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「十羽ちゃん!」
俺が駅につくと、ブンブンと手を振って、キラキラした笑顔で走ってくる。
「来るの早すぎじゃない?」
俺が着いたのでさえ、約束の時間よりも15分早い。
なのに、目の前のコイツはもっと前からいたような雰囲気だ。
「デート楽しみすぎて、早く着きすぎちゃったよ。行こう!」
慣れてる様子で俺の手を握って歩き出す。
「ちょっと........手」
「デートでしょ?」
「いや、そうだけど........そうじゃない」
こいつのペースに巻き込まれたくないのに、簡単に巻き込まれそうになる。
だいたい、手を握られても男だって気づかれないなんて、どんだけ俺は女みたいなんだ。
本当にそう思う瞬間がコイツといると多い気がして、惨めになってしまう。
「デート、だよね?」
「........うっ」
これだからクラスのカースト上位は嫌いだ。
誰もが自分が近づけば喜ぶと思ってやがる。
対して俺は女の子とすらまともにデートをしたことがないのに、初デートは男ととか、コイツとは本当に真逆すぎて笑える。
「十羽ちゃんって、本当に可愛いよね」
「そう?あなたこそ、モテそうだよね」
「うーん、モテたとしても好きだと思った子に好かれないと意味無くない?」
「ふーん........」
モテることは否定をしないらしい。
俺が嫌いなのはそういうところなんだよ。
「........ってか、俺の事は蒴って呼んでよ」
「えぇ........」
クラスのみんなが呼んでいるこの名前。
その名前を対して仲も良くない俺が呼ぶのには抵抗があった。
「いいじゃん、ね?」
「さ、蒴........?」
「ん。いいね、十羽ちゃんに呼ばれんのが一番嬉しい」
俺がただ名前を読んだだけで、嬉しそうな顔をしてこんなクサいセリフを言いやがる。
女装をしている俺に一目惚れをしてしまったらしいけど、残念ながら俺は男で普段お前が上から見下しているようなクラスメイト。
そんな自分よりも下だと思っている人間に騙されているなんてどう思うだろうか。
昨日の夜からどうやってネタばらしをしようかと考えていた。
しかも、いつもキラキラスマイルで輝いているこいつの顔を崩せるのかと思ったら楽しみで仕方なかった。
そんなに長くこんな面倒なことを続けるつもりもないので、俺は早々にネタばらしをするつもりでいる。
だから、手っ取り早いあの方法を使うことにしている。
「あたし、蒴としたいことがあるの........」
クイッと安東の服の裾を引っ張る。
「したいこと?十羽ちゃんのしたいことならなんでもしてあげるよ」
俺の渾身の上目遣いにトロンとした顔なんかしちゃって、男なんて誰でもそんなもんだろ。
男だから、男のことってわかりやすくて便利だな。騙しやすくて、最高だ。
「実は........経験がなくて。蒴なら、色々とリードしてくれるかなって........」
「経験って、そういうことでいいかな?」
「........うん」
恥じらいを持った表情をすれば完璧だ。
俺、女優になれんじゃねーか。
こんなことを言うくせに恥ずかそうな照れてる仕草は忘れずに純情さをアピール。
「本気?俺は好きな子とそうなれるのが嬉しいけど」
「好きな子って........」
「好きだよ、十羽ちゃんが。この手から離したくないなって思うほどには」
急に安東の纏う雰囲気が変わった。
「あたしも........好きになれるかもしれないって思ってる」
だから俺も負けじとそういう雰囲気にもっていく。
作戦を実行するには2人きりになって、しかも裸を見せる場面が必要だ。
てことは、こういう雰囲気にもっていくのがやはり1番手っ取り早い。
「じゃあ、俺の家に来る?」
「いいの?」
「十羽ちゃんこそ。俺ん家きたらもう後には戻れないよ?」
「うん。蒴と早く2人きりになりたい........」
なーんて思ってもいないくせに、口は勝手に動く。
すげぇな、男だからやっぱり男のことってわかりやすい。
どうすれば男が喜ぶのかなんて、俺が一番わかってる。
俺だって、可愛い女の子にこんなセリフ言われたかった人生なんだから、安東はずるい。
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