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4話 事象(後編)
そしてお昼、教室のベランダで俺は裕貴にココ最近、起きたことを全て話した。
「いや快晴、最低じゃん!」
「だよな〜。俺もそう思う。」
俺はベランダから見える地面の草を見ながら、パンをかじる。
「じゃあ春樹を好きになったから、美海ちゃんと別れるってことだろ。というか、一年の頃に全く学校に来てなかったのに、ここ2、3日は朝から来てて何かあったとは思ったんだよなー!」
「いや〜。俺もびっくりすぎよ。最近、色々とありすぎて頭パンクしそう。まさかオレが男を好きになるなんて…。」
「お前が好きな人をきちんと作れたことに驚きだよ。美海ちゃんと別れるかどうかはともかく、早く春樹には謝った方がいいんじゃない?あ、だから春樹に頭下げてたのか。」
「見てたのかよ〜。」
「そりゃ、見えるわ!」
「謝ったけど、しつこいって言われたよ。その後、先輩に呼び出されてて話せなかった。」
教室の中を見ると、春樹は今も席を離れているようだった。いつも教室でお昼を食べていると思っていたけど、今日は別の所で食べているのだろう。
「あー。春樹を呼び出してた先輩って、あの人、よく夜に色々とやばいことやってるって噂の人じゃん。やばいんじゃないの?」
「ヤバいってなにが?」
「だって、呼び出してた先輩が春樹のことを昨日手を出した人の一人だったら?いくら暗くて、いつもと見た目が違くても、春樹は頭が良いことでこの学校で有名だし、正体バレてるんじゃないの?」
「え?それで先輩から呼び出しくらったって言いたいわけ?それで今はいないとか?じゃあ春樹は今頃…」
「…俺、想像したくないんだけど。」
気づけば俺は教室を飛び出していた。
廊下をとにかく走り、先輩たちのたまり場になっている場所を一つ一つ見る。
息が上がり、だんだんと苦しくなる。
廊下でぶつかりそうになった先生が怒って何かを言っているが、言葉が頭に入ってこない。
ここまで俺は春樹のことが好きなんだな。
すると走っている廊下の窓から、庭に一人でしゃがんでいるのが視界に入った。
足を止め、廊下の窓を開ける。
「春樹!!!」
俺の叫んだ声を聞いて、相手は振り返った。
「…一体、どうしたんですか?」
相手はやはり春樹だった。その手にはジョウロを持っている。息が切れている俺におどろいているようだ。
「え、春樹は何をしてるわけ?」
「先輩に頼まれて、庭の花に水やりしてるんですよ。園芸部なので。」
「園芸…部?じゃあ朝、もらってたメモってなに?」
「そのメモに花に水をあげてほしい時間や場所が書いてあるんですよ。それで、あなたは何しに来たんですか?」
「はぁぁぁぁ…。心臓が止まるかと思った思った〜。」
思わず、大きなため息が出る。
ただの考えすぎなだけだったようだ。
「本当に、何の話ですか…?…って、ちょ、ドアから普通に出たらいいじゃないですか。」
春樹に小言を言われながらも、窓から外に出た。
「何度も言われてしつこいかもしれないけど、許して欲しい。昨日は本当にごめん。」
「……。俺はしつこい人は嫌いです。」
「うん…。」
「けど、俺が夜に着替えてまで外で遊んでいるのには理由があります。いつもどこか、かたぐるしくて。受験に失敗したのに、俺は期待を向けられて嫌だったんです。誰かに俺を見て欲しかった。」
「うん…。」
「そう思った時、よく分からない先輩に襲われて怖かった。けど俺を助けて、きちんと堅物の俺じゃなくて、初めて本当の俺を見てくれた…。そんな貴方のことを、簡単に嫌いに離れません。」
「!!!」
春樹は顔を赤らめ、少し涙目でいた。
本当は突然、あんなことをされて怖かったはずだ。けれどその言葉だけで俺は許された気になった。
春樹の腕を引き寄せ、抱きしめた。
「ちょ!あなたの返事にイェスと答えたつもりはありません!」
「俺、諦めないから。絶対に。」
春樹を抱きしめると、俺の腕にすっぽり入る。それほど小さくて、か弱い。
「どうせ、俺に断られ続けるのが落ちですよ。」
「あ、あと、たまに抑えられなくなってキスとかしたらごめん。」
「あなた、何も学んでませんね。」
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