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①
「ねぇ.......!待って!」
歩道橋の上でぶつかった相手に「すみません」と口にして、通り過ぎようとした時、腕を掴まれた。
「は?」
「俺、そこの高校通ってる2年!こんなタイプの子.......いなくて!いま逃したらもう会えないような気がして.......!」
「.......へぇ」
目の前で必死に俺に頼み込んでる男は、完全に俺のことを女だと思っているらしい。
俺は、正真正銘生物学的上男で別に女格好をしているからといって、男が好きなわけでもない。
姉貴が経営しているメイドカフェのメイドが入院したとかで駆り出されただけ。
「ダメかな.......?」
「これからバイトなので、とりあえずIDを渡しておきます」
持っていたメモ帳に少し可愛らしい字で女の子らしさを演じてみる。
「わぁ、ありがとう!すぐ追加するね!バイト頑張って!」
俺が渡したメモ帳をみてパァっと顔を輝かせる。
「はい、ありがとうございます」
「俺、安東蒴《あんどうさく》。君は?」
「南十羽《みなみとわ》」
名前は姉ちゃんの名前を告げた。
「ありがとう!斗和ちゃん!連絡する!」
俺の名前を口にして笑顔で手を振っていった。
「案外チョロいのか.......」
女だと信じる相手に女だと振る舞う。
このことになんの罪悪感もなかった。
「いつネタばらししよ」
あいつ、安東は俺のクラスメイトだ。
なぜ、俺は女じゃなく俺だとバラさないのか.......。
それは、俺があいつのことを好きだから.......なんてハッピーな展開ではない。
安東はクラスのカースト上位にいるような、男にも女にも人気の男だった。
そして、俺はこいつのことが大嫌いだった。
別に俺がなにかをされたわけでも、俺の周りのやつがされたわけでもない。
ただ、俺にはないものばかりを持っているこいつが羨ましいと思っているうちに嫌悪感に繋がっていった。
どうしようもなく、独りよがりの結果だ。
だからか、魔が差してしまった。
昔から「女の子みたい」とからかわれ、高校生になったいまでもそれは変わらない。
挙句はちょっと女装をしただけで「タイプだ」とナンパされる始末で笑える。
俺だって「可愛い」じゃなくて「カッコイイ」って言われてみたい人生だった。
でも、この容姿のおかげで1番嫌いなアイツを騙すことができるとわかって、俺は浮き足立っていた。
──デートできる日教えてね!
すぐに登録をしたらしい安東からメッセージがくる。
その文面からもキラキラしたら笑顔をしていることが垣間見えて、メッセージですら眩しい。
「いちいちキラキラしすぎなんだっての.......」
いつもそうだ。
アイツは無駄にどこでも輝いてやがる。
だから、いつも眩しくて俺はアイツが嫌いなんだ。
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