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④
「待てよ、何のために知らない振りをしていたんだよ」
「んー、答えてもいいけど........それ今じゃなきゃダメ?」
「は?」
マイペースなコイツにイライラが更に募る。
「目の前に美味しそうなものがあるのに、俺我慢できないよ」
「は!?え!?まっ........」
俺と少しあいていた距離をあっという間に詰めて、安東の手は俺の肌にもう触れている。
「........んっ、や........」
「声、可愛からもっと聞かせて」
安東の手に、声に、すべてに身体は疼いてしまう。
「........やっべ」
「ま、て!お前、男でもイけんのかよ........っ」
安東の熱い吐息でどうにかなってしまいそうなところを、なけなしの理性を保って声を上げる。
「うーん、わかんないけど、南くんでイキたいと思ったのはたしか。男とすんのは初だけど」
「はじめてならやめといた方が........って、言ってるそばから」
「知識ならあるよ。ほら、南くんは準備が万端みたいだよ?」
「........っ」
バスローブを着ているから、すぐに触れる位置にある俺のモノ。
辛うじてトランクスを履いてはいるけど、こんなうっすい布地からでは硬くなっていることなんかバレバレだ。
「........っ、さわんな」
その薄い布地の上からそっと優しく触れる安東の手にもっと欲しいとさえ思ってしまって困る。
「とか言って、もっと欲しいんでしょ?」
「........なっ........はっ、あ........」
俺の思考を簡単に読み取って、安東が薄い布地を突き抜けて直に触れてくる。
「........んっ、やめ........あっ」
そっと触れていた手をゆっくりと上下に動かした瞬間、我慢なんて出来なくて声が漏れてしまう。
それが恥ずかしくて、手で口を覆うけど「だーめ」と安東によけられてしまう。
「ふっ、こういうの好きなんだ?」
緩く勃っていたモノは安東の手の動きに硬さを増していく。
「んっ........」
されるがままで腹が立つのに、こんな嫌いなヤツにこんなことされて情けないのに、ただ声を漏らすことしかできなくて、気持ちいいとさえ思ってしまっている自分が嫌だ。
「........っ、おい!」
片手でモノを掴んだまま、俺に覆いかぶさった安東は自分の唇を俺の乳首へと当てる。
「........っ、あ........ちょ........おと「男だぞって?なーんていいながら南くん感じちゃってるよね」
「........んんっ」
ペロッと舌を出したかと思うと、テロテロと乳首を舐めはじめる。
感じるもんかって思っているのに身体はいうことをきいてくれない。
自分の意志とは関係ないところで疼いてしまう身体に戸惑いを隠せない。
「........あっ、はっ、うん........」
乳首と同時にモノを攻められては、声が出ないはずなんてなかった。
「........はっ、待て!」
安東の手が後ろへ回ろうとした瞬間、さすがに身の危険を感じて安東を突き飛ばす。
少しばかりの知識はあるから後ろを使って何をしようとしているのかはわかった。
でも、さすがにそれをすんなりと赦すのは無理だった。
「なに?怖くなっちゃった?」
「怖いとかじゃねーよ。お前の真意がわかんねぇ」
なんで、こんな恥ずかしい思いをさせられなきゃなんねーんだ。
予定では俺だってこともバラさないまま「男だったんだ」とショックを受けさせてサヨナラするはずだったのに、なんでこんな展開になってんだ?
俺がコイツを騙そうとしたのが根源だってのはわかってる。
でも、コイツは女にモテモテで遊んでて、女なんか腐るほど周りにいるはずだ。
そんなヤツがたとえ俺が女みたいな顔をしてたとしてもそういうことをしようとするなんてどうかしてる。
「俺はお前と違って女経験なんてないし、もちろん童貞だし。お前の動きにいちいち反応すっからおもしくてからかってんのかもしんねーけど」
「からかったりなんかしてねーよ」
はぁっとため息をついて、ベッドへ座り直す。
「お前、男に対していちいち反応している俺をみて内心笑ってるんだろ?」
「いつ俺が笑った?」
「だから内心だっての........お前のこと騙そうとしたのは謝るから、許してくれよ。頼む」
たった一つの出来心でこんなことになるなんて、思ってもいなかったから俺は自分の軽率な行動を悔やむ。
........にしても、こんなことになるとは誰も思わねーよな。
「南くんは何も悪くないよ」
「え、なんで?どう考えてと騙そうとしたのは俺だし」
「俺が気づかない振りをしてこういう展開に持っていきたかっただけだから」
「........は?」
こういう展開って、俺とこうなる展開ってことだよな?
そこに持っていきたい理由がまったく見つからなくて、首を傾げる。
「ずっと好きだった」
「........は?」
さっきから俺「は?」しか言ってなくねーか。
でもそうとしかえ言えないようなことばかりこいつが言うから。
ただ、こんなこと言われるなんて予想外で唖然としてしまう。
開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
──ぷっ
シーンとした部屋の中、安東の吹き出した音だけが響く。
「おい、またからかったのかよ」
「俺、ゲイなんだよ」
「いや、お前彼女いたことあるだろ」
どこからどう見てもこいつは、女どもから人気だし、手当り次第ヤッているという噂もよくきく。
「彼女なんていたことないよ。全部遊び相手」
「どっちにしろ最低だけど、ゲイなわけじゃねーだろ。それ」
「カモフラージュだよ。ゲイってことがバレないために女の子といるし、やることもやってる」
「なんだ、それ」
世の中にそういう人がいるのもわかってるし、別に偏見はないけど、いまいちこいつがゲイということに結びつけることができない。
「だから女の格好してる南くんみたとき、南くんとやったら気持ちいいんだろーなーなんて思ってさ。声かけたんだよ」
「いい迷惑だな。てか、そんな整った顔してんのにもったいねーな」
男の俺からみてもイケメンの部類に入ることはわかるから、女に不自由したことなんてないだろうと思ってはいた。
現に不自由はしていないんだろうけど、恋愛対象じゃないとなるとまた変わってくるだろう。
「そう?別にもったいないとか思ったことはないよ?女の子は勝手に寄ってくるだけだし。俺は望んてない」
「すげー贅沢なやつ」
やっぱり自分がモテることを分かっていて当たり前だと思っている。
俺はそんなこいつが嫌いなんだ。
「........てか、なんで俺にバラしたんだよ。明日には学校中に回ってるかもしんねーんだぞ」
「いや、南くんの言葉なんて信じないでしょ。そこは心配してないよ」
「あっそ」
どこまでも俺の事を下にみてやがる。
ほら、やっぱり嫌いなところばかりだ。
「南くんは恋、したことある?」
「あるわけねーだろ。俺が」
「なんで?恋するのは自由だよ。俺だって自由だから男が好きなんだし」
「俺とお前は違うんだ。一緒にすんな」
大体こいつと違って俺は友達が少ないし、女友達なんてものいるわけがない。
安東といるとどんどん自分が嫌な人間になっていく気がする。
そもそもあの時に会ったときから既に嫌な人間だ。
こいつが関わると俺にはろくな感情が生まれないらしい。
普段からこいつを見ているだけで卑屈になってしまう自分がいる。
「俺は男が好きだけど、男に好かれるような体型じゃないんだよ。南くんみたいな体型に憧れる」
「なんだそれ、バカにしてんのか」
安東はたしかに男らしい体型をしている。
要するに俺は男らしさの欠片もないと言いたいわけで、遠回しに俺のことさっきから否定しているって気づいてないのだろうか。
気づいてて言っていたらタチが悪すぎる。
「だからさ、俺としようよ」
「は?お前、俺の話聞いてた?」
なにが「だから」なのか、どこから突っ込んだらいいのかわからない。
俺は男が好きだなんて言ってないし、そんなの範囲外だってわかるはずだ。
それなのに、俺の言葉なんて聞こえていないのか、ジワジワと距離を詰める。
「さっき気持ちよさそうだったじゃん?」
「いや、あれは........」
たしかにおかしくなってしまいそうではあったけど。でもしたいなんて一言も言ってない。
「どんなもんか体験してみてよ」
「体験って........ん、やめ」
一旦結んでいてバスローブの紐は簡単にほどかれて、スルッとトランクスの中に安東の手が侵入してくる。
「........あっ、やめ........んっ」
鎮まっていたはずのモノは、安東の手によって再び熱を帯びる。
そっと軽く握られただけですーぐにこうだ。
そこまで性欲が濃くない俺は自分で処理をすることもそこまで多くはない。
なので久しぶりの感覚で、こうなるのは仕方がないのかもしれない。
いくら性欲が薄いとはいっても俺は男だし、触られれば勃つもの勃つ。
いつか誰かとって淡い期待をしたこともあったし、それなりに想像もしていた。
それなのに、俺以外で初めて触れたのが大嫌いなコイツでまさか同じ男だなんて想像出来るはずがない。
安東の手が俺のモノを上下させる度に「あっ........」と声が出てしまう。
しかもそんなことをするつもりなんてないのに、自然と腰が浮いてしまう。
「すんげー硬くなってんぞ。ほら、俺も」
カチャリとベルトを外して、開いたチャックの隙間から俺の手を忍ばせる。
たしかに安東のモノもせり上がっていて、今にもトランクスからはみ出してしまいそうだ。
「........あっ」
気が付けば、無理やり持っていかれた手で自分から安東のモノを上下させていて、安東がそれに反応をする。
安東のモノが勃っているという事実は俺の身体を熱くさせる。
「........っ、やる気じゃん」
俺の手の動きに反応をしながらも強気な態度をみせる安東。
「南くん、気持ちいい?」
「........っ」
熱い吐息を吹きかけながら、俺の耳元で話す掠れた声にゾクゾクと身体が疼く。
「........っ、なんだよこれ........あっ」
こんなところでこんな風になっているところを安東になんか見られたくないのに興奮してしまって、堪らなくて、腰を浮くのを止められなくて。
「........っ、これからこういうことして遊ぼ」
「........っ、お前!」
なんだか余裕そうな安東に腹が立って、悔しくて、ぐいっと引っ張って、安東の唇に俺の唇を押し当てる。
本当に押し当てるという表現があうようなそんな感じだった。
「ヘタクソ」
そう言った安東の顔を見上げれば、なぜだからゆでダコかのように真っ赤だった。
「なんでもっとすごいことお前はしてるくせに、真っ赤になんだよ」
「うるさい」
今度は俺が引っ張られて唇を重ねられる。
今度のは押し付ける感じじゃなくてちゃんとしたキスだった。
「俺のこと蒴って呼んで」
「蒴........?」
「洸希(こうき)」
「名前知ってたんだな」
ずっと姉ちゃんの名前で呼ばれていたから、いざ本当の名前での呼ばれるとなんだかくすぐったい気がする。
俺はこいつがすっごく嫌いだったはずなのに、こいつにまんまと乗せられているような気がして腹が立つけど、でもそれでもいいような気がしてしまったのはなぜだろう。
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