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「なぁ、蒴は?」 「なんかそっこー帰ってったよ」 「........そっか」 蒴と身体が繋がってから1週間。 俺は明らかに蒴から避けられていた。 あんなに俺にベッタリだったくせに、次の日から視線すら重ならない。 俺は気になって何度も見てるのに一度も目が合ってない。 だから蒴と仲のいい高崎に聞いてみたんだけど、どこに居るのかまでは知らなそうな雰囲気。 「あいつ、最近付き合い悪いんだよなー」 「高崎に対しても?」 「うーん、よくわかんね。誘っても秒で断るし、昼休みもいっつもどっか行ってる」 「........そうなのか」 俺に対してだけではないみたいだけど、それでも教室にいるうちは高崎といるし、俺のほうが遠いか。 俺に対してなんか、話しかけるなオーラがすごい。 「俺的は南のほうが知ってると思ったんだけどね」 「........え?そんなまさか」 「あいつ南といるときは雰囲気が違う気がしたんだよね」 「ないな、それはない」 高崎と蒴は俺から見てもすっごい仲がよくて、どうやら中学からの仲らしいけど。 でも「ない」言いつつも、そんな仲のいい高崎からそう見られていたことは素直に嬉しいと感じる。 「あいつ、女でもできたのかもしんねーな」 「女?」 「なーんか、好きな人と上手く行きそう的なこと前に言ってたから、上手くいったんじゃね?それなら付き合いたてだしわかるよな」 「........そうだな」 好きなやつと聞いて、この前蒴の話に出てきた同じ高校にいる男の話を思いだす。 蒴は俺とあんなことをしておいて、俺のことはその気にさせて自分はちゃっかり好きなやつと上手くやってるとか。 考えただけで、拳が震えてしまう。 「........なら、その気にさせなきゃいいだろ」 蒴の巧妙な手口によって、俺はまんまと蒴のことを好きになってしまって今さら後戻りなんかできない。 俺をそうさせたくせに蒴は1度寝たら飽きたなんてよく男女間で聞くようなかたちで俺のことを避け始めた。 タイミング最悪かよ。 「飽きるなら最初から近づかないでくれよ」 蒴のことを嫌いなままでいれたのに。 「あいつ、またモテてる。腹立つ」くらいに思うだけでおわれてたのに。 「ムカつく、ポイ捨てもいいとこだよ」 俺はもう女に欲情する気にはなれないし、だからといって男なら誰でもいいわけでもない。 「俺しか知らなくていい」みたいな独占欲の塊みたいなこと言っていたくせに、お前しか知りたくない俺はどうしたらいいんだよ。蒴だから欲情したというのに。 俺に感じてる蒴が嬉しくて、もしかしたら両思いになれるかもしれないなんて淡い期待を抱いて。 なのに、そんなのやっぱり期待なんかするもんじゃない。 「南くん、最近元気ないよね?」 帰ろうと靴を履いていると、そう声をかけられる。 「柏木(かしわぎ)さん」 「あたし、調理部なの。で、クッキー食べたら元気でるかな?」 「あ、ありがとう。食べる」 クラスメイトの柏木さんは、隣の席で最近よく話す。 「なんか辛いことあったなら相談してね?」 「うん。ありがとう。聞いてもらいたくなったら聞いて」 「じゃあ........」って柏木さんがスマホを出して、メッセージアプリのIDを交換する。 「蘭(らん)でいいよ」 「わかった、蘭ちゃん」 誰でもよかったから、すがりたかったのもある。 いつもの俺ならクッキーももらわないし、連絡先の交換なんてもっとしない。 でも、いまは精神的に辛すぎて、誰かに甘えたかった。 「さっさと家に帰ろう」 蒴と一緒にいることに慣れたせいか、一人で帰る放課後は寂しいとも思ってしまう。 「くっそ........平気だったのに」 一人でいるとこんなに時間が長く感じるなんて、初めて知った。 一人でいることなんて以前はあたりまえでそれが日常だったのに。 こんな俺は俺じゃない。 だって、蒴が恋しくて、蒴に触れたくて仕方ない。 こんな俺にした蒴は一体どこでなにをしてるんだって話だよ。 *** 「洸希、今日お店出てー!」 1週間位経った頃、学校から帰ると姉ちゃんが俺にメイドカフェの制服を渡してくる。 「はぁ?」 「いいでしょ、暇なんだから!」 「........暇だけどさ」 姉ちゃんは基本俺の意見なんかまるで無視だ。 断ってそのまま通ったことは今までに一度ない。 「........はぁ、仕方ねぇな」 この制服を着るのは蒴とこうなる出会いをした時以来。 できるなら、この制服はもうみたくなかった。 蒴とこうなるきっかけを作った服を着ればどうしても思い出してしまうから。 最後に蒴と繋がりあってから2週間。 いまだに蒴からは避けられる毎日だったので、もうきっとナイんだろうなって分かってる。 「ねぇ、あそこのイケメンふたりって........やっぱりそういうやつかな?」 完璧すぎる女装をさせられて、俺と姉ちゃんはお店へと向かっていた。 途中で姉ちゃんが「ねぇ」と指をさすのでそちらに目をやる。 「は?」 「てか、アレってあんたの高校の制服よね」 「........っ、そうだな」 姉ちゃんが見ていたのは、手を繋いで歩いている男ふたりの姿。 どうみても片方は蒴で、隣にいるのはたしか進学クラスにいる仙道(せんどう) 蒴が好きな男って仙道だったんだ........と目の当たりにして現実味を帯びてしまう。 仙道は、進学クラスの中でも特に頭脳明晰らしく、しかもなんでもできて格好いい。 そんな仙道のことを蒴が好きでも不思議だとは思わなかった。 成績はよくないけど、スポーツ万能で格好よくて女子にモテる蒴とはとてもお似合いにみえた。 俺は格好よくなくて、スポーツだって勉強だって普通で、モテなくて。 仙道に勝てる部分がひとつもなくて笑えてくる。 「姉ちゃん、ごめん。今日無理だ」 「え?洸希どうした........って泣いてるの!?」 「頼む。今日は勘弁して」 「う、うん........わかった」 「ごめん」 こんな風になる俺を初めて見たからか、姉ちゃんはすげぇ驚いていた。 自分でもたかが恋愛でそれも男相手に泣くだなんて思ってもいなかった。 「やべぇな、なんだこれ」 胸がズキズキとして痛くて、歩くのすら辛くなってきた。 なにかの病気にかかったのかってほど辛い。 「失恋ってこんな辛いのかよ........」 恋をした事の無い俺は当然失恋なんか初めてでこんなに痛いなんて知らなかった。 姉ちゃんが昔「女心を学びなさい!」と渡してきた漫画はどれもハッピーエンドだった。 途中ですれ違いはあっても、どれも最終的に失恋はしてなくて、こんなに恋が痛いだなんて聞いてない。 「蒴はこのままでいいの?」 公園のブランコに揺られていた俺の耳にそんな声が入ってきてハッとする。 「良いも悪いもないよ。俺の性癖を押し付けてる時点で間違ってんだよ」 「ふーん、まぁ、俺はお前が好きだからなんでもいいんだけどさ」 手を繋いだまま、ベランダの前をふたりが通り過ぎる。 「........!?」 通り過ぎたはずの蒴がすごい勢いで振り返って、俺を見る。 「ん?あれ、めっちゃ可愛い子いんじゃん」 「........お前泣いた?」 蒴がブランコの前の柵をまたいで俺の前にやってくる。 「お前には関係ないだろ」 誰のせいでこうなってんのか、分かっていなそうな蒴に腹が立つ。 「あれ、もしかして男なの?かーわいい」 俺の話し方に、男だと気づいたらしく、蒴と同じように蒴を跨いでくる。 「へー、君が蒴の言ってた........本当に可愛い顔してる。好きな顔かも」 「宗悟(しゅうご)やめろ」 俺に手を伸ばそうとした仙道の手を振り払う。 「はは、もしかして独占欲か?」 「独占欲........?」 一瞬俺のことかと思ったけど、違う。 仙道が俺に触れるのが嫌なんだ。 「仙道が蒴の片思いの相手なんだろ?」 「は?」 「最近好きなやつとうまくいってるって」 「おい、智(とも)かよーったく」 智とは高崎のことでワナワナと怒っている。 「そんな怒らなくてもいいだろ。両思いおめでと」 そういい放って俺はブランコからおりて歩き出す。 「あ、おい!」 「仲良くな、じゃあ」 蒴に背を向けて公園から出る。 「気づかれてないよな........?」 この気持ちは蒴に気づかれてはいけない。 俺たちが身体を繋げたとき、俺はもう蒴に好きな人がいるって知っていたんだから。 知っていて蒴を受けいれたんだから何も言う資格はないから。 蒴はなにも悪くなくて、勝手に勘違いした俺が悪い。 でも俺はあの時蒴が「これから、こーいうことして遊ぼうぜ」という蒴の言葉が忘れられない。 もう2週間も避けられ続けているのにまたあーなるんだろうなって思ってしまっている部分がある。 家に着いた俺は、あんなに辛かったというのにあの日のことを思い出して、さっき蒴と話したことを思い出して、俺のモノは反応をしてしまう。 「........っ、蒴」 蒴の名前を口にするだけで簡単に欲情できた。 自分の部屋へ走っていって、あの日の蒴の表情、声、手触りを思い出したながら自分のモノに手を触れる。 全てちゃんと覚えていて、あの日のことは夢でも幻でもないし、錯覚なんかじゃないって自分自信が教えてくれる。 こんなに興奮できるのに、本人はここにはいない。

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