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「父上!」
ノックをした後に勢いよく国王の執務室を開けると、国王は豪華な椅子に座り、その前にあるテーブルにたくさんの資料を広げ執務をしているところだった。
そばには右大臣左大臣がいたものの、他の従者の姿はこの場にはない。
「…騒がしい。今は職務中だぞ。何か急用か?」
この部屋に入れる者は限られた者だけなので、国王も安心しているのだろう。
突然の訪問にも仕事を休めることなく、目線だけをジークに向けた。
「はい!シノ様が、私の魔力と共鳴されました!シノ様はやはり神子様です!」
この場にはシノの存在を知る者しかいなかったため、大きな声で自信満々にジークは告げた。
しかし、皆の反応はジークの思っていたものと違い、嬉しそうな感じはなく訝しげなものだった。
「…共鳴、ですか?ですが、シノ様はまだ魔法も使われてないでしょう…?」
最初に口を開いたのは左大臣だった。
「本当です!シノ様に触れた時に、私の魔力が動いているのを感じて…そして私が触れていた部分のシノ様の傷が塞がったのです!」
「…ほう」
ジークのその言葉に、国王は一点を見つめたまま何か考え込んだ。
「しかし…共鳴はあくまでも言い伝え程度であり、まだ実在するものとは断定されていません。それに共鳴は本来、召喚者などがそばにいることで神子様の能力が強まった時に使われている言葉です。それが事実だったとしても、共鳴と言えるものか…」
そう言い始めたのは右大臣だった。
「私の魔力でシノ様の治癒力が高まったと考えれば、共鳴と言えるのではないですか?是非一度シノ様の様子を見に来て下さい!」
普段国王や大臣に意見をのべることの少ないジークのあまりの自信の持ちように、国王たちはようやく仕事を止めて重い腰を上げた。
本当にそれが共鳴ならば、この国だけでなく世界的にも重大な発見かもしれない。
そしてシノが神子様であると、断言できるようになるかもしれない。
皆は医師を引き連れ、シノの部屋へと向かった。
「シノ様、突然押しかけて申し訳ありません。先ほどの傷が治った体験を、皆にも知っていただきたくて…」
「……はぁ」
久しぶりの国王たちの訪問に驚いたのか、シノは布団の上で起こした体を、少し強ばらせているように見えた。
そんなシノに、医師が先陣を切って近づく。
「…確かに。今朝ガーゼを外した時には、血が止まったばかりの細長い傷があったのですが…よく見ないと痕があることすらわからないほどに無くなっていますね」
医師がシノの顔をマジマジと見つめながら言うのを聞いて、ジークは確信を持つように頷いたが、大臣たちがすんなり納得することはなかった。
「…ですが、私達は今朝の傷の状態を知りませんので、どの程度のものがここまでになったのかわかりませんし、ただ単にシノ様の回復力が高いだけなのかもしれません。他の傷の状態はどうなのですか?」
右大臣のその言葉に、医師は「失礼します」と声をかけてシノの左腕を触り、包帯をほどいた。
「一番外傷が酷かったのは左腕のこちらです。複雑骨折で傷口も大きかったのですが…こちらは朝の様子と変わりないように思います。…左足も失礼します…左足には切り傷や打撲がありましたが…こちらも今朝と変わりなさそうですね」
「…ふむ」
医師の言葉に大臣たちが渋い顔になったため、ジークは慌てて訂正を入れる。
「私が触ったのは、頬だけなんです!きっと触ったカ所に共鳴したんですよ!…そうだ!今から手と足を触りながらやってみますから!だから見てて下さい!
―…シノ様、失礼します!」
ジークは包帯をほどかれたままのシノの左腕に右手を、左足に左手を添えて目を閉じた。
唱える呪文などないので、ただただ傷が治るように祈るだけ。
「……」
皆が固唾を呑んで見守る中、ふわっと自分の魔力が動くのを感じた。
「……っ」
誰かの言葉にならない声が聞こえてぱちりと目を開けると、シノの傷口がゆっくりではあるが、目に見えて塞がっていくのがわかった。
(やっぱり…成功だ…!)
「 ほ…ら……」
ほら、私の言った通りだったでしょう?
ジークはそう言葉にしようとしたが、それが声になることはなかった。
シノの傷が塞がりきる直前に、ジークの視界は暗転し、真後ろに一直線に倒れるようにして意識を失ってしまった。
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