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第10話 愛の讃歌

暫くしてピーンポンとドアチャイムが鳴った 命は玄関に行きドアを開けた するとそこには… 晴香と冬樹、修一、当麻、耕作の他に…老夫婦が立っていた 秋人が命を押し退け顔を出した 「お父ちゃんとお母ちゃん… どないしたんや?」 どうやら…秋人の両親らしい 気丈な老婦人が秋人の頭を叩いた 「出掛ける時は行き先を告げて行けと何度も言ったのに!この子はぁ!」 老婦人は怒りを露わに秋人を叱り付けた 「お母ちゃん!堪忍…」 秋人に酷似した老紳士が 「子供の前で頭ごなしに叱るんやない」 と、止めに入った 「家に入ってくれへん?」 命は外で繰り広げられる騒ぎに… 全員を家の中へ招き入れた リビングのソファーに全員座らせ 命はお茶を入れに行った 「藤崎の家をこれからどうするか 話し合わんとな、あかんのや!」 晴香は秋人に話を切り出した 「僕は継げへんよ?」 秋人が言うと、晴香は 「誰も秋人に継げとは言ってへん」 「なら何の為の話し合いや?」 「命の頭脳を貸し出しで欲しいんや」 「命?」 「修一のサポートをして欲しくてな お願いに来たんや」 「嫌や!」 秋人はにべもなく断った 「命は誰にもやらん! 姉さんでもな、嫌なんや!」 ……………晴香は…ため息をついた 独占欲丸出しで言われたら… 何も言えなくなる お茶を全員に配り終えると、命は秋人の横に座った 「秋人が嫌言うならな、俺は何も出来んで!」 命は不戦を張った 秋人が納得せん事は何一つする気はない と、言ったも同然だった 晴香は秋人と命の前に書類を置いた 「便利屋は廃業したんや 修一を代表に据えて、サポートに入るんや それには命の手腕と頭脳がないと回らん 誰もあんたと、命を引き離したりしないわよ 引き離せば…死んでしまうと解ってるのに… 引き離す莫迦はいないわよ」 「姉さん…」 「父さんが残した藤崎の会社を潰したくないの 跡形もなく…何もなくしたくないの」 「命は大学に行く 命の未来は無限に満ちてる 例え僕でも…命の未来の邪魔はしたくないんや 命の進む道を縛りたくないんや 枠に嵌めたら…命は命でなくなる 命は自由ならばこそ本領発揮するんや」 秋人の言葉に… 本当に命を見てきた人間にしか解らぬ事だと理解する 「永遠と言う子がおったんや その子ならな、枠に嵌めても線路の上を行くやろ でも…もう永遠はいない… 僕の子供は…命だけや… 命に重い枷を着けたくないんや…」 父の愛であり 命を愛する存在の言葉だった 永遠と言う絶対的な存在がいた その存在がいれば… 命は未だに…秋人には手は出していなかったかも知れない 総ては…過程しかないが… 「俺はしたい事しかせん 俺は秋人の店を手伝う その合間に晴香さん、貴方の仕事を手伝っていた そのスタンスは変える気はない 何もかも秋人を優先にする 他はどうでとええんや俺は!」 堂々と秋人以外はどうでとええと公言する 静かに見ていた修一は笑い出した 「晴香さん、言ったやろ?」 当麻も耕作も笑い出し 当麻は「母さん、命を使うなら秋人さん込みしかあかん言うたやん」と窘めた 耕作も「命、友人のピンチや!助けたり!」と苦言を呈した 「耕作、秋人の店が暇ならな動くと何度も言ったやんか」 当麻は「命、母さんが秋人さんの店のヘルプに行けば、お前は手が空くやん」と意地悪く問い掛けた 秋人の事は人任せには絶対にしないと解ってて言う 耕作は「修一、工務店の事務所は秋人さんの店の傍らに設置すれば、命を使えると想うで!」と画期的なアイデアを出した 当麻は嫌な顔をした 「耕作…お前さ…命と秋人さんのイチャイチャ… 側で見てられる自信あるんか?」 耕作は…ハッとした顔をした 「無理かも…と言うか無理やわ」 耕作が根を上げると、当麻は、そうやろ!と納得した 修一は「命、誰も秋人さんは盗ったりせんで!」 と、前置きをして 「それでも嫌なんか?」 「バイトならしてやる 秋人の店に誰かヘルプ入れれば 今まででも、そうして来んかったか?」 命は何も変わらない と、告げる 会社が変わろうとも、何一つ変わる事はないと告げる 「俺と当麻の頭脳を駆使して 耕作の底なしの体力と、修一の饒舌なセールストークで何とか乗り切るしかねぇんじゃねぇのかよ? 後、晴香さんの支持力と冬樹さんの管理能力 栄一と瑠璃の戦力を入れて、何とかなるんやない?」 命が言うと、修一は泣きそうな顔をした 「俺の優先順位は総て秋人優先や やからポジションは要らん 自由に動けんと意味がないんや 堂嶋正義の手足になって、これからも動く それらを熟して行くにはな自由でいられんと意味がないんや」 修一は命に抱き付いた 「俺等がお前を束縛した事があるのかよ! お前が動く時、俺等も逝くと決めてるやろ? お前が動きやすい様にするのが俺等の務め お前を束縛なんかせんわ!」 修一が訴えると、命は修一の背中を優しく撫でた 「解ってる… 少し言ってみただけやんか… 誰にも盗られたくないからな… 少しだけ駄々こいてみただけやん…」 揺るぎない友情があった ちょっとや、そっとじゃ切れない絆があった そうして4人は生きてきた そうして4人はこれからも生きて行く 当麻は命の頭をバシッと叩いた 「駄々こいてるんじゃねぇよ!」 低い声で…晴香ばりの威力を持って言う姿は、怖いものがあった 何時も温和な当麻だが 4人の中で1番気性が荒いのが当麻だった 「当麻、苛めるな!」 命が笑って言う 「僕の子供はあげませんよ!」 当麻の言葉に命は泣き付く 「当麻…それだけは許して…」 「僕は生涯子供は作りません 何故なら…僕は藤崎夏彦の遺伝子上の子供ですから…」 晴香が驚愕の瞳を我が子に向けた 「知らないと想いましたか?母さん…」 晴香は涙ぐみ…顔を覆った 「母さん、命も遺伝子上は藤崎夏彦の子供なんですよ 似ている筈です…あの人の遺伝子を持って産まれているんですからね…」 時を同じくして藤崎夏彦は、3人の女を孕ませた 百目鬼美穂を孕ませ 藤崎夏彦の妻を孕ませ 姉の晴香を孕ませたと言うのか? 秋人は眩暈を覚えた 命が秋人を抱き締めた 「当麻、頼むから、解るように説明してくれへん? でないと秋人がパニックを、おこす」 当麻は、重い口を開いた 「父はA型、母はO型、その夫婦の場合B型は産まれません 僕はB型です…藤崎夏彦もB型です 母は…叔父である夏彦を必要以上に嫌っていた 顔を見るだけで震え青冷める… 何故?…疑問を核心にする為に…修一の家に遊びに行き 応接間のテーブルの上の灰皿から吸いかけの煙草を持ち出した 修一が『またこんな所で吸って!』と怒ってたから…夏彦のものだと確信した そしてバイトで貯めたお金でDNA鑑定をした 99.9%親子の確率と出た時には…死のうと想った それを引き留めたのが命だ 命は総てを話したら嫌うかと想ったが…お前が死ぬなら死んでやりたいが… 俺には親父がいる 俺は親父を愛してるんや 命あるうちは…親父の側を離れる気はないんや やからゴメン…でも俺はお前を失いたくない 俺は漆原当麻やから友達になったんや 親は関係ない、お前やから友達なんや! そう言ってくれた だから、僕は今も生きている 僕は…罪の子だけど…命が望むなら… 子供を作って命にやろうと想ってる 僕は…神に生かされる為に百目鬼命と言う友を得たと想ってる その命が夏彦の遺伝子を受け継いで生まれたと言った 僕は…命はどうするんやろ? 想っていた やっぱ命は命やった 僕は命の側を離れる気はない 僕は命と共に逝く… 母さん、貴方には裕二と和毅と言う子供がいる 僕は…死んだと想って…諦めて下さい 漆原の父の跡は継ぎません 血も繋がらぬ僕が継げる訳がない… こうして貴方に言う機会を図っていました 今日、こうして伝えれて良かったです!」 当麻は苦しい胸の内を吐き出した ずっと悩んで来た事だった 何時か言わねばと思って来た事だった 誰もが言葉を失った 誰もが…身動き1つ出来なかった なのに命は笑い出した 「当麻!おめぇはんとにアホやと俺は想うわ」 涙を拭う程に笑い転げ… 苦しそうだった 「命…」 当麻は唖然と命の名を呼んだ 「漆原当麻!」 命は叫んだ! 命に呼ばれ、当麻は 「 はい! 」と背筋を伸ばして立ち上がった 命は立ち上がって、当麻の前へ行くと 鳩尾に拳を入れた 「……ぅ…」 当麻は蹲った 命は当麻の前髪を掴むと 「おめぇは本当にアホや!」 と、言い捨てた 当麻は悔しそうに唇を噛み締めた 「この世に漆原当麻と言う人間は一人しかおらん おめぇはこの世で1つのかけがえのねぇ存在だと言わなかったかよ? おめぇが誰の種で出来ていようが関係ねぇんだよ! 俺が誰の種で出来ていようが関係ねぇ! 俺は百目鬼命!それ以外にはなれねぇ! 違うのかよ?当麻?」 「違わない…」 「なら、細けぇ事は気にすんな! 俺等はやらなきゃならねぇ事が山程あんだよ! どの遺伝子持ってようがな、んなん生きて行く上で関係ねぇんだよ 実践と経験! それがおめぇの遺伝子に組み込まれれば、遺伝子細胞は変化を遂げる おめぇは漆原当麻以外にはなれねぇんだよ!」 命は当麻の前髪を離した 「俺と来るんじゃねぇのかよ?」 「行くよ!だから僕という存在で苦しまなくても良いと、言いたかった!」 「なら、言えて良かったな」 耕作と修一が命と当麻を抱く 耕作が「当麻…おめぇは暴走型じゃねぇのに暴走したらあかんがな…」と嘆いた 修一は「当麻、自爆は俺の専売特許だぜ!」と苦情を言った 当麻は清々しく笑って 「言うことは言っとかねぇとな!」 と、母の晴香への罪を消したかったのだ 晴香は当麻の頭を殴った 「痛いよ!母さん! 今日は僕皆に殴られる日なの?」 と、嘆くと 命は晴香に殴られた頭を撫でてやった 修一も耕作も撫でてやる こうして4人は生きてきたのだ 「当麻、お前に言っておく! 漆原の長男はお前だからね! 父さんもそのつもりで、お前を育てて来たんだ! 漆原孝人はそんな小さな男じゃない! 父さんと出逢った時、私は妊娠6カ月だった 私は産む気でいた 父さんはそんな私を支えたいと…自分の子供じゃないのに、自分の戸籍に入れた 覚悟がなきゃ…出来ないんだよ! 今度父さんと話し合いなさい! 勝手に暴走して好き放題言ってんじゃないわよ!」 「母さん」 「何よ?」 「父さんとはこのままの状態で良いです 今更話し合いなんてしても、父さんとは認めないでしょう ならば、このままで良いです ですが、僕は百目鬼命と共に逝きます! 命の死せる時、多分僕らも生きてはいません その覚悟なくして百目鬼命と共に逝けません 親不孝をお許し下さい」 晴香はため息をついた 「やから命の存在が脅威やったんや…」 と、漏らした 晴香はそう言い… 諦めた様にため息をついて、重い口を開いた 「当麻、そして皆、聞いて下さい 当麻は会社の経営に何かと口を挟む私を、黙らせる為に、夏彦がレイプした子供です ………会社の経営方針に衝突していた 夏彦は思い通りに行かない経営に焦れていた 私を黙らせれば… 会社は思い通りになる… 夏彦は社長室で無理矢理…レイプしました 夏彦の部下も呼んで…何時間も陵辱された… 私は…こんな辱めに合い…死にそうだった 実際…死のうと死に場を求めて彷徨った そんな時、漆原と知り合いました 会社の顧問弁護士をしていた彼とは知り合いでした 夏彦から逃げて…働き初めて…少し経って妊娠が発覚しました 堕ろす気だった…夏彦は弟だ 兄弟で…出来た近親の子供など…そう思いつつ 堕ろせないで過ごした お腹の中で日々育つ子を…殺す事なんて出来なかった 漆原は妊娠六ヶ月になる私にプロポーズしました お腹の子の父親になります と申し出てくれた 私は漆原の手を取った 漆原は本当に自分の子として育てた それはお前が知ってるよな当麻? それが総てだよ!もう隠し事は何もない 当麻、お前は私と漆原との子供だ それは今も…昔も変わってなどいない…」 晴香は当麻を見つめて話をした 「母さん、もう良いです 僕は僕にしかなれないのですから!」 当麻はそう言い笑った 当麻は笑って… 「さてと、戦闘開始と行きますか!」 と、号令をかけた 修一は手を差し出した 耕作はその上に手を重ねた 当麻もその上に手を重ね 命が最後に手を重ねた 「仕掛けるぞ!」 「「「おおおー!!!」」」 勢いよく気合いを入れる 「藤崎の整理はしたのかよ?」 命が問うと晴香が 「漆原が整理すると想うわ」 と答えた 「なら整理してあの家や家財処分して貰って トントンで手を打って貰わんとな!」 当麻が「トントン…厳しくない?」と不安げに聞いて来た 「トントンで片付けるのがプロの仕事やろ? 足が出たら…工務店は厳しい 一番解ってるのは漆原さんやろ? ならトントンで話を持って行ってくれるやろ? あかんなら…トントンになる様に動けばええんや」 「どうやって?」 「生き残るには、強い奴の支えがいる! デカい建築会社に支えて貰って立っていける算段をする」 命がそう言うと、耕作は… 「なら俺は従兄弟の脇田誠一に設計でも頼むか?」 と人脈をフルに使う算段をする 命は嗤って 「なら俺は飛鳥井建設にでも頼みに行くとするか!」 と、サラッと言った 当麻がギョッとして命を見る 「飛鳥井建設…」 当麻の呟きに…耕作が… 「そういゃぁ…堂島正義に頼まれて、飛鳥井建設の真贋直々の仕事してたよな?」 と、頭脳をフル回転させた 「新潟へ真贋の顧問弁護士の手足になって動いた 以来、気に掛けて貰っている」 修一は「また果てしなくデカい相手を…」と、ため息をついた 「嵐が来ても立っていねぇと意味がねぇしな デカければデカい程、風は当たらねぇ! まずはそこから行くしかねぇやんか!」 命は果てを見て嗤った 命の器はデカい あの堂島正義が、惜しみもなく欲しいと言う程に… 耕作は身震いをした 「やるぜ!何がなんてもやってやる!」 叫んで手を差し出した その手の上に命は自分の手を重ねた 「あたりめぇの事を言うんやない! デケぇ花火を上げてやるんや!」 命が言うと修一も手を重ねた 「俺にお前らの命をくれ!」 当麻は修一の手を思いっ切り叩き重ねた 「修一!寝言は寝ていろよ! 俺等は百目鬼命と共に在るんや! 命を預けるのは命にやで!」 修一は涙ぐみ…当麻を見た 「俺等は運命共同体や! 死ぬまで一緒やで! ええか!共に逝くんや!」 命は叫んだ 重ねた掌を離すと、当麻は命を抱き締めた 耕作も命を抱き締め 修一も命を抱き締めた 命は3人を抱き締め 「この息が止まるまで一緒やで!」 と、絆を確認した 秋人は4人を見ていた 永遠… お前は一緒に死ぬ程の友はいたのか? 共に泣き 共に戦う友はいたのか? 僕は… お前が優等生過ぎて… お前の何も見ていなかったのか? 永遠… 永遠… 命を見守っていてやって 命の逝く道を照らしてやって 永遠… 愛していたよ 秋人は静に瞳を閉じた 命はそんな秋人に気付き、抱き寄せた 「永遠…」 想わず秋人の口から… 永遠と零れた 「永遠はお前達の様な友達はいたのかな?」 秋人が嗚咽を漏らしながら… 想いを馳せる 「秋人…永遠は皆に愛されてた 命日には未だに溢れそうな花束と供物があるやろ? 愛されてたに決まってるやん 大切な奴がいたに決まってるやん」 「それなら良い…」 永遠… お前がいた存在がある お前が愛されていた時間がある お前がいた時間がある なのに… お前がいない 「秋人…秋人…俺を愛して… ねぇ…俺を見て…」 命は秋人に縋り付いた 秋人は優しく命を抱き締めた 「命、お前は自分の思い通りに進めば良い」 「俺の総ては秋人の側にしかないんや! 思い通りに進む…秋人の横にずっとおるんや!」 命がそう言うと秋人は嬉しそうに笑った 「僕の…最期の愛や…」 もう誰も愛さない 愛せない 命だけ、愛してるのだ 「俺の【いのち】や秋人は…やから【みこと】と言う名前なんや!」 秋人は…肩を震わせ、命を抱き締めた 当麻は真剣な愛を目を逸らす事なく見ていた 修一は性別も血も何もかも乗り越えて結ばれる恋人同士を見ていた 耕作は…太刀打ち出来ない2人の愛に… 隠れて涙を拭った 晴香も…こんなに強い愛を引き裂ける筈なんてない バカね夏彦… 本当に…あんたはバカなんだから 何時か…あんたも本当の愛に出逢えたら… 解る日も来ると信じたいよ 夏彦… だから…太々しく生きて行きなさい この子達に誇れる生き方をしなさい それが夏彦 貴方の贖罪なんだから… 話し合いを終え、晴香達は帰って行った 秋人は脱力してソファーから動けなかった 命は甲斐甲斐しく、リビングの片付けをしていた 洗い物を洗い、片付けて秋人の横に座った 「どないしたんや?秋人?」 命が力強い腕で引き寄せると、秋人は命の胸に顔を埋めた そして囁くように 「命、愛してる」 と命に贈った ズキュン……と股間を直撃する 「秋人、どうしたんや? 今日はサービスがええやんか…」 茶化して…何とか自分を抑える やないと股間が暴走を始める 「命を誰にも盗られたくないんや…」 「秋人しか見んから大丈夫や 心配しなや…」 「なくしたくないんや 命のおらん世界で…もう生きられん」 「秋人は…永遠が押し倒したら…どうした?」 「え?……永遠??」 「秋人を愛してる…永遠がそう言って秋人を押し倒したら…受け入れた?」 まさか… あの永遠が… 有り得ない 想像さえしたくない 秋人は首を振った 「永遠は僕を嫌ってた… 死ぬ…3日前…永遠は僕に言ったんや 僕は貴方が大嫌いですよ…父さん…って……」 秋人は思い出し…顔を覆って泣いた 「永遠が??……」 命は不思議だった 永遠は父を愛していた 命と同じような感情で… 双子だけあって…互いの感情は…隠していても 解るときがある 永遠は秋人を愛していた それを想像さえ出来ぬ理性で押し止め 命の相談に乗っていた 『無理に…押し倒したらあかんよ 父さん卒倒してしまうやん…』 そう牽制して…命をなだめた 心の奥では… お前だけのやない! お前だけの秋人やない! 平穏を装い…永遠は笑う 笑顔の下に秋人への想いを隠しながら… 永遠は叫んでいた 表の永遠と 裏の命 2人は同じ細胞を分けて生まれた唯一無二の存在だった 「秋人はそれを真に受けたんか?」 「え……命?」 「永遠の言葉を真に受けたんか?」 「………」 秋人は応えなかった 「秋人、俺と永遠は同じ細胞を分かち合って産まれたんや アイツの想いなんて…言葉を聞かんでも解るんや 永遠は秋人を愛してたんや… それを認めたくなかったんや…何でやと想う?」 秋人は首をふった 解らない そんなの解らない 「俺が永遠が自分の心に気付く前に…秋人を愛してると言ったからや 永遠は応援してやると言った 永遠はやから認めたくなかったんや自分の思いを… やから……秋人を嫌いと言うしかなかったんや…」 「命…今更…永遠の想いを聞かされても… 僕は揺れない 僕は昔から手の掛かる命を愛して来た お前やから許したんや 永遠やったら…僕は逃げてた… 永遠は自慢の息子…それしか考えられん…」 「なら俺だけ愛してくれ 俺しか愛さんでええ!」 秋人は命を抱き締めた 「命しか愛せない 命だけ愛してる」 「良く出来ました!   股間直撃や…責任取ってぇな秋人」 熱く滾る股間を秋人に押し付けた そこはズボンを押し上げ、盛り上がっていた 硬く熱く秋人を求めて震えていた 「ここで?」 リビングのふかふかのカーペットの上に押し倒され秋人は聞いた 命は秋人を押し倒し、上に乗った そして服を脱ぎながら、秋人に流し目をした 「ベッドに行く余裕ないんや… 秋人のせいやで!」 「ならサービスしたらんとな」 秋人はクスッと笑って命のズボンに手を掛けた ファスナーを下げると窮屈そうなズボンの中から命の性器が飛び出した 「ほら、脱いじゃって…」 「秋人も脱いで…」 命は立ち上がるとズボンを抜き捨てた 秋人はボタンを外し、命に見せつけるように服を脱いだ 命がゴックン…と、唾を嚥下する 『アンタがいるから…僕は苦しいんや!』 あの日…永遠は言い秋人を抱き締めようとした 抱き締めた永遠を突き飛ばしたのは…秋人だった 『僕に触るな!』 秋人は永遠を拒絶した 『命なら? 命なら…許したの?』 永遠は自嘲した顔で秋人に問い質した 『命は可愛い…僕のいのちや』 秋人は言った その台詞を聞いて永遠は泣いた 『狡いな…何時も何時も…命ばっかり…』 同じ細胞を分かち合い生まれて来たのに… 何故? 何故! 『父さんは命なら押し倒されても許すんですか!』 『……多分…』 永遠は泣きながら 『僕は貴方が大嫌いですよ…父さん』 と、秋人に贈った 『永遠…僕はお前を子供として愛しているよ』 『貴方は…酷い人だ…』 命に生まれてくれば良かった 命なら…秋人に愛され生きて行ける ………神様… 貴方は… こんなにも意地悪だ 永遠は泣いて、外に出て行った その日…母親が他の男と接吻して車から降りるシーンを見た 世の中…狂ってる 僕も狂ってる… 永遠は母親を睨み付けていた 母親は永遠の存在に気が付き…青褪めた 永遠はニャッと嗤い 『この売女!』と吐き捨てた 命… 命… 僕は…どうしたら良い? 永遠は苦しみ…血反吐を吐き…苦しんだ そして…自分を立て直し 命を応援してやる決意をした 自分の細胞が…秋人を愛する 秋人に愛される それだけで良い 事故は…そんな永遠の決意を知ってか… 3日後に起こった 永遠は17歳で永遠に時を止めた 「永遠を殺したのは…僕や…」 命は秋人にキスを落とした 「秋人に殺されるんなら永遠は本望やろ?」 秋人の乳首を弄り、吸った 「あっ…あかん…ぁん…ぁぁん…」 「何でや?秋人の…もう先が濡れてのに?」 「乳首も…下も触ったらイッてしまう…」 「ならお尻こっちに向けて」 命が言うと、秋人は頬を赤く染めた こんな時の秋人は処女みたいに、純真で無垢だ 命は秋人の上から退くと、横に寝そべった 「ほら、お尻こっちに向けんと舐めれんで…」 命に言われ、秋人は命に跨がり、お尻を命に向けた 命に跨がり…命の性器を舐めた ペロペロ命の赤黒い血管の浮き出たグロテスクな、太い肉棒を握り締め舐め上げる 命は秋人の秘孔を舐めて解した 皺を伸ばし指を差し込み掻き回す 秋人のビラビラの腸壁をかき分ける、泣かせる弱点を突くと、秋人は体躯を震わせた 「ぁ!あぁん…そこ…だめぇ…」 グリグリ中指で前立腺を刺激する 「何でや? ココ、秋人のええ所やろ?」 「……命…欲しくなる…」 開いたカリをカリッと甘噛みする イボイボを逆なでして舌で起こす そして血管の浮き出た肉棒に舌を這わした 「秋人上手すぎ…ぁ…イッてしまう」 「イケばええやん…」 余裕で秋人が返す 命は秋人の泣き所ばかり責めて掻き回した 「ぁっ…あぁ…命…挿れてぇ…ねぇ…命…」 涙で濡れた瞳で秋人が見る 「秋人…どうやって繋がりたいんや?」 命が聞くと、命の上から降りて寝そべり股を開いた 「来て…命 そしてキスして…」 命は秋人の足を抱えた M字に開かれ…戦慄く穴を見られるのは恥ずかしかった でもそれより欲しい欲求の方が勝ってしまう 命は秋人の蕾にローションを垂らした 「ひゃっ…冷た……」 秋人がローションの冷たさに身を竦める 「直ぐに熱くなる…そうやろ?秋人」 「はぁ…んっ…あぁ…イイッ… 命で埋まって行く…ぁ…ぁぁ…」 空洞を命で埋めて行く お腹の中命で一杯になる 愛しい… 愛しい命 「愛してる…愛してる命… お前は?ねぇ…愛してる?命…」 舌を出し、キスを強請る 命は秋人の舌を吸いながら舌を搦めてゆく 口腔を命の舌が暴れている 嚥下出来ない唾液が秋人の顎辿り濡らしてゆく 「命…壊して…」 僕をぐちゃぐちゃに壊して 命のモノにして 命しか要らないモノにして 「壊して、また再生してやる 俺だけの秋人に作り替えるんや! あっ…秋人の中…俺を離さへん…」 キュッキュッと秋人の腸壁が命を締め付ける 「あっ…命…命…イクぅ…」 「イッて秋人…一緒に………ぁ……」 命は秋人の中に… 熱い精液を撒き散らした ドックン… ドックン… と、腹の中で命が脈打つ 「ぁっ……ぁぁ…命…命……」 秋人も命の腹を精液で濡らしイッた 秋人が痙攣すると、その刺激で命の性器は硬くなる 秋人の中で勢い良く硬くなる存在に 秋人は心から喜んだ 僕で感じて命 僕に溺れて 僕だけ見て 秋人の願いだった 命を知ってから、どんどん貪欲になる 「秋人…少し緩めて… ええ所を突っ突いてやるから…っ…」 「命…命…突いてぇ…もっとぉ…」 秋人は乱れて命を求めた 命を確かめたかった 命だけしか要らない 命だけ入ればいい 求めて… 壊れる程求めて… 命で埋めて貰いたかった 「秋人…愛してるで!」 命はそう言い秋人の唇を舐めた 秋人が命の舌を追って舌を出す すると命は舌を搦め、秋人の口腔を犯した 貪る接吻 激しい抽挿で秋人を翻弄する 狂ってしまえば良い 何も考えなくて良い 俺だけの愛に染まって 俺だけの為に鳴いて… 二人は底知れぬ想いに突き動かされ 果てるまで体躯を繋げた 何時までも… 側にいて その想いは大きい 秋人は命の背を掻き抱き離さなかった 『あきとぉ!あきとぉ!』 幼稚園から帰った命が秋人を呼ぶ 『お帰り命!』 あきとぉ~と言い命が秋人に飛び付く 『あきとがいにゃいと、しゃみしい』 本当なら幼稚園なんて行きたくない… 秋人は命を抱き上げ 『お帰り命、今日も頑張ったな』 と、頬にキスを落とした 命は嬉しそうに笑った それを母親に手を繋がれ永遠は見ていた 母親の美穂は命を触らない… 今なら解る 夏彦に酷似した命に近寄りたくなかったのだろう… キツい瞳の命の顔立ちを美穂は嫌っていた 穏やかな顔立ちの永遠だけ、美穂は愛していた 命はそれを知ってるから、母には近寄りもしなかった 家族だったのに… 壁があった 越えられない壁があった 僕の側にいたのは…命だけだった 妻といえど…美穂は遠い存在だった 浮気をしているのは知っていた 酔った美穂が帰宅した時に、ばったり出くわした秋人に笑いながら誘った その時に…美穂の口から他に好きな人がいると聞いた 『秋人、見て…貴方じゃない人の精液の入ったココを…』 と、酔った美穂が精液で濡れた性器を開いて見せた時があった 秋人は…それをただ何の感情もなく見ていた 嫉妬も… 何もおこらない 美穂への感情がない 美穂は何もしない秋人に怒って部屋へと入って行った 秋人は命のベッドに入り 朝まで命を抱き締め眠った 何かあると秋人は、命のベッドに入り込み眠った 小さいながらに命は何時も秋人を抱き締めて眠ってくれた 『あきとぉおれは、だよれりゅおときょになるからな!』 これが子供の頃の命の口癖だった 『あきとをまもれりゅおときょになるきゃらな!』 そう言われて、決まって顔を綻ばせ秋人は命の頬にキスを落とした 『待ってるからな! ちゃんと護るんやで!』 秋人が言うと命は嬉しそうに顔を綻ばせ 『おう!おれがまもりゅ!』 と、秋人を抱きしめるのだ 愛しい 愛しい、僕の子 この子だけいれば僕は何も望まない 愛してる命 命がお嫁さんをもらったら… 僕は笑顔で送り出せるかな?? 笑顔で送り出さなきゃ… 命… 命… ずっと僕だけの子でいて… 優しく頬を撫でられ、秋人はその手のリアルな感触に目を醒ました 「気が付いたんか?」 大人へと成長をし続ける男の顔をした命が秋人の顔を覗き込んでいた 「命…」 「どうにしたんや?」 「子供の頃の命の夢見てたんや」 「そりゃあ天使の俺がおったやろ?」 命は悪びれずに言った 「天使と言うより悪ガキやろ? 園長先生の机の引き出しにカエル入れて、引き出した時に跳び上がり、驚かせて…僕は説教を食らったんやで…」 命はバツの悪い顔をした 「小学校に上がった時にはクーデター起こして先生を辞めさせたり、問題のおきる中には必ず、百目鬼命君がいます!と先生に必ず謂われてたけど?」 秋人が言うと、命は強引にその唇を塞いだ 「秋人の天使なんやから…ええやん! 秋人は僕の天使や!言ってたやんか!」 少しふて腐れて命が言う 秋人は命の頬に手をあて 「昔も今も、僕の天使や!」 と、言った 命は嬉しそうに笑って 「俺は秋人だけおればええんや 他に興味ないからな秋人だけの天使でええ」 「ずっと側におってな」 「おるに決まってるやん! 秋人と離れる…それは息の根が止まる瞬間だけや 秋人が逝く時、俺も逝くからな! 一緒に逝こうな!」 秋人は驚愕の瞳で命を見た 「秋人のおらん世界に生きるつもりはないんや 自動車事故とかで二人いっぺんに死ねたら本望やな」 「命…命…」 秋人は命を掻き抱いた 「俺と秋人の愛の賛歌や 誰に褒め讃えて貰えんでもええ 秋人を愛して貫く… この愛だけ…秋人にだけ褒め讃えて貰えればええ」 秋人は嬉しそうに笑って 「愛の賛歌…?」 と、首を傾げた 「そう。秋人にだけ褒め讃えて貰うために俺は生きてるんや! 俺と秋人の愛を褒め讃えてやって!」 誰に咎められたって離れる気はない 引き裂かれるなら互いの息の根を止めるだけだ 執着して狂った愛だと言われても良い 俺と秋人の愛は確かにあるんや 秋人と俺だけ知ってればええ 他は要らん 「愛してるで…命」 愛を讃えよう この愛を讃えよう 共に… その想いだけで 生きて行く 秋人と命の愛 2人で讃える愛の賛歌を… 明日も 明後日も 来年も 再来年も 十年後も 二十年後も… この息が止まる瞬間まで 愛してると言うよ この愛を讃えよう お前と僕の愛を… 「秋人、愛してる」           END   【あとがき】 読んで下さり本当にありがとう御座いました この作品はちょっと大人の携帯小説サイトで連載を始め 官能小説サイトへ移動して iのべる で完結させた作品です 2年掛けて完結させました 何時か【続編】を書きます その後が気になるのは、作者も同じなんです 取り敢えず1年掛けて完結させました また長い時間掛けて 何時か続編を書けたらと想っています ラストはやはり2人の愛を確認して終えるのが一番だと想い あそこでラストにさせました また何時か 百目鬼命と出逢える事を夢見て      月夜野 羽咲   2015.4.22 その後のお話 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 漆原晴香は行方不明になった弟の事を案じていた 年老いた両親は秋人が戻ったら夏彦か‥‥‥と落胆していた 命は悪賢い夏彦の事やから、悪足掻きして生きてるやろ?と想っていた だが他は‥‥ひょっとして‥‥と心配していた 夏彦の妻は会社が破綻すると解った途端、離婚届だけ置いて家を出て逝った 夏彦の子供の栄一と瑠璃子は婚姻先の家から追い出され晴香の所で世話になっていた 修一も最初はしぶとい親父だから、何処かで平然と生きてるやろ?と想っていた だが何年も音信不通になると、ひょっとして?と心配になっていた 親父も不器用で、遣り方を間違えただけで‥‥ 父親の会社を護ろうとしていた気持ちは同じなのだ 何年も還らぬ夏彦の事を家族は口にこそ出さないが‥‥心配していたのは解っていた だから敢えて、秋人の店で家族が揃った時、晴香は修一に「お前は今も親父を憎んでるか?」と尋ねた 「憎しみなんて何処かへ消えたよ 顔を見るだけで嫌で嫌で仕方がなかったのによぉ‥‥今は‥‥生きていてくれと想う‥‥ でなきゃ‥何の為に秋人さんを犠牲にしてまで会社の存続を考えていたのか‥‥解らねぇじゃねぇかよ!」 夏彦はもしもの時の為に会社を整理していた 関係書類も整頓され、引き出しの中には辞表届けも書いてあった この会社の存続が不可能なのは誰よりも夏彦が知っていたのだ だけど悪足掻きして存続を考えていた 存続の道を模索して迷走していた 晴香は「私達は一方的に夏彦を悪者にして来た‥‥‥ あの時は悪者が必要だった‥‥ 確かに‥‥憎んだ時もあった だけど私達は誰一人夏彦の方を向いていなかった 夏彦は独りで闘っていた それを想うと‥‥やるせない 許せない想いを凌駕して後悔しか残らない」 その想いは‥‥晴香や弟の秋人、冬樹も同じだった 夏彦の子の栄一や瑠璃子、修一も同じだった 栄一は「確かに親父は遣り方を間違えた だが俺達は誰一人親父の方を向いて話し合う事を避けて来た あの人には何を謂っても同じだと、話し合う事すら避けてしまっていた 親父はどんな想いで‥‥そっぽ向く子供と、自分の事しか考えない妻を見て来たんだろうと想うよ 親父に今度逢えたなら‥‥俺は親父に向き直って何でも話そうと想う」と涙ながらに答えを出していた 瑠璃子も想いは同じだった 「私も金目のモノ全部持ちだし消えたあんな母は要らない‥‥ 暴君で身勝手で利己主義な父さんだったけど‥‥ 最初からそんな人だと耳を貸さなかった私達にも非はある 何でもかんでも父さんに押し付けて見向きもしなかった責任はあるわ だから父さんに逢ったなら‥‥今度は逃げない 逃げたくないわ‥‥ちゃんと父さんに向き合って‥‥親子として生きて行きたいわ」 瑠璃子が言うと修一も 「俺は‥‥親父が大嫌いだった 何でも見下す親父が大嫌いだった だが死んでくれとは想っていない 何処かで生きていてくれれば‥‥それで良いと想ってる」と言葉にした 秋人も「今は兄さんの事、憎んではおらへんよ チャンスがあるなら話し合いたいと想う 兄弟として生きてきた時間は短いからな、これからはそれを埋める位、兄弟として生きたいわ」と謂った だが命は口にこそ出さないが‥‥藤崎夏彦の事は警戒していた 人はそんなに変わらない 変わろうとしても変わらない そんな人間なのだ利用出来るモノは何でも利用してやれ!とまた来たら? 命は皆の想いとは裏腹に警戒は解かなかった 許せない訳ではない 心底心を入れ換えたとしても、人間の本質はそんなに変わるモノではないと想っているのだ 命は黙って話には加わろうとはしなかった 皆が帰ると秋人は 「兄さんの事、許せへんのか?」と尋ねた 「許すとか許せへんとかの次元やない 人間、そんなに変われんやろうならな、警戒は解けんなって話や」 「そうか‥‥」 「秋人は夏彦の事、許せるんか?」 「僕は‥‥兄さんには敵わないから逃げてばかりやった 賢くて一族の誇りと謂われた兄が苦手で、僕は逃げるしか脳がなかった 今想うと‥‥プレッシャーもあったやろうし‥‥ どんな想いで‥‥会社を護って来たんやろ‥‥と想うと‥‥やるせないねん そりゃ、兄さんにされた仕打ちは忘れられんよ だけど‥‥‥死んでたら良いとかは‥‥想えへんのや‥‥兄さんは僕の兄やしな」 「俺は‥‥‥夏彦に同情してる晴香さんらが信じられへんわ」 「姉さんは誰よりも兄さんを憎んでるよ だが死んでくれとは想っていないだけや 僕も死んでくれとは想っていない 死なんといて欲しい あのままで死なれたら‥‥僕らは後悔しか残らん 兄さんを追い詰めて殺したのは僕たちやと悔やむしかなくなる‥‥ 兄弟なんやで‥‥僕は兄さんの弟や‥‥ 血の繋がった弟なんやで‥‥」 「‥‥‥ごめん‥‥」 命が永遠の事を想う様に、秋人にとって夏彦は兄弟なのだ 血の繋がった兄弟なのだ 命は配慮が足りなかったと謝った 「命、人の不幸を願うより 人の幸せを願おうよ それが人として‥‥大切な想いやと想うんや」 「そやな‥‥俺も夏彦の死は望んではおらんで! 不器用なりにも会社を護ろうとした想いは解ってる 遣り方を間違えただけやと解ってる 夏彦には誰も相談出来る奴はおらんかったんやな‥‥‥ 家族の中にもおらんかったんやな‥‥‥ そう想うと‥‥修一は悔しくて堪らんと謂っている 俺は秋人に手を出さん限りは‥‥‥許せると想う」 「兄さん‥‥‥生きてるんやろか?」 悪名高き藤崎夏彦の再就職は大阪では無理だろうと謂われている ならば‥‥何処で何をしているのだろう? 夏彦はあの日、車に乗ったまま何処かへ消えた あの日以来、夏彦を見掛けたと謂う人はいない 夏彦の弟の冬樹は兄の居場所を探していた 兄から逃げる為に薬に手を出し堕ちる所まで堕ちた 兄を憎み 憎む事で生きて来た そんな冬樹が今は兄の捜索をしていた 何処にもおらん 見つからん もしかしら‥‥ 家族の胸に‥‥一抹の不安が過る そんな時夏彦から連絡が入った 夏彦に逢った晴香は 「‥‥‥夏彦から連絡が来たから逢ったで! 夏彦‥‥‥別人の様になってたわ‥‥ どうやって生きて来たんやろ? 昔の面影はなくなってて‥‥還っておいでって謂いそうになったわ」と涙ながらに伝えた 夏彦の生存が解った家族は安堵して‥‥ 別人の様になっている夏彦を想った どんな生き方をしたら、そこまで変われるのだろ? 夏彦の姿には贖罪する苦悩に満ち溢れていた やり直せると信じて 秋人は前を向いた 兄さん 貴方が大嫌いでした だけど僕は貴方の何一つ見てませんでしたね だから此処から始めよう兄さん 家族として生きて逝こう兄さん 兄さん 貴方にもかけがえのない存在が出来たなら 共に家族としての時間が刻める筈です 秋人は命に手を伸ばした 命は秋人の手を強く握り締めた 「大丈夫や秋人」 「お前がそう言ってくれるなら僕はまだ逝けるな」 確かな明日を築く為に逝けると信じて 次のステップへと駆けて逝こう お前との愛を信じて逝こう

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