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「さ、先にシャワーを浴びたい........」 「ん。いいよ、俺はここでのんびりしてる」 「ありがとう」 蒴の家はお母さんが帰ってきてしまってダメになって、結局俺らがやってきたのはいわゆるラブホテル。 男同志での入店は禁止されてるらしいのに、俺が女の子の格好をしているだけで普通に入れるのも腑に落ちない。 ........って、今日は自分で望んでそうしているんだけど。 「やっぱ慣れてんな」 安東はとっても慣れた手つきでホテルにチェックインをしていたから、こういうところは何度も来ていそうだった。 同じ年で同じクラスで同じ男なのに、明らかに置かれている立場が違いすぎる。 「ここ、キレイめだから」と蒴が言っていたように、風呂も大窓があって夜なら夜景も楽しめるだろう。 ユニットバスの形も猫足になっていて、女だったら喜びそうなポイントがたくさんあった。 兎にも角にも女ウケがよさそうなホテルなことはたしかだ。 「ホテルってこんなオシャレなもんなのか........」 当然ラブホテルなんか来たことがあるわけなく、漫画とかでしか見た事のない俺の知識は、ガラス張りの風呂と部屋にはハート型のベッドがドンッと置いてあって、ライトもチカチカしていて居心地の悪そうな場所なんだと思っていた。 だからアイツが「キレイめ」といってもたかが知れていると思っていた。 なのに、連れてこられたホテルはラブホテルだから普通のホテルとは違えど、中身は普通にオシャレなホテルで面食らう。 これが百戦錬磨と噂される安東の手か........と関心してしまう。 こうやって、女の子を連れてきて自分に夢中にさせているんだ。 「驚け........騙されたとショックを受ければいいんだ」 シャワーをサッと浴びて、鏡に映るのは正真正銘の男の姿の俺。 胸も無ければ、ついているモノもついている。 これを見れば、百年の恋も冷めるだろ。 「でっか........」 袖を通したフリーサイズであろうバスローブも少し華奢な俺の身体には大きめだった。 そんなことも俺のコンプレックを刺激する。 「きっとこんなのもアイツならカッコよく着ちゃうんだろ」 昔から、小さめな身体もデカい瞳も女みたいな顔も全部がコンプレックスだった。 小さい頃は「可愛い」と言われることが当たり前で世の中に「カッコイイ」があることを知らなかった。 それを知ったときの衝撃は半端なくて、どうして男なのに俺はカッコイイじゃないのか不思議でたまらなかったけど、いつか言われる日が来るって思ってた。 「そんな日1度も来なかったけど」 いつからだったか、可愛いと言われることに嫌悪感しか感じなくなって、世の中のカッコイイやつすべてに嫉妬するようになった。 そのカッコイイやつは、なにも俺に悪いことなんかしていないけど。 「ただの嫉妬で羨ましいだけだって分かってるけど、嫌いもんな嫌いだ」 俺はどうしても安東に挫折を味合わせたかった。 最低な理由だと分かっても、あの日チャンスがきたと思ってしまったんだから仕方ない。 「はぁ、扉を開ければアイツがいるんだよな」 別に怖気付いてるわけではない。 扉の向こうにいるアイツはこんな華奢な俺の身体とは違って鍛え上げられた身体をしているんだ。 前に体育のとき、更衣室で身体が目に入ったとき、自分の身体と思わず見比べてしまったことがある。 やっぱりアイツは俺にはないものを持ちすぎていると思うんだ。 身体にしろ、顔にしろ。 しかもアイツは頭もよけりゃ、運動神経もバツグンだ。 俺にもどれか少しは分けてくれてもバチは当たらないと思う。 俺にはないものをたくさん持っているからアイツが嫌いだなんてないものねだりだってわかっている。 俺のアイツへの感情は劣等感の塊だった。 これでアイツがクラスの最上位にいるようなやつじゃなければ、こんな風になっていないんだろう。 でも、現に最上位にいるのはアイツだから、そこは変えられない事実。 「お、出てきたー」 バスローブの前をしっかりとしめて、出ると振り向いた安東がニコッと笑う。 なぜかもう上半身が裸で。 「蒴は?」 「入ってくるよ。でも、その前にこっちにおいで」 サッと俺の手を引いて、ベッドへと連れていかれる。 「ちょ、蒴........?」 「なに、怖いの?ここまで来といて今更?」 「そういうわけじゃないけど........」 怖さなんて、あるわけがない。 ただ、裸になった安東の身体を直視することができないだけ。 体育のときにみた鍛え上げられた身体は健在で、俺が女だったら堕ちていたかもしれない。 女ならこんなの間違いなく、心臓ぶち破れるだろ。 残念ながら俺は男なので、男の身体をみて何かを思うことはないけど、それでも目のやり場には困ってしまう。 「あれ........君........」 安東がバスローブの紐を解いて露になった俺の身体には本来あるはずの膨らみがない。 しかもあるはずの無いものが見えている。 さすがの安東も興ざめだろうと、おそるおそる安東の顔をみる。 「やべぇ、想像以上に可愛い身体してんな」 「は!?」 安東は引くわけでもなく、俺の身体にチュッと唇を落とす。 「ひゃ........っ、ちょ........んっ」 声なんて出すつもりも出るつもりもなかったのに、慣れている安東の唇の動きに翻弄されてしまいそうな自分がいる。 「声、もっときかせてよ。かーわいい」 「ちょ、お前........気づかねーのかよ!」 なおも続けようとする安東にイライラが募り、口が悪くなってしまう。 「気づくってなにを........?」 この身体を見て、俺が女だと思うわけがない。 なのに、なんでこいつはショックも受けずに続けようとしてんだよ。 「気づいてんだろ、俺が........「男だってこと?それとも........」 「それとも........?」 次の瞬間、安東が口にしたのは衝撃の一言だった。 「君がうちのクラスの南くんだってこと?」 安東の言葉に身体がかぁーっと熱くなっていくのがわかる。 「お前........分かって........!?」 姉ちゃんのメイクは完璧で、前にクラスの女の子たちに遭遇したときはまったく気が付かれなかった。 姉ちゃんのお店に遊びにきていたから、結構話したというのに全然気づかれなくて笑ったけど、よく考えたら普段あの子たちとの関わりはまるでなかった。 でも、コイツともオレは一度も話したことがないはずだ。 なのに、気がつくなんておかしすぎるから何か決定的な証拠でも見られたのだろうか。 「ふっ、焦ってる顔も可愛いなぁー」 クスクスと笑いながら俺の頬に触れる。 「お前、からかってんのか!?なんか、身分証でもみたのか!?」 触れられるのが嫌で、後退りをして安東から離れる。 「そんなの見てないよ。好きな子のことならなんでもわかるでしょ」 「好きな子って........それは女の格好をした俺だろ?」 「どういうつもりで南くんが本当のことを言わなかったのかは分からないけど、俺は最初から分かってたよ」 「........はぁ?」 分かってたとしたら、コイツの頭はどうかしてる。 俺だってわかって、ナンパしてきたことになるだろ。 「は!?まさか、俺のこと騙して........!?」 自分が騙そうとしていたのに、まんまと騙されそうになっていたのかと思うと頭にカーッと血が上りそうになってしまう。 「騙す........?まぁ、南くんだと気づかない振りをしていたことなら騙したことになんのかな」 首を傾げているこいつには騙したという感覚はないらしい。

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