。そして目線は書いているものに戻して、答えた。 「はじめまして。君の席は僕の右斜め後ろの席です。」 「まじで!?席近いんだね。よろしくー。」 挨拶はスルーされたが、悪い奴ではなさそう。 「他の人は?今日は授業じゃないの?」 「先生から今日の午後は自習と言われました。そしたら他の生徒は少しずつ帰っていって、最後は僕だけ残りました。」 「ふーん。そう。」 聞かれたことにしか答えない。まるでロボットみたいだ。こんなやつ1年生の頃に居た記憶が無い。 「君の名前はなんていうの?あ、俺のことは快晴って気軽に呼んで〜。」 「僕はこのクラスの委員長、泉原春樹です。」 「委員長か!じゃあその書いてるのはやっぱ日誌ね。めんどくさいのによくそんなのやってるね。」 「……。」 なぜか無視された。 そして流れる沈黙。 春樹は1度もこっちを向いてくれない。彼がどんな顔をしてるのか、少し気になった。 横からだと髪が少し邪魔で、いまいち顔が見えない。 手を伸ばして、彼の髪を耳にかきあげた。 それと同時に春樹はバネのように立ち上がり、俺の手を叩いた。 その顔は真っ赤になっていて、少し間を置いた後に叫ばれた。 「勝手に触らないで下さい!」 「…!」 春樹は日誌や荷物を持って教室を走って出ていった。 髪の毛がサラサラだったな。めっちゃ顔赤いじゃん。叩かれた手がわりと痛い。思うことは色々とあった。けどなにより驚いたのは、春樹の右の耳に空いたピアスの穴。 思い出したのは昨夜の出来ごとだった。

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