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第5話(エピローグ)No.1ホスト紫月の回想

 ホスト仲間の帝斗のことが好きだった。  好きだったはずなのに――  もう一人の同僚の白夜が差し出した突然の淫猥ないざないに乗せられ、信じられないような欲情にまみれて堕ちた。ほんの昨夜の出来事だ。  ヤツが灯した官能の火は、帝斗に抱いていた淡い想いを一撃で砕いちまうほどに衝撃的で、俺は自ら望んでヤツに乱されたいと、本気でそう思ってしまった。ヤツの腕の中で狂い、果て、満たされて――そして今、俺はヤツのベッドの中にいる。  白夜と絡み合う場面を帝斗に見られたショックで俺は意識を飛ばしてしまった。ほんの数時間前のことだ。  その後、白夜は俺を連れて自分の家へと戻ったんだろう。薄ぼんやりとした記憶の中で、ヤツが丁寧に介抱してくれていただろう感覚だけが全身に残っている。  大好きだぜ――  本気だぜ――  意識のない俺に向かってヤツはそんな言葉を繰り返してた。何度も何度も頭の隅の方で同じその言葉を聞いたような気がする。  どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分からない。実際のところ、ヤツは何をどうしたかったのか、それすらもはっきりとは理解しきれずにいる。  もうすぐ夜が明けるんだろう。フットライトの小さな灯りをかき消すような蒼い蒼い闇の中で、俺は今、どうしようもなく揺れてとまらない気持ちと闘ってる。  バカでかいベッドの上で、少し手を伸ばせばすぐにも触れ合えるところで静かな寝息を立てているコイツと、昨夜の続きをしたいだなんて疼いてる自分自身も信じられないでいる。  俺の視線が追い掛けていたのは帝斗だ。帝斗の……はずだ。それなのに、今は全く別のことで頭をいっぱいにしてる。こいつのことで……胸が熱くなってる。帝斗に抱いていた淡い恋慕とは比べ物にならないくらいのドでかく熱い何かが全身を這い回るようで、苦しいくらいの思いと闘ってる。  ふと、いつかお客の子が言ってたことを思い出した。 『ホンモノの恋に落ちるとね、すごいのよ! もうね、自分の意志なんて関係なくて、一瞬でその人に引き込まれちゃうんだから。何ていうか……すべてを持ってかれちゃうって感じ』  それを聞いた時は女独特のメルヘンチックな戯言だと思ってた。内心、鼻先で笑ったこともしっかり覚えてる。まさかそれが現実に起こるだなんて、思いもしなかった。  つい昨日までは意識さえしたことのなかったコイツのことで今は頭がいっぱいになってる。コイツが言った一言一言が、頭の中で甘く低い独特の色香を伴った声で繰り返されてとまらない。 『お前が帝斗を好きなように、俺はお前が好きだから。お前が他のヤツのことばっか気に掛けるのを見てんのは限界だったから――』 『欲しいか――?』 『ヤろうぜ続き。もっともっとよくしてやる。もっと……めちゃめちゃに乱してやるよ』  こいつの差し出したトライアングルが形を崩し、いつかこいつだけを追い掛け欲する、そんな時が来るのだろうか。何の迷いもなく、どっぷりと心も身体も預け合って満たされる――そんな夢を望んでもいいんだろうか。  複雑な思いに戸惑いながらも、手を伸ばし、触れてみたくなる。  蒼い闇がやがて金色の朝の光を連れてくるように、心の底から欲するものを追い掛け続けてみたい。  隣で眠る白夜の温もりを感じながら、再び訪れた睡魔に身を委ねた。 - FIN -

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