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何処(いずこ)へ?
シャワーを終え脱衣所に出ると、
例のイケメン君が ”待ってました”みたいな感じで立ってたから。
思わず俺は ”げっ!”となって、
とりあえず大事なところは手で隠した。
「ささ、これにお着替えねー」
突き出されたのは、大きな紙袋。
多分中身は服だと思われる。
「って、え? スーツ? 俺じゃ似合わないって」
まさかスーツ着て外めしって、
高級レストランとか料亭の類なんか?
そんなの俺、絶対無理! だから。
さすがに昨日の今日でオーダーメイドではなさそうだが、
やけにサイズが合っているその洋服に怯む。
「何でもいいから、さっさと着替えろ」
上手い具合に言いくるめられ、
俺はあれよあれよという間に着替えさせられ、
どこかで見覚えのある黒塗りの高級車に
押し込まれてしまった。
***** ***** *****
普通、乗車するのが運転手を含め身内だけの場合、
上座は「助手席」になるハズだが。
運転手はきっちり黒いスーツ姿の何となくチャラい感じのお兄さんで。
助手席にはやけに顔の整った、これまた黒いスーツの男が乗っていた。
「あぁ ―― この2人はこれからもちょくちょく顔を合わせると思うから
紹介しとくな。運転してんのが浜尾利守。助手席のおっさんは、俺の秘書兼
教育係で八木だ」
2人はそれぞれ俺に向かって目礼した。
「秘書兼教育係、って?」
「社長……もしや、自己紹介もまだなのですか?」
”八木”と言われた男が前を向いたまま言った。
「あーっ! そういやぁーそうだったな」
って、ガハハハ ―― と笑い飛ばすイケメン君。
「俺、手嶌竜二、ヨロシクな」
「お、俺、いや、僕は成瀬真守です」
「やだなぁ~、そんな急に畏まるなよ。俺の事は竜二って呼んでくれ」
砕けた口調は相変わらずだけど……
あのマンションといい、この高級車といい ――
よもや”一般人”だとは思ってねぇし。
よーく見れば、八木さんも、一見チャラい浜尾さんも
”夜の世界の雰囲気をまとっている”というか……
気軽には近寄り難い雰囲気がある。
「あのぉ……社長 ―― って?」
「あぁ。一応親父から受け継いだ会社動かしてる」
「へぇ~……」
マジマジと隣を見ていきなりある事を思い出し、
声を上げそうになって、自分の口を両手で覆った。
(嘘、だろ ―― まさか、な……)
「何だ。何か言いたそうだな」
ククッと喉の奥を鳴らして笑う。
愉悦に揺れる顔まで綺麗で目眩がしてくる。
「……もしかして、祠堂学院の卒業生だったりします?」
「まぁな」
「じゃあ……」
「ま、実際には高等部の1年1学期から停学食らって、
そのまま留学したからあそこにはほとんど通って
ないんだけど。未だ学籍は残ってるらしい」
生徒会の”幹部三役”のうち会計監査役員を
幼なじみの国枝 勇人がやってるので、
以前1度卒業式の準備を手伝った時、生徒会室に
飾ってあった歴代生徒会会長の写真で唯一”後ろ姿”
だけしか写ってないものがあって。
不思議に思い聞いてみたら、
アレが祠堂の伝説ともなってる先々代会長の物
だと教えられ凄くびっくりした。
「写真、嫌いなのか?」
(あのとき感じた疑問をそのまま言葉にし、
ついタメ口を聞いてしまい、慌てて言い直す)
「―― じゃなくて、嫌いなんですか?」
「身内だけの時はタメ口でいいよ」
砕けた口調の竜二とは対照的に、
車内の空気はだんだん凍りついてゆく。
「でも……」
「写真、な。俺、一応”手嶌組”の跡目候補だから、
今は必要以上に自分の顔、晒しちゃいけねぇんだ。
だから、うちの会でも組でも俺はもとよりおふくろや
兄弟達の顔を知ってるのは幹部のごく僅かしかいない」
「そっか……」
(見かけによらず結構苦労してるんだな)
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